紙の本
ダン・シモンズのすごさ、改めて堪能。
2016/08/20 07:30
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投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
かつて、キング・マキャモン・シモンズがホラー三大巨頭と言われた時代(そういう時代があったのです。 マキャモンの代わりにクーンツが入ることもあり)、私はいまいちシモンズがピンとこなかった。
期待した『サマー・オブ・ナイト』に今ひとつ入り込めなかったからか、『ハイペリオン』はハードSFのイメージが強すぎたのか・・・いまいち縁がないまま今まで来てしまいました。
今回、<奇想コレクション>の一冊として手に取りました久し振りのダン・シモンズ。 しかも初めての短編集に取り組んでみて・・・かつてシモンズが苦手な理由がわかった気がした。
文体が静かすぎるのだ。
だからこそ恐怖は倍増するわけですが、かつての私はそれを物足りなく感じていたのだなぁ・・・としみじみ。 『サマー・オブ・ナイト』、もう一度読んでみようかなぁ、という気になりました。 他の作品も。 今更ながらダン・シモンズの真価を知る、そんな貴重なチャンスをありがとう。(2010年4月読了)
紙の本
喪失の物語
2004/03/22 13:55
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投稿者:ぼこにゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ネコは死期が近づくと姿を消すというけれど、それは必ずそうだということではなくて、確かにある日を境にいなくなってしまうネコもいるが見取らせてくれたネコもあり、その辺はネコの性格によるのではないかと思う。いずれにしてもネコを失うというのは相当な痛手で、残された人間はネコと過ごした日々のことを懐かしく楽しく思い出す一方で、もっと大切にしてやればよかったとか、あの時あんなに叱るんじゃなかったとか、姿を消したネコに関しては今もどこかで生きているんじゃないかとか、おなかを空かせているんじゃないだろうかとか、いじめられたりしていないだろうかとか、実際愚にもつかないような循環性の思考の虜となってしまうものだ。
なにものかを愛し慈しむというのは自分の体を養分に樹木を育てるようなもので、その成長を幸せな気持ちで見守りつつも疲弊して消耗して行くのがその定めとするところなのかも知れない。愛するものを失うというのはつまり、そうして育てている最中の樹木を無理矢理引っこ抜かれて血を流し、抜かれた跡の穴のむなしさに涙するということなのだ。
家族を亡くした男の物語として、『夜更けのエントロピー』と『黄泉の川が逆流する』の二作が特に心に残るのだが、両者から受ける印象はまったく異なっていて、『夜更け』の方が比較的健全な再生のきざしを暗示しているとすれば、『黄泉』はかなり不適応な蛮行とも見えて、そこがまた運命の前でひとしなみに非力で愚かな人間の性(さが)のネガフィルムを見るようで、しみじみと哀しい。特に最後の、主人公の男性が意気揚揚と車で帰宅する場面は、そのまま引き返すことのできない道をゆく亡者の姿のようで、哀しいやら恐いやらブキミやら、いやはやたまらないのである。つまるところ愛するというのは自分を失うことだろうか。
社会性という点ではどう考えても『夜更け』の方が好ましい方向性を持ってはいるのだけれど、私としてはその愚かしさの度合いにおいて圧倒的な『黄泉』の方が好きで、それはやはりいい年をして未だに喪失に対する恐怖を克服できずにいるせいでもあるし、恥ずかしいことにはたぶんそういう青臭さを自分で気に入っているためでもあるのだろう。ああ、嫌だ嫌だ。
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収録作品は
・『黄泉の川が逆流する』
・『ベトナムランド優待券』
・『ドラキュラの子供たち』
・『夜更けのエントロピー』
・『ケリー・ダールを探して』
・『最後のクラス写真』
・『バンコクに死す』
初訳は『ベトナムランド優待券』
近未来、ベトナム戦争をアトラクション化し、そこで観光客が当時の作戦などを追体験するのだ。
かつて参戦したアメリカ人の老人が、あるベトナム人の男と出会い……
参戦した者は心に今も傷を負い、
戦争を知らない世代は今も金で好き放題やってる。
裏アトラクションのゲリラ掃討作戦とか、実は本当にありそうな感じ。
ああいうトラウマがあるのに、アメリカは戦争大好きだからなぁ。
気に入ったのは
『最後のクラス写真』
大異変が起こり、世界中がゾンビで溢れた荒廃した世界。
そこで、教育の望みを捨てず、子供のゾンビたち集めて授業を続ける老教師。
いつかはそれが実を結ぶ日が来ると信じているが……
何が起こったのかもわからないし、未来があるのかもわからない。
ただ、迫力があり、ラストは感動的。
『バンコクに死す』
バンコクを訪れた主人公。
彼はラーマという女を捜していたが、訊くもの全てが怯えて話そうとしない。
彼は、20年前、ベトナム戦争中、一度バンコクを訪れていた。
そのとき、親友に、怪しげなショーに連れられていった。
そこにはラーマと呼ばれる人とは思えぬ女が究極の快楽を与えてくれる場所だった。
親友は、大金を払ってその相手になったのだが、彼は死体になって見つかる。
主人公はその復讐のためにラーマを探していたのだ。
その復讐の方法とは?
