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カニグズバーグ作品集 3 ぼくと〈ジョージ〉 みんなのレビュー
- カニグズバーグ (著), 松永 ふみ子 (訳), 小島 希里 (訳)
- 税込価格:2,970円(27pt)
- 出版社:岩波書店
- 発行年月:2002.2
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紙の本
大人ってカナシイ。
2004/08/23 13:32
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投稿者:ぼこにゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
『ぼくと(ジョージ)』、原題は単に『(ジョージ)』。なんでカッコつきかというと、ジョージは主人公ベンの体の中に住む、実体のない人物だから。温厚で真面目で不器用な秀才ベンの内に潜む、辛辣でクールで聡明なジョージ。いわゆる多重人格のように、本人が気付かないうちに別人格が表出するとかいうことはなく、ジョージは常にベンの内にあり、ベンに適切なアドバイスを与えたり、鋭く愉快な話相手になったりしている。
両親が離婚し母親と幼い弟との三人暮らし、秀才なので年長の生徒と一緒に化学の授業を受けているものの同じ年頃の友人は少ない六年生、というやや特殊な立場に置かれた内向的なベンにとってジョージは、親友であり、父親のごときものであり、また抑圧された感情の代弁者でもある。つまるところジョージはベンが(子供なりの)社会に見出せないもの、社会から得られないものの総体あるいは補償と言うべきか。
繊細で内向性の人というのはどうしようもなく孤独に苛まれるものだけれど、ジョージはそんなベンに、孤独を恐れるべきではない、と訴え続ける。孤独に耐え、自分と向き合う(ベンにとっては自分の内部にいるジョージと向き合うことでもある)勇気をもつことを教え続ける。周囲に迎合することはなんの利益ももたらさない、と諭し続ける。かっこいいなぁ。
ジョージを知るのはベンとベンの弟だけ、という情況で長らく平穏に暮らしていたのだが、ひょんなことから周囲の大人達にジョージの存在が露見することとなり、ベンはカウンセリングに引っ張り出されジョージとの決別を迫られるは、また別の事件に巻き込まれ警察にとっ捕まるは、一転して波瀾に巻き込まれる。繊細で内向性の人というのは散文的な現実のできごとに対応する能力に乏しいものだが、物語のクライマックスになると、ジョージの啓蒙の甲斐あって、ベンはしっかりと自分の選ぶべき道を選ぶのだ。
終わりの方で、警察に拘留されたベンにジョージからひとつ『頼みごと』をする場面がある。昔この物語を読んだ時にはそれが、『めでたしめでたし』風の明るい未来を暗示する道標のように思われたのだけれど、この夏久々に読み返したらまったく別の印象を受けたのでちょっと驚いた。今読むと、熱心にベンに訴えかけるジョージの言葉はまるで別れの挨拶のように聞こえるし、最終章に『彼(ベン)は一生自分の内部(ジョージ)を大切にするだろう。』とあるのも、(かつてはその部分で安心し嬉しくなって本を閉じたはずなのだが)やはり今ではとてつもなく切ない、ヒリヒリとした喪失への前奏のように感じられてしまうのだ。やがて思春期を経て大人になる過程で、生きることに習熟して行くであろうベンは、やはりゆるやかにジョージと別れ、彼の存在を忘れ去って行くのではないか、なんてことを勝手に想像し、ついサメザメと泣いてしまう。大人になるというのはつまり、『安心していられなくなること』なのかも知れない。
哀しい。
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