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紙の本
レクチュール・オブ・カメラ・アイズ
2003/11/12 18:39
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:脇博道 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書を読みつつある時の、文字と眼の距離は約30センチ。だが著者の
事物を観察している距離はそれより短いのではないかと思うほど対象に
接近しているかと思えば、視線は突然ズームアウトされて遥か先にある
事物を記述しているのであるがその時も著者の意識そのものはこれ以上
接近する事は不可能であるかのように細部が刻々と記述されていくので
こちらの視線も本という物体そのものとは一定の距離を保持しているに
もかかわらず、事物との距離感を常に変換しつつ読み続ける事が要請さ
れる訳であるし、この事は本書に限らず、著者の作品全般にいえるので
あるが、にもかかわらず新鮮なイメージが感じられるのは、クロード・
シモンという希有の表現力を有した作家の偉大なる才能というほかない
のである。
やはり連続するストーリーというものはここには存在せず、路面電車か
ら子供(幼少時の著者)の眼から観た光景が延々と記述されるのである
が、これらがすべて記憶を呼び起こした記述であるとすれば(おそらく
そうであろう)記述の質感は全く異なれども、ナボコフの、記憶よ語れ
をただちに想起せざるを得ないのである。が、なんと詳細に記憶された
事物と光景であるのだろう! 精巧なカメラがここでは作動し続けている
ようであるし、過去の光景は文体の尋常ならざるテクノロジーによって
読んでいる本書の更に先1メートル程の位置に顕在化されるのである。
ロラン・バルトは、作家ソレルス、なる名著のなかで、読者とは著者の
肩越しで書き続けられるテクストを読んでいる存在であるというイメー
ジを記述しているが、更にその先に著者の記述たる映像が投射されてい
るとすれば、シモンの手法は如何に表現したらいのであろう。事象と光
景をただ単純に記述するだけでは勿論このようなイメージは顕在化しな
い事は、自明であるし、さりとてマジック・リアリズムのようなマニエ
リスティックな手法を用いている訳でもない。現実の光景そのものであ
るにもかかわらず、次第に幻想的なイメージに意識が変換していくこと
を、読者は刻々と感知していくのみである。
巻末には、訳者である平岡篤頼氏(多くのシモンの作品を見事に訳出さ
れている事で知られる)シモン論的あとがき、と題されたシモン読解の
為の、このうえないテクストが掲載されている。こちらを先に読む事も
本書を楽しむ為の極めて有効な手段であると思う。想像力を喚起して止
まないこの偉大なる作家の、映像テクストにアクセスする為の、好個の
一冊である。
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