後味悪いし、男としては生理的にイヤ〜ンな話。
『ケリー・ダールを探して』や、ここには収録されていないけど、好きな作品の『ケンタウロスの死』も
教師と生徒の関係の物語なんだけど、なんでだろ、と思ったら、ダン・シモンズって教師やってたのね。
ダン・シモンズの作品は、「SFマガジン」に載ってれば、SFと思って読むんだけど、
それ以外だと、なんだろね、メインストリームじゃないけど、かといってSFって感じでもないんだよね。
奇妙な話って感じかな。
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SFといっていいのかわからないけれど。小説がうますぎるダン・シモンズが(簡単に)堪能できる一冊。なけたり、ほろりときたり、怖くなったり、倒れたりできます。ラストの1つ、今まで読んだ本の中で一番気持ち悪い(褒めてる)。すごい。
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ローカス賞受賞の表題作をはじめ、死んだ母がぼくの家に帰ってきた…デビュー作「黄泉の川が逆流する」、かつての教え子ケリーを殺すため異世界を旅する元教師の孤独な追跡劇「ケリー・ダールを探して」、世界幻想文学大賞、ブラム・ストーカー賞受賞の傑作「最後のクラス写真」、本邦初紹介の「ベトナムランド優待券」ほか、全7篇を収録。
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ガッツリ引き込まれました。好みです!嶋田洋一訳とあって、ややテンション上がり気味で心地よく読めました。私的には「黄泉の川が〜」が一番グッときました。サイモン兄がかっこいい。「ケリー・ダール〜」では「私を見つけたのね」という台詞にキュンとときめき、「最後の〜」はテーマとしてはありふれてるかもしれませんが、書き手によってこんなにスケールが大きくなるのか、と圧倒されると同時に思わず笑ってしまいました。
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再読。
人生に絶望した男の再生譚として読める、表題作「夜更けのエントロピー」と「ケリー・ダールを探して」が好き。
特に「ケリー・ダール・・」は、教師だったシモンズが、教師時代に救えなかった子どもたちの顔を思い浮かべながら書いたのだろうか、などと勝手な想像をして読むと、切なさも一入。
同じく教師を主人公とした「最後のクラス写真」。
教室内の秩序を保つことに腐心し、教室の支配者として君臨する教師にとって(最初はそういう教師に思える)、生徒が生きていようがゾンビであろうが、何の変わりもないんじゃない・・・と、意地悪く考えたりもしたけれど、
己の教師としての使命に一点の揺るぎもないギース先生の、その不撓不屈の精神には感服。
そんな彼女の心が折れそうになった時に起こった出来事は感動的ではあるのだけれど、これってまさかゴールディングの『ピンチャー・マーティン』
風のオチってことはないよね、という疑問がちらりとかすめたりする。
「バンコクに死す」は、まさにうぇぇなグロテスクな話なのだが、最後の一節でやるせない愛の話となっていく。
本書で一番グロテスクなのは、「ベトナムランド優待券」でベトナム戦争のアトラクションに興じるアメリカ人観光客の姿かも。
Entropy's Bed at Midnight by Dan Simmons
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ゾンビも出てくれば吸血鬼も出てくるし、ベトナム戦争まで出てくる。書き出しで何の話なんだかさっぱりわからないまま妙な世界に連れ込まれる感じ。「ハイペリオン」シリーズの緻密さはないけれど、守備範囲の広さに驚いた。
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収録
「黄泉の川が逆流する」
「ベトナムランド優待券」
「ドラキュラの子供たち」
「夜更けのエントロピー」
「ケリー・ダールを探して」
「最後のクラス写真」
「バンコクに死す」
全体的に暗いトーンが漂う短編集。ベトナム戦争、エイズ、子ども、教師、屍者など、同じモチーフが形を変え何度も用いられている。
