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日本神話とクトゥルフ神話の綯い交ぜ度合いは相変わらず。SFとしても、骨太のテーマ「世界の謎」に取り組む。壁と階層に別けられ、職業毎に姿形まで異なる人間たち。奇抜な世界観に引き込まれ、そしてブルーが辿り着く意外な結末(ちょっと意外を追求したあまり、作中に矛盾がある気もしますが)に驚かされる。
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●駄洒落SFミステリの大家。だっけ?
牧野修・我孫子武丸との共著「3人のゴーストハンター」を読んだのが最初ですが、耽美牧野論理派我孫子両氏を尻目に、ひとりひたむきに汚物路線を走っていたような記憶が。て誤解ですか?
分類はたぶん悪魔エログロSFでいいと思うんですが、なんか違うな。
いちおうのエロシーンも、あんまりエロくないんだよね。
成年まんがの牛乳少女が、エロを通りこしてギャグにしか見えないような感じと言えば、なんとなくおわかりいただけるでしょうか?
●SFとしてはきれいに落ちててよろしいんじゃないかと思います。はい。
別にSF読みじゃないですけど私。
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図書館で借りました。
SF。
「蹴りたい田中」を書いている人だけあり、この作品の流れも、そんなダジャレ要素満載。
よく人が死ぬ。けっこう無惨。
その上、ヤオイちっく。
階位制の頂点、聖職者は性器を持たない。ブルーという神学生もまた性器がなく、それでもそういった欲望は持っている。嘘をついた罰として師父に拷問されるのだが、……そのものずばりハードSMですな。めっちゃスカ●ロ系だし。
気味悪いものがいっぱいてんこ盛り。
内容は
悪魔によって人類は滅ぼされ、主は人を守るために世界を作り出した。
そこは完全な階位制。
そして幾星霜。悪魔崇拝がその世界を覆い、その世界は滅びかけていた。
ここは地球で「壁」の外には世界があるのだと、ヘーゲルは言う。
だが、壁の外は宇宙だった。
ここは船なのだ、と気がつく。
そして、ヘーゲルが死んで、ブルーは真実を探求し続け、理解する。
ここは宇宙船の中ではなく、タイムマシーンの中なのだ、と。
ここまでくればオチはおのずとわかる。ラストで。
「かくして円環は閉じられた」
そういうこと。
嫌いじゃないが(笑)、大怪我をしているわりに、みんな元気に動いてしまうのがわからない。そのへんがリアリティーがない。
二段仕掛けの真相というのは、面白い。さすがだ。
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またそういうオチかっ!田中啓文じゃなければ許さないところです
SFネタが盛りすぎというくらい盛りだくさんで楽しめましたが、昔と比べてグロ描写のレベルが下がった気がします。
方向性が違うだけかもしれませんが。
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見覚えのあるオチはたぶん様式美ってことで。
すごくよい和製SFでした。海外SFだとキリスト教の感覚すぎてわからないものが仏教だとこうなるのかーみたいな。あと文庫版での篠房六郎がいい仕事しすぎだとおもった
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2003年に田中啓文が刊行した書き下ろし長編SF小説のタイトルを見た瞬間、読者の脳裏には奇妙な疑問が渦巻いたに違いない。
「もしかして、ついにマジメなSF小説を書いたのかな?」
田中啓文といえば伝奇SF等で実力を発揮する一方、必要以上に描写されるグロテスクな場面や、どんなに真剣にやっているように見えても最後の最後をダジャレで落としたりと、悪趣味としか言えない、でも悔しいことに読んでて面白いクセのある小説で一部に熱狂的なファンを獲得していた作家である。なにしろ作品のタイトルからして『銀河帝国の弘法も筆の誤り』(SFの古典的名作『銀河帝国の興亡』が元ネタ)や『蹴りたい田中』(言うまでもなく芥川賞受賞の『蹴りたい背中』が元ネタ)とマニアックに人を食っている。
