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イーストテキサスを徘徊するエディとレイ・ボブ。気に入らない人間はあっけらかんと射殺して、当然のように金を奪う。テキサス・レンジャーのルールは、相棒の鑑識官モウリンと共に彼らを追いながら、モウリンの妻と不倫している。
やるせなさとむなしさと他人事のような「シレっと感」が漂う作品。それが、イーストテキサスという土地の雰囲気にぴったり合っている。
イーストテキサスといえば、個人的にはランズデールの「ハップ&レナードシリーズ」の舞台として記憶にインプットされているのだが、その作品を読んだ時にも、湿った空気と暑さ、そして沼や森という「アメリカ南部」のイメージが強く思い起こさせられた。地図で見ると、イーストテキサスはルイジアナに隣接していて、その昔は南北戦争で「南軍」として戦っていることだし、それはもう、アメリカ南部だといってもいいのだと思う。
そして南部といえば、保守的な土地柄で、根強い黒人差別をはじめとした様々な偏見がむき出しになっているイメージ。実際、この作品の主人公のエディが、ほかの民族からは「クーンアス」と蔑称されているケイジャンなら、レイ・ボブは「クラッカー」と陰で蔑まれる貧しい白人で、2人にからむ自称モデルのシングルマザー、デラも貧しい白人。この設定は絶妙だ。もしこれが黒人やヒスパニック系などの、いわゆる「非白人」だったら、このやるせない雰囲気は出なかったと思う。
登場人物たちは、全員が行き当たりばったりに生きている。そして、何かしくじることがあれば、すべて他人のせいにして周りを呪う。自分の愚かさは棚にのせきって。個人的には唯一、エディの繊細さに惹きつけられたけど、彼だって、死んだ相棒を沼に捨て去るのだ。自分の未来のために。
後味はけっして良くないが、淡々とした終焉は現実的ではないのに、妙に説得力がある。ささやかな幸せを手に入れたかに見えるエディとデラの未来も、いつでも儚く崩れ去りそうな危うさを予感させる。恐らく、森と沼を離れたとたんに、崩壊するんじゃないかな、と思わせるような。