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『アフリカの神話的世界』(1971年、岩波新書)のほか、さまざまな機会に発表された著者の論文などを収録しています。
『アフリカの神話的世界』は、『道化の民族学』(筑摩書房)とおなじく、アフリカの神話におけるトリックスター性をもつキャラクターに着目し、説話的な構造と社会構造との関係について構造人類学的な視点をまじえながら著者の考察が展開されています。ところで、こうした著者の関心の背後にあるものがある意味で率直に語られているのが、本書の最後に収録されている「黒い「月見座頭」」と題されたエッセイです。著者は、盲人を愚弄する野兎の登場する神話を紹介し、現代の「ヒューマニズム」に対する素朴な信奉の盲点をつくような問題に目を向けようとしています。
おなじく著者の批評性がじゅうぶんに発揮されているのが、朝日新聞の記者である本多勝一の文化人類学に対する批判への反論として書かれた「調査する者の眼」というタイトルの文章です。著者は、文化人類学が第三世界に対する帝国主義的な支配の片棒をかついできたという本多の批判を受け流すように、そうした批判がわれわれ自身の批判的思考の足場へと向けられなければならないことを指摘し、そうした自己反省的なまなざしの獲得をめざしてきたことに、著者の人類学者としての矜持が語られています。
ほかに、政治をたんなる権力の中心化の過程とみなす発想を乗り越えて、政治のもつ演劇性にまつわる問題を掘り起こし、江青の裁判における振る舞いについての考察にまで説きおよんだ論考「政治の象徴人類学へ向けて」などが収められています。