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古書購入。
ホラーというよりSF。現代。サヴァン能力と異次元。
読んでいて、つい「夢の樹が接げたなら」を思い出してしまった。
眠り続けさせられた比室アリス。十四歳の少女。7年前、六十人以上を精神障害に叩き落し、二人しかまともな生活に戻ってこれなかったという、惨事を引き起こした化け物。
彼女が笑い、歌うとき、世界は滅び去る。
通常世界が1次元と表される時、アリスが表現する世界は9.7次元。
理解しきれない高次元の言語を押し付けられた者は、「わたし」や「世界」を見失ってしまう。
ある日、アリスは起きだして、笑い、そしてSと呼ばれる現象を引き起こす。
それは歌うこと。ただそれだけ。無限に増えつづける虹色の蝶。
完全防音の巨大ドームから手違いから外へと運び出されたアリスは、夏休み中の住宅地に解き放たれてしまう。
読みやすいけれど、わかりにくい(笑)
でも好きだな、この話。
アリスを閉じ込めておいた権藤という責任者は、かなり良い人。こういう話で、文部省の手先だったりすると、必ず嫌な人だったりするのだが。
そう。嫌な奴、っていうのが出てこなかった。だから読みやすかったのかも。
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これは面白かった。
ジャンルとしてはSFになるのかな。っていっても科学というよりは脳科学・生理学的な方面で、メインは世界の認識のしかたの話。
そういう話が出てこなくて、何が原因かもよくわからないまま人が狂っていって一体何が起こってるんだ!?っていう展開の序盤はちょっとクトゥルフw
舞台が日本だからなんだろうけど、軍事利用するわけでもないのになんで後生大事にアリスを「保護」し続けてんのかなーと…誰も、この娘は殺してしまったほうがいいんじゃないのかって言い出さないのが不思議。誰か一人くらい言い出してもいいはず。もしくは、外科的に「笑顔」と「声」を取り除いてしまうくらいの措置をしてもいいと思うんですが…見た目が可愛い女の子だからなんですかねえ。
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世界を崩壊に導く「サヴァン能力」を持ったアリス、彼女がかかわっていると思われる60人死亡の事件、そして彼女を隔離している厳重な装備の建物と研究組織。
色々緊迫感あふれる設定が、現代にうまくマッチしています。
なんだか難しい話かと思いましたが、意外とスラスラ読めました。
思ってたより、怖くはなかったです。
スケールは大きいのですが、少し現実味に欠けたからでしょうか。
事件の日数的には短いのですが、結構分厚い文庫ですし、描写や事例が事細かに書かれていて、想像するのがすごく容易でした。
文章もやや固めですが硬すぎず、場面転換もいいころあいであって、電車で読むのに困りませんでした。
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中井拓志氏の作品の中で最もパッとしないもの、というのが個人的な評価なのだが、他の方々の評価が総じて高めで少々驚いている。
サヴァン、フラクタル、てんかん、脳科学 (ただしこれには少々疑問符) といったトピックを混ぜ、幾何学的な世界観 (暗喩でもなんでもなく、本当に幾何学的!) を描いたという点で、極めてユニークな一作。虹色の光景、世界観を失った人々の描写などは妙にリアリティーがあった。
また「子供は化物」(少々表現が乱暴だが…) というのが一つのテーマだったのだと思うが、これは前作「クォータームーン」と共通して著者が表現したかったことなのかもしれないと感じた。
しかし物語の展開の起伏が少なく、登場人物の魅力もいまいちだったのが残念。結局、事件の前後で何か変わったのかといえば、ほとんど何も変わっていない気がするのだが…。
また後半の脳科学的 (?) 説明は蛇足かなと。もっともらしく理論武装するよりは、適当に流して書いたほうが良い気がする (適度にオカルト要素を混ぜて、フィクションとしての面白さに昇華させる鈴木光司みたいなアプローチの方が私は好きだ)。
ところで読んでいて大友克洋の「AKIRA」を思い出したのは私だけですかね。
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15/02/20
期待してなかったけど面白かった。
難しい話とファンタジー。今まで考えたことない見方、捉え方に触れられて刺激的だった。
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夏の角川ホラーまつりはじめるよ。ということで、ハズレっぽいタイトルと表紙のを取り上げてみたら…あれ、結構まともだ。
東晃大病院で、医師看護師など68名が死亡または意識混濁し、そのまま回復しなかった事件の中心にいた少女アリス。事件の原因とされ、周囲を危険に陥れるため、房総半島に隔離されていたが、7年の年月を経て覚醒し、それを目にした職員が次々に倒れていく…。
ありがちなパニックSFではあるだけど、それなりに背景の積み上げを頑張って、原因不明で逃げたりしないのは評価できる。例えば以前の事件で効かなかった、または復活した人の脳の問題や、新たな犠牲者のうちで聞く人、効かない人の理由付けなどがされているのは、角川ホラー作品でも珍しい。
ただまあ、9Hz(低すぎない?)で癲癇が起こるから、抗てんかん剤で、とか、右脳左脳など、一応設定したが突っ込まれどころもたくさんある。
で、まあ、いい作品かと言われるとそうでもないわけで、理由の1つは作者の頭の中で作り上げたけど、読者まで伝わっていないメカニズムであろう。9.7次元というちょっと中途半端で想像のつかない世界観を、目で見るのか口から発される(9.7次元を表現する)言葉を聞くことで、その世界に取り込まれてしまって現世を失ってしまうのだが、9.7次元がフラクタルで成り立っているとか、そこにあるものが、モンシロチョウという陳腐なものであるとか、いろいろと疑問が生じる。また、見た目なのか音なのか、それらが次元を超えることによって、遮蔽された空間に届くのかなどなど、設定したは良いけれども、わからないものをわからないまま書いたというところは、読んでいて辛い。
また、人物の設定にも少なからず無理があり、結局誰を中心に読めばよいのかわからないのも辛い。
結局の所、本題が2/3程度で終わってしまい、最後の1/3は本間という、主人公違うんかい?という男を使っての作者の世界観の自問自答、あるいは言い訳がダラダラと続く。世界観の設定と人物の設定がうまく行っていなかったというところではないのか。
単純に、二次災害が起こったまま収束のほうが良かったのだろう。
美少女と千葉の片田舎で、「とあるところの大事件」というスケールの小ささや、出てくる人間が目の前の事件のこと以外はほとんど語れない、世界観の広がらなさが、海外SFと比べてしまって、これが日本SFのだめなとこなんだよなあと思ってしまう部分なのだろう。
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再読。
9.7次元のうんたらかんたらは、理解させる前提がないのだろうな、と思う。
作者の脳科学を題材にした作品群のうちの、これが1作目ということになるのか。
作者の少女(若い女)好きなところも健在。
いや、どの作品も例外なく物語で重大な役割を演じるのは10代から20代の女なんですよね、この人の場合。そういう意味で「好き」なのかなぁ、と。
なお、実際に脳の半分を欠くだけでは、このような障害は生じえないはず。そこはまぁ、お話ですから。