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紙の本

無音の記憶

2003/03/29 21:29

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:栗山光司 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 身近に死がやって来る。生者であった時、見えなかった諸々が浮かび上がる。近しい人が己の記憶を縦糸に、ひとりの懐かしい人の物語を編み上げる。女たちはひっそりと、死を見つめる。そうやって、六編の佳品に寄り添う。
 
 私が一番好きなのは表題の「菊日和」だ。姉が弟の命日に墓へ行くと、皮を剥いた蜜柑が供えられていた。そこから、様々な記憶が引き起こされ、どこかで、見たような、聞いたような物語が立ち上がる。でも、嫌みはない、心地よく物語の流れに乗って、良い気分になった。姉弟物語はこの国に数々の名作、佳品があるが、私にもかような刷込があるのか、ずぼりと、感情移入してしまった。作者の読者層は私のようなオヤジでなく、女性層なので、私と年の違わぬ女の方々はもっと、深く感情移入すると思う。
 蜜柑の果汁を口に含んで酸っぱさに目を閉じると、菊の香りが鼻を擽った。
 姉の恵は弟慎吾の遺児を探り当てる。神社のななめ向かい側に、鄙びた団子屋があった。
 /恵はその顔を一目見た時、自分の大きな鼓動が聞こえたような気がした。それは、まぎれもなく慎吾の子であった。/女の子は、団子を焼いている老人に“ただいま”と言うと、スキップするようにほの暗い店にはいって行った。

 「病人の船」は作者がわざわざ、私小説といってよいと、断りを入れている。世界一周クルーズ船に講演会の講師として乗船することになり、学生時代の同級生カオルがその情報を聞き知って、乗り込む。彼女は末期癌に冒されているが、主治医の反対を押し切って強引に我儘を通したのである。別段、学生時代、深い付合いがあったわけでなく、作者は戸惑う。女腕でインテリア、宝石店を離婚してから、立ち上げ、バブル経済に乗っかって、今は店を処分したが、結構な資産を持っていた。ただ、自己中心でやってきた付けで弟とも疎遠、金目当ての取巻きはいるが、親友も離れて行った。だから、作者が身構えるのは当然である。だが、彼女は作者に敬意を表しているのか、謙虚でしおらしい。ラウンジ等で御馳走したり、豪遊するに決して、作者に勘定させない。そんな時だけ、強引である。カオルは作者に気配り良く気を遣う。作者はシンガポールで下船する。東京に帰ってからも気になった。思えばカオルに対して、私は冷淡過ぎたと…。
 とうとう、カオルは病状が重くなって、ニューヨークから、東京の病院に緊急入院する。見舞いに行った時、自作短文の添削を頼まれる。その要旨は病人がベッドで縛られたままではみじめ過ぎる。イルカの躍動するのを見た時、私がつくづく感じたのは、病人が旅をしたり、故郷に帰ったり出来る「病人の船」があればということだった。添削の必要のない立派なものであった。一億円の金を残して死んだが、葬儀もなく、火葬も身内のものは誰もいないで行われ、柩は読経もなく、観音崎の先で散骨を終える。結局、私はカオルのことを聞けば聞くほどわからなくなるばかりだったと、作者は嘆くが、読む方も雲を掴むような釈然としない[終わり]であるが、それが、私小説の証かも知れない。

 最初の三編「流星」「火事明かり」「青海波」には残酷な死がある。その余韻が「病人の船」で鼻白む現実を突きつけられ、「紅梅」「菊日和」で浄化され、余情を残して六編が合体して合奏曲として哀しく、誰でも思い当たる記憶の琴線にシンクロする。夕陽が沈む黄昏時の、あの無音の記憶。
 

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