「ドラキュラの子供たち」まで読んだ時点では、社会性が強い物語をブラックジョークのような設定で描いていて面白いとは思ったもののそこまでではなかった。
しかし、
「夜更けのエントロピー」以後は最高だった。どれも読み終わって溜息が出る。
「夜更けのエントロピー」
自動車保険会社員である父親が別居中の妻のもとにいる娘と久し振りに会ってアルペン・スライドで橇を滑る現代パート、過去の回想、様々な保険関係の自動車事故を「オレンジファイル」から選んで語る話。
全体としてこの三つの軸が次々と入れ替わりながら語られる。
積極的に語り手がどう感じているかは語らず、なんとなくジョークじみた調子で物語は進む(オレンジファイルから選ばれる話は当事者にとっては悲惨であっても、笑い話にしか読めない)
しかし、現代パートである娘との橇に乗っている場面が、物語の進行とともに見え方が変わっていく。これが本当に鮮やか。
「事故は死と似ている」
いくら注意したって突然事故は起きてしまうように、死も突然起こってしまう。序盤では父親は、やたら神経質に娘の安全を気にする人間に見える。けれども娘を持つこの父親は人並み外れてその事実に触れて来ていて、そうしたものに対する不安や恐れを抱きながらどうすればいいのかと迷い続けている。
こうした父親の思いと娘を見る視線が、橇で前を行く娘との移り変わる距離感とリンクしてて絶妙。
そして重力(グラヴィティ)とエントロピーの解釈を交えつつ、父親は自身のスタンスを求めて、最後には……
ラスト間近に父親が思う、「とはいえ、」以降の言葉がそれまでの伏線と展開がたっぷり効いてきて感動。
「ケリー・ダールを探して」
元・教師と元・教え子が誰もいない世界で狩り合う。
装備品や描写が妙にリアルでありながらも、非現実観ある対話や雰囲気が気にいった。
言葉にできないこうした関係性を描けるのはいい。
「最後のクラス写真」
ゾンビ小説として素晴らしい。
冷静沈着に歯と爪を除去した子どもゾンビ相手に毎日規則正しく授業をし、時には迫りくるゾンビにレミントンをぶっ放すギース先生(60歳越え、88.5キロ)。
ジョジョに出てきてもおかしくないレベルの精神力と意志力。
消極的にではなく、積極的にあるはずのない日常を作ろうとする。
「バンコクに死す」
医学知識を大量動員&人間のとある営みを絡めて、古今東西で描かれたあるモノを描いている。とても面白い。
これもインパクトが強烈過ぎて忘れ難い一編。
なんとなく読みながら竹本健治「白の果ての扉」を思い出した。
ひとつの感覚の行き過ぎた先を描いてる作���として。
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「夜更けのエントロピー」……エントロピーとは失敗する可能性のあるものが実際に失敗する確率、つまり保険業としてはエントロピーが高くなってはだめなんだろう。多くの失敗を目にし、経験し、限りなくエントロピーが高くなっても、可能性を信じよう。「ケリー・ダールを探して」……なんて美しい話なんだろ。そして自分探しとしても極上。「ドラキュラの子供たち」ではリアルな社会問題とファンタジーの奇妙な合成がスレスレの所でとても良い。
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タイトルだけで選んだ本。読んでいていやな気分になる本かな。特に初めの2編が重かった。ちょっと失敗したかもと思った。設定や文章のトーンなども相まって、万人向けではなさそう。
途中から読みやすくなった。作者の文体やトーンに慣れたのかも。ちょっとグロい世界を覗いてみたい人には良いかもです。
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タイトルから勝手にほのぼのした物語を想像していたが、とんでもなく味の濃いホラー短編集だった。
「黄泉の川が逆流する」☆☆☆☆
主人公の大好きな母親が死んだ。
父はそれを受け入れることができず、周囲の反対を押し切って母を生き返らせることした。
しかしそれは理性のないただのゾンビにすぎず、しだいに家族がおかしくなっていく。
みんな狂気に溢れていて怖い。
死者をゾンビ化させて生き返らせる話は多々あると思うが、どこから始まったんだろうか。
「フランケンシュタイン」か?
