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紙の本
現代小説の豊かな達成
2005/09/12 23:18
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:けんいち - この投稿者のレビュー一覧を見る
『水滴』での芥川賞受賞に続き、表題作は2つの文学賞を受賞したのだが、そうした文壇的・社会的とはかけ離れたスケールにおいて『魂込め』は傑作と呼ぶにふさわしい現代小説である。
冨山一郎は『戦場の記憶』で、日常と連続した場所として戦場を捉え(もちろん、そのことは戦場から日常への連続をも意味する)、そうした位置の往還によってしか、貧しい図式化に収斂しない「戦争・戦場の語り」は難しいのではないかと、その語り方を問題化したが、目取真俊の一連の小説群もまた、こうした新しい「語り方」の小説としての実践であるといえるだろう。
「魂込め」では、まず、沖縄の現在の時間が、確かな手応えと共に書かれ、グロテスク・リアリズムとも呼びうる手法で、非日常的な出来事が日常のなかに描かれていく。そのうちに、作品世界は、歴史的にも重層化され、まさに日常に忍び込むように沖縄戦の消去し得ない「記憶」が回帰してくる。こうした文体の世界を力強く描き出す「力」は、本土/沖縄や、過去/現在といった図式を突き抜けて、過去ではない現在に「沖縄」という問題を据え直すと共に、文学としても優れた達成をみせるだろう。
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