紙の本
海辺のかけら
2003/01/26 00:41
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:童夢 - この投稿者のレビュー一覧を見る
喪われてしまったもの 喪われつつあるもの 喪われたかもしれないもの…。
そんな、かすかで微妙な形の定まらないものへの憧憬を思い起こさせてくれる物語である。
田村カフカは15歳という思春期。オトナへ成長のきっかけに、自分にかけられた呪いを抱えて家を出る。これは、性的に成熟した(ありていに言うと、女と寝ることができる)力を持ちながらも、それにとまどいを感じつつ「この世」」でどうやって生きてゆくかが皆目わからない少年の、イニシエーション(通過儀礼)の物語である。
また、特殊な事情でオトナになることができなかった人物と、かつてオトナという概念を知らなかった人物の物語でもある。ナカタさんとホシノ君だ。彼らは子供じみた純粋さを持って「入り口の石」を開ける。ナカタさんは「入り口の石」をあけることに自分が生きてきた意味を体現し、ホシノ君は、「入り口の石」に語りかけながら自分を見つめる。
一方、田村カフカは失われてしまったものが永遠に損なわれない世界に一度は身をおくが…。喪われてしまったものが永遠に損なわれない世界は、ある種の人々にとって酷く魅力的なのだ。
学校や会社に通いつづけ、現実のレールに乗って一直線に進むわたしたちに、この本は違う世界を垣間見せてくれる。「この世」でオトナになり、生きつづけることの意味をこの本は立ち止まらせて考えさせる。
しかし一方、このネバーランドは重大な欠陥を持っている。あまりにも田村カフカの視点に寄り添いすぎているという欠陥だ。この物語には田村カフカにとってのみならず、他の登場人物にとっての「他者の視点の照射」がまったく存在しない。田村カフカにとって、この物語にとって、都合のいい展開しか用意されていない。ジョニ—ウォ—カ—ですら、カフカに対して関わらない。カフカの思い込みで話が進むのだ。二人の女性との関係にしても。カフカにとって、この物語にとって、「他者」は存在しない。そういう意味で、この話は閉じられた話であり、リアリティのない物語である。
「春樹ワールド」に乗れるかどうか…それが読者のこの物語の評価を分けさせるだろう。
海辺の石のかけらはそれに美を見出す人間にはこの上なく貴重で価値のあるものだが、見出さない人間にはただの石ころでしかない。
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今まで私はどんな本を読んでも、作品を見下ろす作者を更に見下ろすような視点で、かなり客観的に「本を作者と共に読んでいる」立場に立つようにしていたのだが、この本はそれが出来ない。作者の取り囲んだ本の世界に投げ込まれているような感覚になる。作者の陰だとか意図とかいった外部的なものが作品の中に見えないのだ。
まるで夢の中。先が読めないのに続きが見たくてしょうがない。しかし一気に読み進めるのが難しい。その本は、ずっと読んでいるのが「怖い」のだ。読み続けていると、覚せい剤に麻痺してしまうような、作品に洗脳されているような気がする。
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村上の描く主人公である「僕」のイメージは「パスタをゆでるのと服にアイロンをかけるのが上手な妙に落ち着いたいけすかない」感じの人。今回も似たような感じか。村上春樹的比喩も満載。
でも彼の作品はこうでなくては。
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なぜ評価が高いのかよくわからない作品。正直『ナニコレ?』と。
ぶっちゃけつまらないってば。まあ、そこいらにたくさん転がっている糞小説なんかよりはよっぽど面白いんだろうけど、これはきっと期待しすぎたってやつだな。
でもやっぱつまらなかった。
(上/下)
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おもしろい!最近図書館に興味があったのと猫好きで
はまったというのもあるが。。。
難解な表現は相変わらず多いが、そこがまた
もやもやしてよい。
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高松というのは、住んでしまえば普通の地方都市。まして地元民にとって四国という島は、そこから出ることを目的にしてしまうものだったりする。それがとりわけ村上春樹さんの小説の舞台になると、ノスタルジーをかきたてると同時に桃源郷のように見えてくるのだから不思議です。そういえば冒頭、讃岐うどんの記述の部分だけが小説を離れて「恐るべき讃岐うどん」か「TJ香川」を読んでる気にさせてくれると思ったのは私だけかな。
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主人公は15歳の少年。東京から家出をしてきて四国のある図書館で暮らす。カフカというもう一人の自分。予言。すべては象徴であり、すべては仮説である。
短い期間の出来事だけど、色々なことが起こるので整理しにくい…。
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不思議ワールド…。理解できない謎の部分もあるんだけど、それでも読み心地がよくてどんどん村上ワールドにはまっていきます。
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なんかむっちゃこの本がメディアで取り上げられていたので、親が図書館で借りてきたので、読んでみた。
うーん。島田雅彦の方が良い…。
と思ったんだけど、どうよ?
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久しぶりに読む村上春樹はやっぱり表現が素敵で、読んでいて落ち着くのですが、あまりに乱読を続けたせいか少し物足りない気がしました。でも細かい描写は独特でうっとりさせられます。
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私は村上さんの作品に出てくる主人公の男性がとてもすきです。寡黙でまじめで、話し方が落ち着いていて、でもユーモアがある。
カフカくんは、まだ若々しくとても荒々しくてでも繊細な感じでした。
ナカタさんがとてもすき。
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村上春樹を知って2ヶ月半。
それ以降カナリたくさんの、彼の本を読んだ。
感想としては、短編集は概ね楽しい。長編は概ね退屈。
でも“世界の〜”だけは凄まじく良かった。
カフカ。世界の〜、にちょっと似てるね。
違うけど。
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やあぁっと読みました。ずいぶん時が経ってしまいましたが。村上春樹特有の不思議な設定が心にもやもや残り、それを早く解決したい余り次々ページをめくってしまう…そんな感じで上1日、下1日で2日で読み終えてしまいました。作中にいろんな小説の話が出てくるのは15歳を意識してでしょうか?実際、少年は図書館で勧められた本を読むシーンがありますよね。『少年カフカ』を読んだ後に、もう一度読み返したいと思っています。
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レビューを見ると賛否両論っぽいけど、基本的に村上春樹は好きな方なのでわたしは賛の方で。不思議さを不思議にしないところがうまい。
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[データ1]
15歳
彼は長身で、寡黙だった。金属を混ぜ込んだような強い筋肉を持ち、
世界でいちばんタフな15歳の少年になりたいと思っていた。
[データ2]
中野区
東京都中野区にもしある日、空から突然2000匹の生きた魚が
路上に落ちてきたら、人々は驚かないわけにはいかないだろう。
[データ3]
ネコ
多くのネコたちは名前を持たない。多くのネコたちは言葉を持たない。
しかしそこには言葉を持たず、名前を持たない悪夢がある。
[データ4]
図書館
古い図書館の書架には秘密が満ちている。
夜の風がはなみずきの枝を揺らせるとき、
いくつかの想いは静かにかたちをとり始める。
[データ5]
四国
県を越えて陸路で四国を移動するとき、
人々は深い森と山を越えることになる。
いちど道を見失うと、戻るのは困難だ。
十五歳になった僕は二度と戻らない旅に出た。
(帯より)
時間のループと空間のループが複雑に絡み合い交じり合っている。
15歳の少年カフカはどこか遠いところへ行こうとしながら、そのループの内側にいる。
行くべき場所、会うべき人、するべきことが初めから決まっているように。
彼は結局求めていたものを失うと同時に、それを手に入れたのだろう。