紙の本
時代の流れに消し去られる事実を表した一冊。
2003/10/25 22:01
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投稿者:佐々木 昇 - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦時下の日本に滞在したドイツ人について、聞き取り調査を基に構成された一冊であったが、大物スパイといわれたゾルゲがドイツ人社会では好意をもって受け入れられているのには驚きだった。
ドイツと日本の関係については語るまでもないが、戦時下の日本に滞在したドイツ人の多さは想像を越えたものだった。インド洋や太平洋で戦ったドイツの軍艦が日本に寄港し、不幸にして乗艦が爆発炎上したために箱根にとどめ置かれたドイツ海軍軍人も在日ドイツ人の員数を増やす一つの要因でもあった。
この戦時下日本に滞在するドイツ人には優先的に食料などが日本から供給されたが、ドイツの仮装巡洋艦が拿捕した敵国の貨物船に積まれていた食料がドイツ人に分けられていた。98ページに出てくる「南京号」がそれだが、この「南京号」に乗っていた中国人の半数近くはドイツの補給艦である「ウッカーマルク号」の爆発炎上事故で亡くなっている。
この「ウッカーマルク号」の爆発炎上事故の原因は不明であるが、現場にゾルゲがいたことが「横浜港ドイツ軍艦燃ゆ」という本に書かれている。ゾルゲの仕業なのだろうか。
日本の敗戦後にアメリカ軍が進駐し、アメリカ人の多くはドイツ系とのことでアメリカ兵がドイツ人に好意的であったというのは思わぬ事実だったが、日系アメリカ人がヨーロッパ戦線でドイツと戦ったことを考えれば、因果は廻るというそのままではないかと思ってしまった。
なかなか興味のある聞き取り調査の結果だと思った。
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ドイツ人はアメリカ人に仲間意識を持っていなかった。
日本人にとってユダヤ人とドイツ人の区別はほとんど意味なかった。
早稲田などでは戦争中もハイネに関する授業が堂々と行われていた。
ドイツ文化研究所は東京中の本屋を回って歩きユダヤ人の本やトーマスマンを見つけては注意していた。
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[ 内容 ]
「非国民」「鬼畜米英」に代表される排除と憎悪の戦時下日本で、「ことなった体験」をした人たちがいる。
偶然にも当時の日本に暮らすことになったドイツ人たちだ。
貿易商、教師、留学生や兵士として、遠い日本で体験した彼らの日常生活は、ほとんど記録に残っていない。
どのように暮らしていたのだろう。
日本の戦争、戦時下の生活をどう見ていたのだろう。
大物スパイ・ゾルゲの素顔やヒトラー・ユーゲントの来日で沸く軽井沢など、意外なエピソードを豊富に紹介しながら、戦争という歴史的大事件とは切り離せない大小の日常的事件を、24人のドイツ人が、おおらかに、そして真摯に語る。
本書は、「記憶の風化」という時間との戦いのなかで集めた、歴史的に貴重な極限状況の証言集である。
[ 目次 ]
第1章 日本に暮らしたドイツ人―その素顔(どれくらいドイツ人がいたのか;日本で何をしていたのか;華々しき貿易商たち ほか)
第2章 戦時下の暮らし(ドイツ人社会;「食」;「衣」と「住」 ほか)
第3章 歴史を体験する(日中戦争(一九三七~四一年) ドイツの戦争 日本でのナチスの活動 ほか)
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太平洋戦争中のドイツ人社会については、手塚治虫「アドルフに告ぐ」や黒田硫黄「あたらしい朝」といったマンガに登場していたのを見たことはあった。
しかし、当時実際に日本に住んでいた人々に直接インタビューしたものを集めた、この本は非常に面白かった。
外国人から見た戦時中の日本の状況は新鮮なものがあるし、現在と同じくらいのドイツ人が住んでいたこと、また戦後ドイツへ強制送還された人々がいたことは知らなかった。
図書館で借りた本だが、資料として手元に置いておきたいと思った。
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第二次世界大戦時、日本に最も多数住んでいた白人はドイツ人であった。大部分が民間人であった彼らからのリサーチを通じ、第二次世界大戦時の日本の様子を叙述したもの。多数のドイツ人の肉声をそのまま叙述しようとしており、やや冗長。反面、戦時下の暮らしはやや踏み込み不足で、隔靴掻痒の感あり(ただし、記憶が風化している可能性は高いが)。逆に、「第3章 歴史を体験する」はなかなかのもの。特に、マイジンガー(ゲシュタポ大佐)らによる日本国内のナチの活動や、ゾルゲに対するドイツ人コミュニティーの評価などは興味深い。