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紙の本

溢れることば。「詩」。そして、それを枯らしたもの。

2003/06/13 04:11

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:奈伊里 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 竹内浩三は、23歳のときに、フィリピン、ルソン島で戦死。誰も見届ける者のない死であった。この全作品集には、小学校時代からの様々な彼の書き遺したことばが収録されている。走り書きやいたずら書きのようなもの、詩あるいは小説といった作品の形になったもの。漫画や、日記、手紙の数々。
 こんなにもことばに溢れた青春を、わたしは知らない。
 ノートに手帖に、原稿用紙に、本の余白に、饅頭の包み紙に、ほとばしるように書き付けられた、ことば、ことば、ことば。
 綴られた文字に書き直しはほとんどない。推敲の跡が見えない。彼の心に何かが興ると、同時にそれはことばとなり、同時に文字になっている。文字は彼の心の写しだ。そしてその写しが、今を生きるわたしを、ドキドキさせワクワクさせ、驚かせ、感動させる。わたしは「詩」に出会う。
 教室で、青空の下で、汚れた下宿で、兵舎の寝床で、書き続けられたことばは、美しかったり、おっかしかったり、痛ましかったり、青春のすべての写しになっている。それら膨大なことばを一つ一つ追いかけているうち、次第に胸がつまってくる。
 こんな素晴らしいことばの泉を枯らしてしまったものを改めて恨む。

 小学校中学年から漫画回覧雑誌を作り始めるものの、ちょっとした風刺記事がもとで、1年の発行停止。それでも次から次へと発行する。中学時代には謹慎処分をくらうことにもなるが、それは面白おかしい日記になる。日大専門部映画科に進学しての東京暮らし。酒と煙草と珈琲と。文学と映画と音楽と。そこではいつも金欠に泣き、父母を失ってから献身的に自分を支えてくれる姉に、無心する。年相応にだめな自分と対峙して、またことばが溢れる。恋をしたら人並みに自らの不可解な心の作用に戸惑い、「おれ自身よりも、お前が好きだ」なんて口説き文句を口にする。出征の日は、チャイコフスキーの「悲愴」を背中を丸めて聴き、外で待つ見送りの人に「最終楽章まで聴かせてくれ」と頼みこむ。陸軍の筑波飛行場では、軍事演習に明け暮れる中、「筑波日記」を書き続けた。回れ右はワルツでも踊っているようで楽しい気さえしたと書いていたり、演習中にラジオから流れるメンデルスゾーンに聞き惚れ、風呂からあがってカルピスを飲んだように、甘い音が体に心地よくしみこんだと書いていたり……。これは、「ソノトキ、ソノヨウニ考エ、ソノヨウニ感ジタ」ことを書き留めた日常の記録なのだ。検閲を逃れるために、この日記は、宮沢賢治の詩集をくり抜いた中に埋め込まれて、姉の元に届けられた。そのことばの泉が枯れる時にも、誰も読むことは出来ないが、きっと、懐に、鉛筆と文字に溢れた紙があったに違いない。

 「骨のうたう」の中で、戻ってきた白い箱の中の白い骨がうたう。「帰ってはきましたけれど 故国の人のよそよそしさや……骨は骨 骨を愛する人もなし……なれど 骨はききたかった がらがらどんどんと絶大なる愛情のひびきをききたかった……故国は発展にいそがしかった 女は化粧にいそがしかった ああ戦死やあわれ……国のため 大君のため 死んでしまうや その心や」
 萩原朔太郎の詩集の目次には、こんな草稿が走り書きされていた。「戦争は悪の豪華版である 戦争しなくとも、建設はできる」これは「戦争」「悪」「戦争」「建設」のところを伏せ字にして、自ら発行する文芸誌に載せたものだった。
 彼は、見通していた。
 この人が生き続けていたら、いったいどんな作品をわたしたちに届けてくれたのだろうと、どうしてもそう考える。彼はこう書いている。「生まれてきたから、死ぬまで生きてやるのだ。ただそれだけだ」。彼の時間は、奪われた。

 高価な本だが、多くの人に読んでほしい。また、この本を知らない人、買えない人のために、全国の図書館に置かれるようにと願う。

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