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紙の本

世にも稀なる『大翻弄小説』

2003/04/11 10:19

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:キムチ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 文庫版で4冊分。超弩級大作ゆえに読者に強いる労力も半端なモノじゃないってこと(~_~;)。これほどまでに難渋したのはキングの『IT』以来でしょうか。とは言っても辛く苦しい訳じゃなくて、読み手を鍛える厳しさを受け止める楽しさとでも言いましょうか。並の小説数冊分がゆうに飲み込まれてしまうほどの奥行きの深さに呆然としつつ、世にも稀なる『大翻弄小説』に身を任せる『もう、どうにでもしてっ!』という感覚を存分に味わい召されよ!

 メランフィー母子の辿る数奇なる運命。波乱万丈! 狂瀾怒涛! あなたは誰? ここは何処?状態が読者に情け容赦無く波状攻撃を仕掛けてくるのだ。幾層にも織り成された謎が立体ジグソーパズルとなって、何世代にも渡る英国貴族一族の血で血を洗う骨肉の争いに知的な要素を注入する。それに付けても複雑怪奇な血族構成。だからこそ面白い。 ハッファム荘園を巡る相続遺産の行方は、ラストまで誰にも分からない。複数の遺言書の存在。命を賭けて奪取した遺言書は、次の遺言書の存在であっさりひっくり返り、そして次なる謀略が密かに発動するのだ。絢爛たる19世紀英国貴族の世界に繰り広げられる暗闘。 暴かれる暗部。裏切りの街角ロンドン。いやはや興奮。下巻に入ってからの展開が、ほとんどジェットコースター状態。凄いぞ、これ。

 ボディスナッチャーにショアハンター。ロンドン・アンダーグラウンドの世界が、貴族社会から離れてディープに描かれる。こういう世界が小説で明らかにされるのは、なかなか得難い読書体験ではある。知らなかったもの、19世紀の英国階級社会の最下層の存在なんて。どんどん下へ下へと落ちて行くメランフィー母子の悲哀が、これでもかこれでもかと書き込まれた上巻の呪縛を解かれてから、物語は一気に佳境に入るのだ。だからこそ、読み始めた方は最後まで諦めないで欲しい。ここが辛抱のしどころなのだ。とにかく分かり辛い家系図。誰が誰の親で、誰の親戚だって? 詳しく表にして巻末に掲載されているのだけれど、ジェオフリー・ハッファムの遺産は、すべてこの家系の謎に包まれているのだから、読みながら確認するのを忘れないで欲しい。ああ、ジョンはこの人の子供なのかって、ね。そこまで確認しても実は…の世界がそこから延々と続くのだから。タイトルからしてオリンピックみたいなものだからして、読者として参加することに意義がある…と言っておこう(^_^;)。

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