サイト内検索

詳細検索

ヘルプ

セーフサーチについて

性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示を調整できる機能です。
ご利用当初は「セーフサーチ」が「ON」に設定されており、性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示が制限されています。
全ての作品を表示するためには「OFF」にしてご覧ください。
※セーフサーチを「OFF」にすると、アダルト認証ページで「はい」を選択した状態になります。
※セーフサーチを「OFF」から「ON」に戻すと、次ページの表示もしくはページ更新後に認証が入ります。

e-hon連携キャンペーン ~5/31

hontoレビュー

ほしい本の一覧を見る

チェゲムのサンドロおじさん みんなのレビュー

予約購入について
  • 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
  • ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
  • ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
  • 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。

みんなのレビュー2件

みんなの評価3.0

評価内訳

  • 星 5 (0件)
  • 星 4 (0件)
  • 星 3 (1件)
  • 星 2 (0件)
  • 星 1 (0件)
2 件中 1 件~ 2 件を表示

紙の本

著者の豊かな想像力と筆力、人物造形の見事さと物語構成の巧妙さ、そのまえではスターリンでさえ……

2002/04/17 18:15

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:赤塚若樹 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 その当時スターリンはそれこそ権力をほしいままにしており、ひとことでいえば、ひとりやふたり、いや10人や20人、いやいや100人や200人くらいの命などいかようにもすることができた。そんなスターリンを主賓とする「饗宴」での余興の最中のこと、サンドロは思った。「闘わずして負けるのでは、チェゲム男の名が廃る!」

 なんのことはない、婚礼舞踏の踊り手は誰か、という競い合い。だが、その内容はなかなかのもので、「雄叫びをあげると走り出し、その勢いでぽーんと跳びながら、宙で足を折り曲げ、そのまま両膝をついて床に落ち、両手を広げて床を滑り、同志スターリンの足元近くで止ま」り、サンドロとそのライバル、どちらがスターリンのそばまでいかれるか、というものなのだ。最初にこれをしたのはライバルだった。まわりの者たちからすれば、冷や汗どころの話ではない、一歩まちがえば……。ところが、スターリンが微笑み、大成功。今度はサンドロの番だ。
 サンドロが試みると、ライバルよりもはるかにスターリンの近くで止まることができた。またしても拍手喝采。するとライバルも負けてはいられない、「同志スターリンのぎりぎり足元まで、大胆不敵に身も心も投げ出す姿勢で滑って行った」。「やりすぎだ」と思う者もいたが、指導者の爪先からてのひらの幅ほど離れたところで止まり、拍手の嵐。勝負あったと思いきや、ここでサンドロは「闘わずして」と意を決した。何をしたかというと……。

 目で距離を測ると、「騎士が己の顔を兜の面頬で覆う仕草で、頭巾を目の上に引き下ろして縛り、チェゲムの雄叫びを上げると、同志スターリンめがけて突進した」というのだから、おどろきだ。当然みんなの動きが止まり、あたりは静まり返った。だが、サンドロはやってのけた。頭巾で顔を覆い、両手を大きく広げ、跪いたまま、床を滑って行き、スターリンの足許で止まったのだ。
 あまりの意外さにスターリンは顔をしかめ、握りしめたパイプをかすかに振り上げさえした。けれどもサンドロの「身も心も投げ出す大胆不敵さ」、「感動的なまでの無防備さ」、「全身に漲る密かな強情さ」を見て取ると、思わず微笑み、好奇心をもってサンドロの顔から頭巾を外した。たとえばこんなエピソードからも、どんな人物かがわかるだろう「チェゲムのサンドロおじさん」。この本は、そんなサンドロに緩やかに結びつく連作短編集だとひとまず説明しておこう。ごく素朴な印象のレベルだが、どことなくドン・キホーテを読んでいたときのような雰囲気を感じることもあった、とつけくわえておいてよいだろうか。

 さて、スターリンがサンドロの頭巾を外したときにもどれば、この瞬間に踊りの勝負は終わっていた。いうまでもなくサンドロの圧勝だが、スターリンが頭巾の下のその顔をみたとき、ふたりのあいだにひとつの物語が生まれていた。「おまえには何処かで会ったことがあるんじゃないか?」
 その後も延々とつづいていく「饗宴」。そこではスターリンを中心にさまざまな思惑が交錯して行くが、サンドロとこの指導者の物語が再開するのは宴の後、ふとしたことからよみがえった少年時代の思い出のなかでのことだった。サンドロはたしかにスターリンと出逢っていたのだ。「誰かに言って見ろ——戻って来て、必ず殺すからな……」どのような文脈でこの言葉が口にされたかをつまびらかにするのはやめておこう。ここでは、絶大な権力を握っていたこの指導者を、フィクションの登場人物として見事に利用し、物語を巧妙に構成していった作者イスカンデルの想像力と筆力が並大抵のものではないとだけいっておきたいと思う。それはもちろん本書所収のほかの作品についても充分に当てはまることだ。 (bk1ブックナビゲーター:赤塚若樹/翻訳・芸術批評 2002.04.18)

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

2015/05/07 19:35

投稿元:ブクログ

レビューを見る

2 件中 1 件~ 2 件を表示
×

hontoからおトクな情報をお届けします!

割引きクーポンや人気の特集ページ、ほしい本の値下げ情報などをプッシュ通知でいち早くお届けします。