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紙の本
そして書評に至る
2003/05/25 02:56
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投稿者:南波克行 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「小説家になる!1・2」(メタローグ)を筆頭に、「文章読本」(朝日新聞社)、「小説の解剖学」(ちくま文庫)で、圧倒的な具体性と変幻自在の事例によって、「文章の書き方」を語って見せた中条省平の批評文は、なるほど文章作法を語る達人でもあるだけに、とにかくほれぼれする語り口を持っている。少しも難解でないのに、しかし与えてくれる情報の豊かさと質は超一級のもので、「そんなこと知ってるよ」と思わされる文など1行もない。それでいて、筆者独自の確かな鑑識がそこにあり、初心者からそのジャンルの玄人筋まで、あまねく確かな読み応えを与えてもらえるのだ。いったいどうしてそんな離れ業が可能になるのか、まったく魔法のような文章術だが、とにかく、「こんな文章を書いてみたい!」と嫉妬させられる文ばかりなのである。
かつて辻邦生もその「実見の多さ」に舌を巻いたことがある中条の守備範囲といえば、映画・文学・ジャズ・マンガで、いずれも舌を巻く博識ぶりなのだが、本書は全体を4つに分けて、そのすべてのジャンルを網羅した、「ベスト・オブ・中条省平」とでもいった趣きのある一冊だ。ページ数にして200ページあまりと、決して多くはなく、もっとたくさん書いているはずなのだから、それを全部網羅して800ページくらいの大著にしてもらいたいような、そんな注文もつけたくなるものの、よく言えば、そのぶんじっくりと中条批評の真髄を味わうことができるようになっている。特に、最初期(1987年)に発表されたニース・ジャズフェスティバルをレポートした「ニースの奇跡」も収録されているのは、ありがたい限りだ。なにせ、どの分野においても第一人者なのだから、欲を言えばキリがない。
個人的には特に脱帽させられるのが、ゴダールに関する解説だ。本書にも『愛の世紀』に関する小文が収録されていて、あの難解なゴダール作品の総体を「死んだ現在と生きている過去。モノクロのパリ情景があれほど魅力的でありながら不吉に見えたのは、それが死んだ現在の姿だったからだ」と一気に把握してしまう。こんな芸当はゴダールに関して語れば並ぶ者のない蓮実重彦にも浅田彰にもできないことだ。唯一できるとしたら山田宏一なのだが、山田の文章は映画についてしか基本的に読むことができないのに対して(もっとも、だからこそ山田宏一の文章はすばらしいのだけど)、中条省平の場合は同じ水準で、文学のこともジャズのことも読むことができるわけなのだ。そのことをおおいに喜びたい。
おそらく中条省平が敬愛してやまない3人の書き手というと、その言及する回数から言っても山田宏一、小林信彦、それから安原顕だろうと推測するのだが、彼らがいかにも使いそうなボキャブラリーが時々ひょっこり顔を出すのも、なんだか筆者の手の内を覗き見てしまったようで楽しい限り。
ともあれ、本書の中で中条は小林信彦のコラムに関して「繰り返し繰り返し読めるコラムなど滅多にあるものではない」と述べており、実はそれはそのまま中条批評にも通じることだ。活用方法としては、取り上げられた作品を実際に鑑賞する前と後に一度ずつ読む。これがコツである。
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