そんな訳だからみんな新作の刊行時は怖々待ち受けていたのだが、今回はタイトルが『忘却の船に流れは光』である。ダンテの『神曲』の一節からとったというこの硬派なタイトルに、カバーイラストは不穏な空気に満ちたデザイン。さすが早川書房が社運をかけてスタートさせた叢書「ハヤカワSFシリーズ Jコレクション」の一冊として刊行されるだけあって田中啓文もマジメにちゃんとした超大作SFに取り組んだのではないか――そんな憶測が飛び交ったのでる。
実際はどうだったか。
かつて悪魔の襲来によって滅ぼされた世界。そこに神によって巨大な閉鎖都市が建造され、生き残った人々はその中に入ることで悪魔の侵攻から逃れた。都市は5つの階層に分かれており、そこに暮らす人々も職業によって身体の構造が違っていた。
やがて何世代も経るうちに人々は都市こそが世界のすべてのように認識するようになっていた。そんな世界で「聖職者」として生まれたブルーは、ある日、偶然のきっかけで悪魔崇拝者たちの集会の摘発に加わるのだが、その日を境にブルーの運命は大きく狂い、驚くべき世界の真実を目の当たりにする事になる。
一体、この都市は何なのか。悪魔の正体とは何か。なぜ人々は職業によって身体構造までが違うのか。というかこの人たちは人間なのか。それなりに文明は発達しているようだが、一体いつの時代の話なのか。そもそもここは我々の住む世界とは違う異世界の話なのか。
読みながら様々な疑問が噴出するが、猥雑で奇怪な世界観にそんな疑念を挟む余裕もなく引きこまれてしまう。やはり田中節は健在で、登場人物たちは容赦なく酷い目にあわされ、良識ある人なら目を背けてしまうようなグロ描写もたんまりと用意されている。
だが今回は不思議な世界の空気感が背徳的な雰囲気を醸し出していて、それらのグロ描写がかなり効いているのだ(といっても明らかに必要以上にグロテスクな場面が多々…)。
僕は読みながら何故かヒエロニムス・ボッシュの『快楽の園』という祭壇画を思い出していた。よくわからないが、そこに繰り広げられるぐっちゃぐちゃでねっちゃねちゃな淫猥で醜悪な場面は、人の原罪をも表しているように見えたからだ。
そう思わせるくらい、この小説には様々な寓意が満ちている。階層に分かれて暮らす人々の��廃した生活。真実を知ろうとする欲求が芽生え、不可侵の秘密に触れてしまう罪…。西洋趣味と東洋趣味が絶妙にブレンドされた田中ワールドは、妖しい魅力を放ちながら読者こう問いかけてくるようだ。キモチワルイとか下品とか言いつつこういうの好きなんでしょ、目が離せないんでしょ、と。
圧巻の終盤ではまさに驚天動地の真実が明らかになる。それまで無条件に受け入れてきた世界が変容する感覚。何もかも無批判に信じこむことの罪。
ただし、勢いでなんか飲み込んじゃったけど読後によくよく考えると辻褄のあっていないところも散見。うーむ、と思いネットでインタビューとかを探して読んでみると、作者も承知の上でやっているらしく、「編集の人にこうしろって言われたから」的な言い訳をしている。まあたしかにこの方が面白くなってはいるが、辻褄合わせる努力くらいはしなさいよ。その他にも結構いい加減な部分も多いらしく、タイトルが『神曲』に由来しているというのもネタ臭い。まあ田中啓文だしな…。
そんな訳なんで田中テイストを効果的に盛り込んだかなりの力作ではあるが、ラスト、やっぱりダジャレで落ちるかどうかは読んでのお楽しみだ。ただしどちらにしてもかなり意外などんでん返しが待ち受けるラストであることは確か。
作者はその後、趣味を活かして創作落語などでも活躍。落語小説「笑酔亭梅寿謎解噺」シリーズも刊行している。またもう一つの趣味であるジャズの知識を活かした「永見緋太郎の事件簿」シリーズはエロもグロもギャグも封印したクールな(!?)、ジャズミステリーとして評価を得ており、第62回日本推理作家協会賞短編部門を受賞した。多彩な人だ。
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主人公の壮大なだらしなさも、拷問や環境の描写の強烈なエグさも最高。テンションがいやでも上がっちゃう。ひとくちで勘弁してくれって思っちゃうくらい、いろんな味が詰まった物語。