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紙の本
思想の問題・政治の問題
2001/12/26 22:40
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
哲学は単独者の不換言語で綴られ、思想は植民地の言語で紡がれ、文学は帝国の周縁で複数言語の間に育まれる。これは誰の言葉でもないし、本書とはなんの関係もない。
「9.11」以後おびただしい量の論考がインターネット上に掲載された。「今回のテロほど、グローバルに情報を伝達するインターネットが、思考の道具としても貴重なものであることを、はっきりと示した事件はなかったといってもよいだろう」(124-125頁)と著者は書いている。そのほとんどがインターネットで集められた文章を手際よく整理して、著者は本書で「9.11テロ事件があらわにしたさまざまな問題を考えるために役立つ」五つの視座を取り上げた。
すなわち、これはテロなのか新しい戦争なのか、文明の衝突か、宗教の衝突か、それは私たちに「現実の覚醒」をもたらしたのか、そして「9.11」以後反グローバリズムはいかにして可能か。私はとりわけ第四の視座が重要だと思う。
メディアなしではテロは意味を失うのだが、それではメディアが流し続ける映像はリアリティを伝達しているのか、恐怖と憤慨と復讐の念をかきたてているだけなのか。グローバリゼーションが進み世界がアメリカ化している現状にあって、はたしてアメリカは「世界」の現実をきちんと認識できているのか(テロはアメリカ市民に「覚醒」をもたらしたのか)。ツインタワーの崩壊という「映画(ヴァーチャル・リアリティ)みたい」な出来事を目の当たりにして、いまや「現実のリアルの世界」の認識そのものが不可能になっているのではないか。
《ぼくたちはいま、現実とフィクションが分かち難く、不分明なままになっている薄明の世界に生きているようだ。ツインタワーは、どこか『風の谷のナウシカ』の巨神兵を思わせる身ぶりでゆっくりと崩れていったのだが、現実もフィクションと映画の世界のうちに、ゆっくりと溶け込んでしまったかのようである。》(91頁)
ここには「問われているのは、ぼくたちの思想そのものなのである」(109頁)と著者が書くときの「思想」の問題が、そしてもちろん「政治」の問題が集約されている。
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