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本文の出だしにすごく惹かれました。
伊坂作品は、個人的に文の始まり方がかなり好きなのですが、この作品は一番素敵な始まり方だと思います。
兄弟の会話はテンポ感があり面白いのに、過去や復讐はどこか切ない。
…一部、過去にも笑ってしまう部分もあるのですが。
私としてはすごく好きな一冊です。
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この人の文体はねちっこくないので、一歩間違えたらどす黒い感情も、淡々と読めるし、それが顕著な小説だと思った。
小ネタを知っていると、「クスッ」と笑えるところがあって、面白い。(ゴダールとか)
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少し前に読んだ「光ってみえるもの、あれは」には、三世代にわたる三人家族が出て来る。もう少し丁寧に言えば、本当は家族である4人目の人物もいて、最後に三人家族の一番下の構成員はその第四の男との絆を深めることにはなるのだが、三人家族を構成するメンバーの話がとても魅力的なので、その印象が強くなってしまうのだ。そして、とても奇妙なことに、あるいはそう意図されているように、三人家族の一番下の構成員はとても中性的な人物で、体はともかく頭の中は女性的である。そこから、男性が芽生えていくのが話の中心といえば言えるので、だから最後には彼が男になって話は終わる。但し、三人家族も解消されてしまうので、三人家族で居る時の女性的な家族、という印象がとても強く残っている。それに比べると、「重力ピエロ」に出て来る三人家族はとても男性的だ。
三人は、父親と二人の息子から成っている。物語は兄のモノローグが中心である。わずかに登場する女性は、既に他界した母親、と、謎めいた美女。美女は自ら言葉を吐くが、他界した母親は全て兄の思い出に登場するのみである。始めに言うが、この本はミステリーとしての構成もしっかりしているし、謎解きの部分も面白い。しかし、この三人家族の描かれ方がとても印象的で、家族小説、というジャンルがあるならそのジャンルに入れるべき作品として、先にあげた川上弘美の本と並べておいておきたくなる本だ。
父親は、ただの元地方公務員であるが、只者ではない。とても深い人生観を抱いて歳を重ねて来ているらしいことが伺える。亡くなった母親はその魅力に瞬間的に気づき、全てを投げ打って父親の元へ来た女性だ。兄はとても優柔不断な人物を装いながら生きているが、実はこの母親の竹を割ったような気性を色濃く受け継いでいることが端々に見え隠れする。弟はワケありだが、天才肌である。
父も弟も人生を達観しているのに対し、兄一人が会社の営業職というとても現実的で世間との繋がりの強い人生を歩んでいる。始まりから兄一人が押し隠した苦悩を抱えているようだが、その苦悩は正面から見えては来ない。兄の思いはもっぱら弟に向けられている。兄の悩みの原因は弟に負うところが大きいのだが、兄の視線の優しさがとても心地よく描かれる。兄は、人生の暗部を垣間見る仕事を請け負うような会社の営業なのだが、そこで出会う人たちには不思議に生活臭が無い。彼らはつまりはサンプルに過ぎないのだ。勿論それは、兄の描く世界において、ということであって、兄が彼らをサンプルのように仕分けているからこそなのだが、それでも時々現実は兄の描く予定調和に噛みついてくる。
物語そのものは淡々と進んでいく。時折挟まれるフレーズから、この物語が過去形で語られていることが明かされる。その了解と同時に沸き起こるいやな不安感と、読者は対峙しなければならない。ミステリーとしての読書の流れを意識せざるを得ない状況である。けれども、そこに家族の愛情があり、読者の不安は救われる。簡単に家族の愛情と言ってしまったが、それはきっと男の友情と言い直してもいいような家族の深い愛情である。弟は兄のことをとても頼りにし、その絆を大事にしている。兄は天才肌の弟���気後れを感じながらも兄として守るものを心得ている。そして、父親の短くはっきりした言葉による救い。父親の悩んでいる姿は決して家族の前には出て来ないが、全ての悩みを浄化したような、短く、気持ちの良い、啓示のような言葉が、結局は最大の救いになっている。
父親は癌に犯されており入院を強いられている。弟は頻繁に見舞いに行ったり、病室の鬼門に桃を置いたり、と、父親を必死に守ろうとしている。兄は、父の癌と対峙する勇気の無さから、滅多に見舞わないが、弟に促されるように病室を訪れ家族の絆を改めて確認する。勿論、兄には兄なりの家族の絆に対する義務感があるが、それは弟を心配するという形で殆ど占められてしまっていて、父親に対するストレートな気持ちとしては表われてはこない。父親は兄弟が仲良くしているのが好きで、そんな兄の態度をまた好もしく思っている。
弟が何か悪さをする時、兄は唯一の弟の理解者として常に側に居る。それは悪いことなのだが、弟の中では成されなければならないことだと理解しているし、それが本当の意味で悪さであるとも、兄は思っていない。父親は悪さの結果を知り、それを誰がやったかを詰問するが、二人がお互いを大切に思うことで、結果として結託していることになっているのを知っている。知っているからこそ二人を同時に詰問する。しかし、そこには許しがある。
そう、この本はとても許しに溢れた本だ。
許しを必要としている人に読まれるべき本だ。
重力に負けそうになっている全ての人に、この本は読まれるべきだ。
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DNAを扱う会社に勤める泉水、そしてその弟・春。
ある日泉水の勤める会社が放火された。被害は壁を焦がす程度のものだが、最近、仙台市内で起こってる連続放火事件の一環では無いかと話が持ち上がった。
春は兄である泉水に連続放火事件の現場近くには必ずグラフィックアートが残されており、泉水の会社が放火に遭うと事前に進言をしていたのだった。
