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「コミュニカティブ・アプローチ」とは何かということを説明し、その中で日本語による指導がどのような学習者に対してどのような場面で活かされるべきかが述べられたもの。前半は、カミンズのBICS, CALP、Krashenの理解可能なインプット、ヴィゴツキーの発達の最近接領域という3つの言語習得や心理学の理論を援用しながら、日本語使用の有用性が説明されている。後半は具体的な授業例の紹介で、「言いたいこと」を日本語から英語に直すにはどうすればよいかということを教える方法が載っている。
前半は面白かった。まず「コミュニカティブ・アプローチ」=コミュニケーション重視=コミュニケーションをしながら学ぶ=授業も英語でコミュニケーションしてなんぼ、という図式が安易なものであることを示してくれる。そもそも「approach(アプローチ)とは、一種の『考え方』、『哲学』であり、具体的な教授法ではない」(p.7)ということに対する理解が足りなかった。つまり「approachの上にdesign, procedureがあって3つでmethodology」というのがなるほどという感じだった。
また、「教室外で英語を使う機会がないからこそ教室の中くらいは英語だけの環境にすべきだ」という批判を聞いたことがあるが、外国語学習に対する動機づけが低いEFL環境において単に量的に英語に接する機会を増やすだけではだめで、質的に向上させるために日本語を有効に使用する、というのが著者の主張だった。著者の吉田研作という人は、今おれの学校で使っている教科書の著者だが、その教科書は全てが英語で難易度も高く、なのに「日本語を使おう」という主張をしているのが意外だ。けれどそれだけに説得力がある。
一方、後半の方はいわゆる英作文の授業のようになっていて、中身は田尻悟郎や田地野彰といった人たちによる語順指導と似ているだけで、物足りなさを感じた。(13/01/28)