投稿元:
レビューを見る
センセーショナルな事件報道に基づいて「家族の危機」をあおる論調や、個人主義に基づいて日本的な家族の抑圧からの解放を主張する文化人たちの言説をしりぞけ、家族の中で自己を形成してきた実存的な立場から、日々の生活の中で家族の一員として振る舞う著者自身の実感に基づいて家族の本質をつかみ出そうとする試みです。
本書の刊行からすでに30年近くが経った現在から見たとき、やはり著者の主張の一部に時代的な制約が感じられるのも事実ではないかと思います。その一方で、家族という鈍重な制度がテーマになっているので、そう簡単に私たちの家族についての考えが変遷しないことが確かめられるともいいうるかもしれません。どっちつかずの感想ですが、元来わたくし自身は著者の実存的な立場に必ずしも全面的に賛同できないので、本書のようなアプローチが両義的な評価をもってしまうことそれ自体が問題ではないかと感じています。
他方で、カフカの『変身』を家族の本質を露わにした小説として読み解くところなど、興味深く読めたところも多々ありました。