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紙の本
みんなで降りたら怖くない?
2002/01/29 18:16
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投稿者:服部滋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
A Book of Five Ringsという本をご存知だろうか。五つの輪の本。つい指輪物語のようなファンタジーを思い浮かべがちだけれど、これは、そう、ムサシ・ミヤモートの『五輪書』のことです。ウィスコンシン州はミルウォーキーのアクセサリーショップのお兄さんがこの英訳本をみせて「おまえはなにか武術のたしなみがあるか」と問いただしたそうな。「このまるかわいいわたしにですよ」と著者は口をとんがらせて言う。
お兄さんは『五輪書』を「日本式ビジネスガイド」として読んでるらしいけど、「それがアメリカではスタンダードな解釈である」と著者は言う。ふ〜む。ためしに検索してみると注釈書も出ていてA Way to Victoryと題されている。なんでもビジネスに結びつけるのがアメリカ人で(なんて大雑把な言い方はよくないけれど)、バルタサール・グラシアンの叡智の書だってビジネス書にしちゃうんだからね、かれらは。それはさておき、で、なんの話だっけ?
そうそう、「ニホンジン=武道という発想」についてだった。そういえば、『ゴースト・ドッグ』という映画でThe Book of Samuraiという本を殺し屋のフォレスト・ウィテカーが愛読してましたね。Hagakure。監督のジム・ジャームッシュは日本通のはずだから意図的なんだろうけど、たしかに「オリエンタル・ファンタジー」ってあると思う。ちょっと違うんじゃない?と思うけれど、ひるがえって考えてみるに、じゃあキミは日本についてどれだけ知ってるかね、と問われるといささか心もとない。『五輪書』も『葉隠』も読んだことないです、じつは。
だから「日本人」っていうカテゴリーがそもそもモンダイなんじゃなかろうか。著者がオーストラリアで日本から来た「お目々ぱっちり」の友人とある家を訪問したときのこと。あるじのおばあさんは二人を見比べてこう断言した、「おまえたちは違う部族の出身だろう」。「それ以来、ニホン人だけでなくあらゆるヒトを部族民として眺めてみるようになった」と著者は書いている。そうか、部族ね。日本人という民族のなかにもいろんな部族がいるもんね、縄文人・弥生人だけじゃなく。こんな一節がある。
「アメリカ人らしいアメリカ人なんてじつは概念としてしか存在しないんだとおもうけれど、建前としてでも自分がそうだと信じている、そういうアメリカ人こそは、最後の部族民といってもいいんじゃないかしら。自分たちの文化に揺るがぬ信頼をもってそこを世界のへそと考え、他者を悪玉と善玉にきっちり染めあげることのできるひとたち、「外」が自分たちに攻撃的であるとなれば自分たちの神と正義の名のもとに堂々と名乗りをあげ戦いを挑む人たち、を部族民と呼ぶとすれば」
さしずめブッシュ大統領なんか、最後の部族民の族長じゃないかしら。本人は騎兵隊の隊長のつもりみたいだけど。
じゃあ、この本の著者はどういう部族のヒトなんだろう。『キミハドコニイルノ』(彩流社)というエッセイ集を読んで以来、ぼくはこの著者のファンになった。ふしぎな人だなと思ってきた。この第2エッセイ集を読んで、その魅力のありかが少しわかったような気がしました。新潟に生まれて東京・札幌・モスクワ・メルボルンに移り住み、大阪に住めば関西人になり、アメリカで日本文学を講じるわ、ゲイの友人とフェミニズムについてギロンするわ、『トカゲのラザロ』という詩集やら三島由紀夫賞候補になった小説やらポストコロニアル作家についての評論やらを書くわ翻訳もするわ、こういう人をコスモポリタンと言うんでしょうね。そういうと、そんなレッテル貼らんといて、と叱られそうだけれど。
ところで、よくわからないことが一つある。この本の付録についてる「女の花道途中下車すごろく」ってなんですか? わたしオトコですけど遊ばせていただいていいですか。 (bk1ブックナビゲーター:服部滋/編集者 2002.01.30)
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