紙の本
残酷な切れ味ある短篇集
2024/02/18 17:15
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:H2A - この投稿者のレビュー一覧を見る
江戸川乱歩、夢野久作はじめ昭和初期の作家たちのルヴェル評が後書きとして多数収められている。が、そこでたびたび指摘されるヒューマンタッチという形容には賛成できない。ペーソスとか残酷という形容ならまあなるほどと思うが、この作者の独自性は読者を突き落とす残酷さにこそあるように思った。好き嫌いで言うとかなり好きな作風。どの作品も簡潔で凝縮されて無二の切れ味。各篇はせいぜい10ページ程度の長さしかないので、300ページ程度のこの本に31作も収録されている。これはおすすめ。
紙の本
古くて新しくて短くて、深く濃い。
2003/04/13 17:36
2人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:のらねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
さすがは創元社。平然とさりげなく古くて新しい作家を「新刊」として刊行するもんだ。
「古い」というのは、田中早苗による訳文の語彙を当たれば一目瞭然。
「衣嚢(かくし)」、「草臥(くたび)れた」、「完爾完爾(にこにこ)」など、今日ではほとんど使用されることのない、一見して古めかしい、けれども味わいのある表記の数々も、実際に読む段にはさほど不自然には感じられない。これは、訳文が日本語としてかなり洗練されているためでしょう。
本書の解説によると、作品が日本で紹介されたのは大正十一年頃から新青年で、というのだから、「年代物」、の作家であり作品であることは確かだ。当然、作中で描かれる風俗も十九世紀末から二十世紀初頭あたりのものになる。例えば、「乞食」や「娼婦」がよく題材にされるが、これは現在の「ホームレス」や「援助交際」とは似て非なるもの、本物の「貧困」とか「下層階級」という言葉が真実味を持っていた時代の話だからだ。お話し舞台が古いからといって、内容までが陳腐化しているとは限らない。むしろ、類型的に造形された登場人物の心情と行動は、類型的な描かれているが故、不思議な説得力を持つ。たいていの作品が、日本語に直して四百字詰め原稿用紙二十枚以内の短さであるのも、肝心の部分だけシャープにすぱっと決めている感じがしていい。
しかし、巻末に訳者と解説者の解題があるのはいいとして、それとは別に、小酒井不木、甲賀三郎、江戸川乱歩、夢野久作らの「ルヴィエル賛歌」が収録されているのは、豪華というかなんというか。しかも、どれもこれもべた褒めに近い内容だというのは……。いや、わかるけどね。
酩酊亭亭主
投稿元:
レビューを見る
10ページ前後で人間の心のうちを一瞬にしてあからさまにさらけ出す力量がすごい。あと、最後に「新青年」という雑誌で活躍してた方々の寄稿文も面白くてかなりなお得感。
投稿元:
レビューを見る
これほどあたたかな短篇ミステリ小説ってかつて読んだためしがないものだから、ずっと胸に抱いていよう。『生さぬ児』の母親の切ない哀しみの描写に息が出来なくなってしまうし、『父』の息子が年老いた父をいたわるさま、父が息子を想うさまにこころが洗われるから。
投稿元:
レビューを見る
幻想的で美しい珠玉のお話だらけです。
人間の内面の残酷さや静かな狂気を緩やかに描かれているのですが文章がとても綺麗で柔らかく読みやすいと思います。
思わずはらりと涙が零れ落ちてしまうそんな胸を打つような、もどかしくて切なくて狂おしくて堪らない、ずっとしまっておきたい感情を揺り動かされるような。大切な大切な一冊です。
一篇一篇はページ数が少ないのですが、そんなことを感じさせないぐらい内容はどれも印象深く充実しています。
出版されてすぐに買ったのですがまだ私の中でコレを初めて読んだ衝撃に勝てる本とは巡りあっていません。
投稿元:
レビューを見る
好きな人はきっと好き。
ミステリー風味の不条理短編オムニバスへようこそ。
善人でも悪人でもない人が善人にも悪人にもなる、登場人物が善人なのか悪人なのか、それは読む人次第。
投稿元:
レビューを見る
暗欝とした思いを全て持っていってくれる程に底の深い、人の闇。
これら主人公に同情したり、分かるわー!と感情移入するのはとても危険な気がしたけど、次の物語をのぞくのが止められない。