その話を入院している父に話すと大いに興味を持ち、また春は泉水ならばグラフィックアートと放火の謎が解けると言い切る。
やがて二人は放火の犯人を捕まえるべく行動を開始した。
春の出生が一つのキーワードですね。
消去法を取れば、犯人は一目瞭然。ただ着地地点(結末)がちょっと異色な感じを受けたかな。犯人は判明するのだが、その処置はどうするか。という辺り。
泉水が何かを企んでいるのかが、ちょっとぼんやりしすぎて――というか、私が読みきれなかったので、「ああ! なるほどね」と妙に納得した(笑)
この二人の父親はとても良いですね。こんな父親は理想です。
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連続放火事件の現場に残された謎の落書き=グラフィティアート。 DNA・遺伝子情報を研究する会社に勤める私(泉水)は、父親違いの弟・春によって、無意味な言葉の羅列に見える落書きの意味を探り出す謎解きに、巻き込まれていきます。
ミステリーではあるけれど、謎は途中で分かってくるので、どちらかといえば春と泉水、癌に侵された父親の家族の物語です。既に亡くなっている母親も含め子どもの頃の思い出が現在と目まぐるしく交錯し、脈絡なく話が飛ぶ会話を聞かされているかのよう。最初は、話のテンポにとまどいました。バタイユの言葉やジャン・リュック・ゴダール、登場人物たちは非常に物識り。読んでいるうちに、それらの知識も取得できそう。『チルドレン』よりは、好き嫌いが分かれそうです。私は結末にさしかかったところで没頭しすぎて、電車を乗り過ごしてしまいました。
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二人揃えば最強。理屈じゃない、自分がどうしたいかなんだって思わせてくれる。家族愛にはジーンとさせられた。是非読んでほしい一冊。
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なんだかとても良い気分になりました。
ああ、良かったという感じ。
読めばわかります。絶対わかります。
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設定がかなり重たいのですがさらさらと読めてしまいました。文体のせいかしら。
放火事件については割と早い段階で犯人の察しがついてしまったのですが、わたしは謎解きよりストーリーを楽しみたい人なので問題ないです。
特に最後の方の泉水と春とお父さんの三人のシーンが良かったです。素敵なお父さんだなあと思います。あとお母さんも素敵。競馬場のエピソードとか。うん、素敵な家族だと思いますよ。ちょっと憧れます。
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半分しか血のつながりがない「私」と、弟の「春」。春は、私の母親がレイプされたときに身ごもった子である。ある日、出生前診断などの遺伝子技術を扱う私の勤め先が、何者かに放火される。町のあちこちに描かれた落書き消しを専門に請け負っている春は、現場近くに、スプレーによるグラフィティーアートが残されていることに気づく。連続放火事件と謎の落書き、レイプという憎むべき犯罪を肯定しなければ、自分が存在しない、という矛盾を抱えた春の危うさは、やがて交錯し…。
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主人公の「春」という人物にはすごい魅力を感じたんだけど、全体的にはそれほど魅力を感じる話には思えなかったかな…
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ちょっと変な兄弟の、ちょっと変な話。ミステリーといえばミステリーだけど、それだけじゃないみたいな。伊坂さんのはミステリーというより「伊坂さんの」っていう独立したジャンルだと思う。読みやすくて面白かった。
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「このミス」3位でしたっけ?
正直自分はそんなです。なんていうか他の伊坂作品に比べて登場人物達に魅力があまりない。というかキャラ作りに作為がありすぎるような・・・いつもそれはそうなんですけど、なんだかこの本では鼻につくんですよね。
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実に軽妙。テンポの良い文章、独特の比喩、意味深な例え話、洒落に富んだ会話、魅力的な人物。どれをとっても、読んでいて飽きない。話は大体思った方向に進んでいくので、あまり意外性はないが、この文を楽しむだけで充分。決して明るい話ではなく、彼らが抱えるものはとてつもなく大きいのだが。ピエロが重力から自由になれるように、人は遺伝子から自由になれるのだろうか。
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前作、前々作の登場人物もいくらか出てくる。また、過去の作品を読み返したくなる。
ミステリーというか心理物。
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――春が二階から落ちてきた。―― で 始まり
――春が二階から落ちてきた。―― で 終わる物語。
初めの 春は〜〜 では ん??????と思わせられ
最後の 春は〜〜 は涙の中で頷いていた。
読後感を どんな言葉で表わせばいいのか 正直言うと 迷っている。
ただ 暗く重いテーマに沿って物語が進んでいるにもかかわらず
あふれる涙は あたたかく 登場人物を包み込みたくなるような
反対に 包み込まれたくなるような 妙な満足感に包まれている。
本の帯に 大きく書かれた 担当者が思わず叫んだという一言
――「小説、まだまだいけるじゃん!」*
まさにその通りを ぼそっとつぶやきたい気分。
――ピエロは重力を忘れさせるために、メイクをし、玉に乗り、
――空中ブランコで優雅に空を飛び、時には不恰好に転ぶ。
――何かを忘れさせるためにだ。 (本文より)