伊藤計劃の「屍者の帝国」を読みたくなった。
「ベトナムランド優待券」☆☆
疑似的な戦争を体験できるベトナムのテーマパークの話。
旅行者が戦闘をイベントのように楽しんでいるのは狂気を感じた。
しかし、実際どういう話なのかはよくわからなかった。
「ドラキュラの子供たち」☆☆☆☆
ルーマニア革命後の再建支援に訪れた主人公たちは、チャウシェスク独裁政権が生んだ惨状を目にする。
チャウシェスクは子供を産むことを奨励し中絶を禁止していた。
おかげで子供の数は増えたものの、多くの子供を育てるだけの経済力が伴っておらず、育児放棄が多発。
子どもたちが行き着いた孤児院もまた貧しく、そこでは栄養補給のため大人の血液を注射するという方法がとられていた。
その中にはエイズ患者の血液も含まれており、しかも注射針の交換や消毒もなされていなかったため、多くの子供がエイズに感染した。
あまりの衝撃に手が震え、フィクションだろうと思っていたが、調べてみると現実にあった出来事だという。
「夜更けのエントロピー」☆☆☆☆
保険会社の自己調査員を務めている主人公は、これまで多くの事故現場を目にしてきてた。
その中には自分の息子を亡くした事故も含まれており、それすらも客観的に淡々と語っていく。
そして今、彼は残された一人娘と共に休日を過ごしており、山の上からソリで下るアトラクションを楽しもうとしていた。
何件もの事故の話をすればするほど、娘が事故にあうフラグが確固たるものになっていくような気がしてしまう。
語り自体は淡々としているのだが、かえってそのせいでうすら寒い怖さが際立つ。
「ケリー・ダールを探して」☆☆
何年も前に行方不明なった教え子を捜索する話。
著者の教師としての経歴が反映された話のようだが、物語をどうとらえればいいのかよくわからなかった。
「最後のクラス写真」☆☆☆
ほとんどの人間がゾンビと化した世界で生き延びている主人公の教師は、子供たちの理性が戻ることを願って、ゾンビの子供たちに教育を施そうとする。
またも狂気。
教える側のエゴのような気もするなあ。
「バンコクに死す」☆☆☆☆
法外な見返りを要求されるタイの性風俗。
そこでは何が行われているのか。
血の気が引くほどのグロさのはずなのに、同時に官能的なものも感じてしまうのは僕がお��しいのか?
どちらにせよ、男にしかわからない表現も多いかも。
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夜更けのエントロピー
スティーブン・キング、フィリップ・K・ディックと並び、天性の才能を感じされるダン・シモンズの短編集。
「愛死」で読んだ短編がいくつか収録されていたが、また、世界に引き込まれてしまった。
吸血鬼、ゾンビ、ベトナムの狂気と題材に目新しいものはないが、恐怖の本質をついたとらえどころのない不安感から、余韻のある最後まで、飽きさせることなく読ませてくれる。
いつも、挫折してしまう「ハイペリオン」シリーズにまた挑戦しなければ。
何故挫折するか?それは、読み終わるのが惜しくてゆっくり時間かけて読もうといういつも思ってしまうからです。
決して退屈なわけではありません。
竹蔵