「ふみたば」だけ、最後の一行に拳をかかげて「イェーイ!」となってしまった。こういうのも人としてどうなんかな。
投稿元:
レビューを見る
ミステリというか、怪奇幻想の小品集。
ルヴェルは「フランスのポオ」だそうですが、納得。
訳文も素晴らしい。仮名遣いが改められているのもあるけれど、いま読んでも全く違和感がありません。
随分前に買ってずーっと積んでたんだけど、卒論書く前に読めばよかったな。
巻末に雑誌「新青年」の作家らによる解説?があって、そこに夢野の名前があったから。笑
狂人や乞食というモチーフは、夢野に通じる、けど、そこに対するまなざしが違うように思う。(あくまで翻訳だから、細かなニュアンスは分からないけど、良くも悪くも訳者は信頼に値すると思うから…)
投稿元:
レビューを見る
「フランスのポオ」と評された、短編の名手らしい。
書かれた時代が時代なので今となっては古めかしい作品もあるが、人生の悲哀をしみじみと感じさせるものが多く、じっくりと浸りながら読んだ。
中で好きなのは「フェリシテ」「乞食」「幻想」。
投稿元:
レビューを見る
何だったかもう忘れたがメタものを読んでいたら「グランギニョールでルヴェルがかかって云々」と気になって名前だけは知っていたが、読むのは初めて。一編ずつ毎日読むのが寝る前の楽しみだった。細やかで恐ろしく、もやっとしたところが魅力。リラダンに少し雰囲気が似ている。
投稿元:
レビューを見る
大正時代後半から『新青年』などに掲載されたルヴェルの作品を集めた短編集。概ね一話で一人、人が死ぬ。解説で「そこにモラルや教訓はない。ただの毒だ」とまで言わしめる陰鬱さだが、本文の後に寄せられた文章がすごい。江戸川乱歩と夢野久作(訳者含めほか三名)が書いている。特に乱歩の文はルヴェルの魅力を『童心』と喝破しており、なるほど確かにそれは通底していると思わされた。そう、ストレートな感情が思考や打算に先行し、そこから生まれる悲劇が描かれているのがルヴェルなのだ。『ペルゴレーズ街の殺人事件』『蕩児ミロン』が好き。
投稿元:
レビューを見る
あまりにまっすぐに孤独や妬みや歪みを描くのでのっけからずっと恐ろしかった。物語が紡がれているというか、まるで記録写真か何かのように真っ正面から衒いなく描かれている。一編10ページ〜20ページほどの短編集。
「或る精神異常者」「幻想」「碧目」「フェリシテ」「小さきもの」が特に凄味があった。「フェリシテ」は読むの二回目なんだけど、ちょっと泣きそうでした。
しかし、文春文庫のあのアンソロジー、いれるなら「フェリシテ」よりも「碧目」だろうと思う。
投稿元:
レビューを見る
大正時代『新青年』に訳出されて好評を博したという、
モーリス・ルヴェル(1875-1926)の短編集。
作者ルヴェルについては資料に乏しく、
あまり詳しい情報がないらしいが、
外科医でもあったと解説に記されている。
ただ、フランスのポオと評されたという噂から、
濃密な怪奇と幻想の世界を思い浮かべていたのだが、
期待した雰囲気とは少し違っていた。
グラン=ギニョル劇場の脚本に
原作として採用されたネタもあるというだけあって、
非情さと諧謔が際立つ作品も含まれるのだが、
どちらかというと、
人間愛の美しさと悲しみ……といった風な、
ペーソスが主成分。
もちろん、それらは小説として充分面白いが、
個人的な趣味から言うと、
容疑者が無茶(!)な証拠隠滅を図る
「ペルゴレーズ街の殺人事件」や、
泉鏡花「外科室」の歪んだ鏡像のような、
手術を巡る恐怖を描いた「麻酔剤」などが好ましい。
ところで「夜鳥(よどり)」とは如何に?
と楽しみにしていたら、
これは表題として掲げられただけだったのか、
同タイトルの小説は収録されていませんでした、残念。
投稿元:
レビューを見る
読んでいるときはそこまでいいと思わなかったが読み終わって一年以上たった今でも印象深い短編集。雰囲気が少し暗いというか不気味なので、余計に物語に没頭する読書ができたのかも?
男が殺人の記憶を捏造される話は演劇のようで面白かった。妻を亡くした男とその息子のやりとりを描いた話は淡々としていたが何か起きるのではと思わせる、しかしあたたかいラストだったような。
投稿元:
レビューを見る
ああ、凄いねこれは。凄く気分が暗くなる。良いおわり方してるのもあるけど、どうしようもなく嫌な気分になる終わり方のもある