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(上巻の感想からの続き)
良くも悪くもエンタテインメント性が濃く、前回までに見られた知的好奇心をくすぐるミステリ的手法はなりを潜めているかのようだ。それはクラウチの真相やムーディの正体の暴露シーンなどをとっても、知的ゲームというよりは通俗小説のあざとい演出にしか思えなかった。
最後に明かされるリータ・スキーターのスクープ取得の謎はなかなかだったが、文中にはっきりと布石が配されているようには思えなかった。
他にもなぜクラムが3つ目の課題のときにセドリックに魔法を仕掛けて倒そうとしたのかなど細かい事件の詳細が語られなかった理由が棚上げにされた。
今思いつかないが他にもこのようなストーリー、設定が見受けられたので今後は気をつけてほしいと思う(次作以降からの布石なのかもしれないが)。
ただ今回改善されたのは3巻までに見られた主人公ハリーが困難に打ち勝つ時の御都合主義に変化が見られたこと。
例えば1巻での闘いのときに組み分け帽子から剣が現れたり、不死鳥が現れたり、更には時間を遡る時計が現れたり、シリウスからファイヤーボルトがプレゼントされたりとハリーを身贔屓するような設定があり、正直、納得行かないところがあった。今回はそれを逆手に取って物語の仕掛けに上手く融合させているのがよかった。
ハリーが三大魔法学校対抗試合の代表選手に選ばれた事、ムーディがハリーに第1の課題をクリアするヒントを与えた事、ドビーが鰓昆布をハリーに与えた事、ルード・バグマンがやたらとハリーを助けたがる事、これら今までハリーに対する特権のような書かれ方がされているのみだったのが、きちんと理由があったことに感心した。恐らく作者へのファンレターにもこの件が書かれており、作者なりに改善したのではないだろうか?
今回はダンブルドアが魔法省大臣のファッジと決裂したり、シリウスとスネイプが共同戦線を張ったり、シリーズの大きなターニング・ポイントとなる作品だろう。
いよいよヴォルデモートとの全面対決が始まりそうな感じである。
次作で気になるのは、ヴォルデモートとの全面対決の準備期間ならばどのように魔法学校生活と対決の準備の模様を書くかである。頑ななまでに当初の設定を今後も持っていく作者の手腕が楽しみだ。