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紙の本
恩田陸ってこんなに文章が上手だったんだ、私って今まで彼女の何を読んできたんだろう、それとも彼女が化けた?絶対のお買い得、三冊並んだ姿が目に浮かぶ
2003/05/16 21:12
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
装幀:中央公論新社デザイン室、DTP:ハンズ・ミケ。前巻のときも書いたので、くどいかもしれないけれど、この本のデザインは最高。シンプルだけれど、色合いがとてもよくて、うっすらアイボリーがかった地と、今回は鶯色というか、ちょっとウォーム・グレーが入った緑。それが重くなくて、おまけに巻数の2の入れ方が絶妙。これで、この値段、内容。文庫本の出る幕がない。
で、書きにくい。なんたって、全三巻の第二巻。話を書いても中途半端、と思う。フツーならば。ところが、恩田陸は凄い。もし、貴方が何気なくこの本から読み始めたとしても、十分楽しめる。むろん、毬子が一晩で半病人のようになってしまった理由は分らないかもしれない。彼女たちの年齢だって、分らないだろう。季節だって、夏だとは直ぐには気付かない。
分るのは、誰かの家に五人の若者が集まって何か作業をしていること。でも、その目的がなくても、きっと彼らが何らかの形で集まらざるを得なかったこと。そして、彼らの置かれた状態が、羽毛一枚でも落ちてきたら、一気にバランスを失い、そのまま悲劇になってしまいそうなこと。そして何より、五人が美少女美少年なのに、生臭いセックスの気配がないこと。それだけで十分だ。
五人の名前は、この巻の語り手である芳野に、香澄、毬子、月彦、暁臣。水の中から朧気に姿を見せ始める過去の事件。香澄の母の死、消えた犬、再婚した香澄の父、父と愛人の家庭教師のアリバイ。そして暁彦の姉の死。美大を目指す美貌の芳野が、画布の上に残す少女が女になっていく束の間の姿。第二部「ケンタウロス」が、第二巻すべてに割かれる。それは一巻の時と同じ。
今回、最も印象的なのは文章だ。短い文章が、小気味よく話を紡ぎだすけれど、そこにキレというよりは微妙な湿り気、むしろ色気みたいなものがあって、読み始めて、あれ、前巻はこんな文だっただろうか、と思わず首をひねってしまう。特に、巻頭の文章から、本文に入っていくあたりのリズムが抜群だ。嘘だと思うならば、声に出して読んでみるといい。言葉が舌の先から心地よくころがり出るのに気付くだろう。でも、娘に確認して、自分の読み方の迂闊さを教えられた。第一巻の巻頭も、同じだったという。そうだとすれば、この全体の変わりようは何だろう。
前から、恩田の作品が持つ、月光を浴びたような、夜露が降りたような文章が好きだったけれど、むしろそれは話の背景や、運び、話の終り方に原因があるからとばかり思っていた。けれど、この本について言えば、彼女の文章の魅力が一気に輝きを見せ始めたという印象だ。しかも、終り方が上手い。これで最終巻を読まなかったら、死んでも死にきれない。
その期待の最終巻は、この小説の舞台と同じ八月に出る。予定通り出版されることを望むけれど、枚数は今回の倍あってもいい。もっと、もっと酔っていたい、そんな気持ちにさせる絶妙の一冊。はやく来い来い夏休み。
紙の本
回想と現実
2003/04/15 15:49
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投稿者:水野理瀬 - この投稿者のレビュー一覧を見る
3部作からなる蛇行する川のほとりの第二部です。
今回もまた謎は謎のまま、そして余韻と次回作への期待を残して終わっています。
一体誰が何を知っているのか、そして幼年時の出来事がどう関わっているのか…。
著者の「ネバーランド」と「木曜組曲」を合わせて割ったような物語です。
各々が秘密にしている過去、それが少しずつ浮上していっているところなどは恩田さん独特の文章だなぁと思います。
彼女の描く物語は回想からなっているものが多い上に、少年少女の視線から描いてあるので懐かしさやノスタルジックな雰囲気があります。
そういう部分が強調された1冊がこの蛇行する川のほとりのような気がします。
ただのミステリとは思えない、そんな1冊だと私は思いました。