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紙の本

足下を流れる深い水が、わたしたちの内なる悪しき水を呼ぶ。

2012/08/10 21:49

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:奈伊里 - この投稿者のレビュー一覧を見る

上巻を読んだ後、わたしは短篇集を貫く人間の裡なる暴力のことを思った。世界を見据える、作家の揺るぎなくストイックな視点に驚いた。オコナーの手になる目の前の書物を、距離を持って眺めることができた。でも、時をおかず下巻を開き、表題作「すべて上昇するものは一点に集まる」を読んだところで、息がつまってしまった。一度にはとても読み切れなかった。結局、二週間かけて、少しずつ、息を継ぎながら読んでいった。
 全作を読み終わった今は、もう他人事としては語れない。安穏と、読了のサインを押して本棚に返すことができない。そこに書かれていたすべての殺意、すべてのグロテスクな感情、すべての愚かさ……。作家は今でも、それらが、「ほら、ほら、あなたの中にもあるでしょう?」とわたしに同意を求めてくる。

 オコナーは、まず状況を呈示する。その、平衡を保っているかのように見える人間関係の中には、必ず憎悪や殺意が眠っている。グロテスクな感情は、ぎりぎりの表面張力で日常を保持しているだけ、そういう状況。そしてそこに、オコナーは、最も残酷なやり方で、最も鮮やかなやり方で、ほんの一滴の触媒を落とす。押しとどめられていた感情はあふれ出し、感情に後押しされた行為は、多くの場合、殺人という最悪の結果へと導かれていく。

 足下を流れる深い深い水が、わたしたちの内にある悪しき水を呼んでいる。
 幾つも幾つも仕掛けられたトラップが、わたしたちの間違った一歩を待っている。
 かけがえのない自分を正当化すれば、すぐ隣のかけがえのない人生を阻害し辱める。
 自分の善意は、隣の人にとっては悪意となる。
 慧眼と信じている人の目は、誰よりも盲目である。
 幸福の実現は、他人の不幸を礎としている。
 人生の真意と思いこんできたすべての足場は、刹那に崩れるほど危うい。

 登場人物は、例外なく、自らの人生をつかみ取ろうとしているのに、例外なく、絶望にひた走る。その姿は、みじめで、哀れで、いかんともしがたく醜い。ほわほわの白いウサギが一瞬にして皮を剥かれたように、赤剥けの姿を晒して、彼らは自らのあるべき人生という幻想を追い、倒れる。

*****

 この残酷を、この暴力を、この悪意を、わたしは作家に、これ以外はないという書き方で、つきつけられた。両のまぶたを固定されて、世界のありようを、見せつけられた。
 作家の生きた二次大戦後の米国も、南部の農園暮らしの生活感覚も、この世界を限定しはしない。登場人物をさらっていった足下の水は、わたしたちの足下にも確かに流れているのだ。わたしたちが、人間としてこの世に生まれ出る限り。
 あらゆる犯罪に、報道はその時々の反応をして過ぎていく。作家は笑って自らの物語世界を指し示す。「他人事じゃないでしょう?」「あなたの内にもあるでしょう?」

 オコナーは、自らの難病を知り、自分の手によってしか為されない作品を生み出すことに、限られた時間を費やした。確かに、彼女でなければ書けなかった物語がここに在る。そしてそれらは、紛れもなく、彼女のかけがえのない時間の産物だ。
 この悪意に満ちた世界を描くことで、この世界を生き抜くことが謳われた。こんなものでしかない世界を、こんなものでしかない人生が生き抜こうとする姿が謳われた。

 足下の深い水に誘われながら、だからわたしは、生きることの意味をこそ受け取る。

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2005/05/09 14:04

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2015/12/17 01:54

投稿元:ブクログ

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2016/09/20 20:55

投稿元:ブクログ

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