紙の本
理系人を掘り起こす
2003/08/12 18:08
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:北祭 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、日本における理系人の実情を、統計のみに頼らず、印象的なインタビューに重きをおいて報告する一風変わった白書である。日本の科学研究者・技術者は報われておらず、これから日本が科学立国たるには見過ごせぬ問題があり、それらをすべて掘り起こしてみせるとの編集者の一貫した姿勢が伝わってくる。
官界、政界、経済界における理系出身者の不遇や、女性研究者への偏見、少ない研究費などの実情を述べる傍ら、青色発光ダイオードの中村修二の主張、ノーベル化学賞の田中耕一の失敗などのトピックを効果的に織り込み、読み物としても飽きさせない工夫が光る。
基本的に、白書の名に沿うよう実情報告がなされているため、現場から遠く、情報の真偽の確かめようのない文系出身の方々にも、安心して本書を手にすることをお奨めできる内容である。
但し、一つ残念なのは、優秀な一部の科学研究者・技術者の立身出世や富の構築への言及が目立つ割りには、日本を支えるその他大勢の研究者・技術者の思いの内への切り込みに欠ける点が上げられる。
例えば、中村修二の功績に対し、巨万の富を与えるしくみを作ろうとする流れがあるのは、外国への頭脳流出を阻止する上で重要である。しかし、企業における発明は特に、純粋たる個人の功績とは言い難い一面がある。実験設備は企業の研究材料費で賄われるし、その固定資産税も企業持ち。特許の出願、権利保持の費用、実利にならぬ膨大な特許関連の埋没コストも企業持ち。このようなリスクを背負わないにもかかわらず、中村修二に企業から支払われるお金は、結局のところ株主への配当や全従業員のボーナスともいえ、これは複雑である。
理系人の仕事は、まず第一に、好きでなければ続けられるものではない。その他大勢の研究者・技術者は、立身出世や富の構築の前に、自らの技術を磨き、新しい知識の習得に真面目に地道に励んでいる。その上に、幸運な配属があり、幸運な発明がある。
ニュートンは語っている。「わたしがここまで見わたすことが出来たのも、巨人の肩の上に立っているからにすぎない」。
今の時代、その巨人とは表には出てこない大勢の研究者・技術者に他ならない。本白書は、毎日新聞で連載中だという。これから、本当の意味で日本を支える多くの研究者・技術者の思いの内を掘り下げる取材に期待したい。
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今関西にある某大学の工学部に在籍してます。これを読んで同じ大学居残るのではなく、外に出てみようと思った。この本のおかげで他大学の院を受ける気になりました。
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この本を読むと、理系の人間にとっては、とても切ない気持ちになります。
工業国である日本を支えている研究者・技術者にも、もっと良い待遇を与えても良いのではないかと叫びたくなる本です。
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研究者って仕事を知ろうと思って読みました。内容は、その名のとおり理系の仕事の実態を調べたもの。理系と文系の比較や、理系学生、大学の研究者、企業の研究者、研究者の待遇などなど。毎日新聞の科学面に連載された記事をまとめたものなんで、新聞の記事、って感じです。全体をまとめると、日本の研究者は恵まれてない、ってことですね。開発等の成果に対する報酬や、特許等の扱いが。そこらへんはアメリカと比べると雲泥の差らしい。青色LEDの中村修二さんの例とかね。まあ研究者自身の意識変化も見られるようだし、企業側の制度も徐々に改善されているようですが。
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理系学生の時に読んだ本。
「そうなんだよなぁ〜」と「そうかなぁ?」が混在する。色々な視点から理系を斬っているのが興味深い。
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ほとんどが理系「研究者」について書かれています。広く技術者までカバーしてほしかった。理系への取っ掛かりとして読むといやになるかも。
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理工系の職種は、生涯年収が5000万円くらい違うらしい。学生時代に勉学で苦労した割りには浮かばれないというのは、その通りかもしれない。外資の導入やベンチャーの促進、社会システムや法律を徐々に変えていくことで、平均化されていくだろう。理工系の学問もなかなか楽しいのだが。
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日本の理系事情について。理系の研究者たちと、彼らの置かれている状況について書かれた本。社会に対して、研究者に対して、学生に対して、いろいろなメッセージを発信している。理系の人にはもちろんのこと、理系ではない人たちにこそ読んでいただきたい。
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副題 「この国を静かに支える人たち」
帯 「理系は報われているか。」
報われているかどうかというのは、個人がそう感じるかどうかによるところが多いと思う。
ただ、他国と比べると表舞台に立つことが少ないってことは確か。
理系人の抱える悩みが「白書」という形で書かれている本です。
白書だから、「こういう現状だ」ということは書かれているけど、「この問題をどう捉え、どう対策を講じていくべきか」ということは、ある程度事例を紹介していながらも、その判断は読者に任せている感じ。
この現状で、将来日本が国際競争力を保っていけるのかどうかは、正直微妙なところなんじゃないかな、と思った。
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理系人間には有名な本。
高学歴ワーキングプアなど後から似たようなほんが出ましたが、これが最も良い。
昔は著者のブログもあったのですが、今は海外にいるらしいです。
どちらかというと、学生のうちの読んでおくと良いような気がしました。
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農学部の売店で発見して衝動買い。
「この国を静かに支える人たち」という副題には、反応してしまう理系学生も多いのではなかろうか。
内容は主に、日本の研究環境の課題とそれに向けての取り組みを中心に書かれている。
時代の変化と共に企業組織の社会的責任が叫ばれる昨今だが、それは研究組織においても同じ。ますます「社会のための研究」という意識が必要とされるようになってくる。
その影響は、経済や社会との結びつきの比較的強い応用研究分野だけでなく、それらとの結びつきが意識されにくい性質を持つ、基礎研究分野にまで波及する。さらには、組織レベルを超え、個人レベルにも波及してくるものである。
そんなわけで、研究者を志すのであれば必読。
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毎日新聞の科学研究部が取材・編集していて、さまざまな視点から理系を捉えていく内容になっている。全体を通してのメッセージは「もっとうまい理系の活かし方があるはずだ」というものだ。研究業界の仕組み、教育現場、文理の縦割り。専門家が報われにくい世の中になっている。
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理系研究者の実態を明らかにしつつその現状についての問題提起を行っており、これから研究者を目指す学生にとって勉学上大いに参考となる資料です。
■横国大附属図書館所蔵データ
http://opac.lib.ynu.ac.jp/cgi-bin/opc/opaclinki.cgi?isxn=4062117118