紙の本
真の職人は絶えず革新の工夫を重ねる
2003/11/26 17:53
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投稿者:日経BP社 編集委員 木村功 - この投稿者のレビュー一覧を見る
職人の技とは何か、それが現代にどのような意味を持つのか。自ら旋盤工として50年を過ごした著者が、現場で働いた自分の経験と熟練職人に聞いた話をもとに、伝統手法に画期的な工夫を加えて革新的なものづくりに励む職人を生き生きと描き出す。この1冊で見えにくかった職人の世界がはっきりと読者の眼前に広がるだろう。
著者は、職人の技能、熟練、仕事に対する姿勢などを次のように語る。
「技術が進歩すれば技能は要らなくなる、と考えるのは誤りである。…技能よりも技術のほうが上だと考えるのも、技術者の奢りである」
「工場の職人は限りなく無個性なものを作るために、そのものを作り出すプロセスで、限りなく個性を発揮する人たちだ」
「伝統的な技能にとどまっていないで、常に新しい、よりすぐれた技能を獲得して、伝えられた技能の限界をさらに拡げようと努力する技能者だけが、熟練工と呼べる。だから、熟練はいつも生きている。時代を生きているし、空間を生きている」
「ものを作り出す人間の心だては、ものを作るところから、ものとの関係のなかでのみ生まれる。ものとの関係のなかでのみ生まれて、人との関係のなかにまで生きる。そういう心だてだけが、職人気質と呼べるものである」
このような著者の言葉は、豊富な実例をもとに導き出されているだけに迫真性がある。自分の専門の金属を削る旋盤の仕事にとどまらず、家具、測定機器、機械部品、精密電子部品、レンズ研磨、食器、果てはパン製造まで広く熟練職人の技能を追求していく。著者自身が職人であるため、それぞれの分野の職人が知恵を絞り工夫を重ねる過程がじっくりと書かれている。職人同士で相通ずるところがあるのか、こうした点の叙述は他の書き手では到底及ばないところだろう。
この本を読んで感動を覚えるのは、ものづくりに限りない愛着と誇りを抱く腕のよい旋盤工の背筋をぴんと伸ばした、おもねりも虚飾もない著者の姿勢である。日本の未来は、ものづくりにかかっている。ものづくりに関わるすべての人に読んでもらいたい本である。どんな職業にも職人的な要素がある。ものづくりとは直接関係ない仕事についている人にも得るところが大きい本だ。
なお、著者は労働運動、政治運動にも関わってきた小説家でもある。
そしてこう語る。「ものは雄弁である。いい仕事をしていれば、きっと誰かが見てくれる。人が見ていなくても神様はきっと見てくれている。経済的には決して恵まれないで、いい仕事をするが生きかたとしてはむしろ不器用にしか過ごせない人に、無神論のわたしが、つい神様を担いでそんなことを言ってきた」。職人を励ましながらも、職人にどっぷり漬かりきれない部分を残す人間の正直な息づかいが伝わってくる。いや、それらは著者の中でしっくり同居しているのかもしれない。
紙の本
エンジニア必読。政治家とかも読め。
2004/04/30 09:38
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投稿者:SnakeHole - この投稿者のレビュー一覧を見る
やぁなんともいい本である。捨ててもいい金があったら1,000册ばかり買いこみ友人知己親族縁者海砂利水魚に送って読めと言って送ってやりたいような本。著者の小関さんは小説家として芥川賞候補になったりしながら50年間旋盤工として働いて来た「職人」である。その小関さんが,自らの体験やその間に出会った他の職人たちの話を通して,技術ではなく技能を磨くことの必要性と素晴らしさを説く。実になんというか読んでいて気持ちのいい本であります。
例えば「鉄を平に磨く」という仕事がある。最先端はどのくらいの平らさか。なんと1/10,000ミリの世界である。こんなものは機械では作れない。測定機器のトップメーカー「ミツトヨ」でこのレベルの原器(マスター)を作っている木村さん,常に気温20度に保たれたクリーンルームで,狂いが限りなくゼロに近い定盤(これも実は木村さんの作だそうな)の上に1辺40cmほどのマスターを乗せ,研磨剤を塗って滑らせる。軽い金属音がして一往復,これでその日の仕事は終わりである。たったこれだけの摩擦でも金属のマスターは膨張してしまうので,冷めるまで2時間ほど待って測定する。と,2/10,000〜3/10,000あった凸凹が1/10,000になっている。……すごいでしょ,こういう話が満載なのよ。エンジニア必読。政治家とかも読め。
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旋盤工だった著者が自分の経験や同業者などのコメントを交えつつ
現場での職人の存在に迫った本。
職人とは伝統の技術を会得したものではなく
伝統の技術と新しいものを知恵によって掛け合わせて
常に現状の自分を自己否定しながら革新していく存在であるという。
僕らの生活の中でほんの些細なもののように感じられるもの
例えば釘であったり携帯のパーツであったり
そういったものの作り方が現代のニーズに合わせて
どのような作り方を開発してきたのかが分かる。
結果として個性のない汎用的なものを作っているとしても
その作る過程で独創性を発揮できるのが職人だ。
そこには確かな技術・新しいものへの好奇心・チャレンジ精神・想像力がある。
ここに出てくる話はほとんどが金属の加工などの話だけれども
そこにはっきりと見てとれる職人気質というものは
ものづくりをするすべての人に必要とされるものだ。
僕は音楽をやっているので
ここに書かれていることを
音楽に置き換えながら読んでみたけれど
驚くほど根底に流れる部分は共通していた。
職人というと手技術のように思われがちだが
実際にはコンピュータも大々的に使われている。
そのコンピュータをどのように使うのか
マニュアル通りに使うのか、
マニュアルを踏まえた上で自分なりのやり方を編み出せるのか
そこが大きな違いになっているところなんて
コンピューター・ミュージックに言及しているかのようだ。
必要な道具が存在しないなら作ってしまうところなど
そのクリエイティビティはあらゆる業種に共通するものだろう。
そのイマジネーションにも技術にも
本当に感動した。
僕が目指してるのって音楽における職人なんだと思った。
もうひとつ収穫があって
それは父親の仕事を初めて少し理解できたということ。
父親はメリヤス工場で働いている人で
基本的に仕事の話は家ではまったくしない人なんだけど
ひとつだけ記憶に残っている話があって
それは生地を織る機械の話で
普通に使ってたらできないような模様を
針やプログラムなんかを工夫してできるようにしたって話で
それで大きな仕事が取れたんだって言ってた。
どういうことなのか上手く想像できなくて
それってすごいことなのかなぁって思ってたんだけど
それがとてもクリエイティブなことだと分かって
父親のことを前よりも尊敬できるようになったことが
この本を読んでよかったなぁと。
クリエイティブっていうと芸術方面をどうしても想像しがちだけど
どんなところにもクリエイティブな現場はあるのだと分かったことは
僕にとって新しい見地を与えてくれるんじゃないかと思う。
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この本を通して次のような“職人の思想”を知った。
『真剣に働く者にとって、働くということは常に恥を晒して生きるということである。そういう営みの中でこそ、ほんとうに学ぶことができるのではないか。自分の恥と向き合うことなしに、働きながら技能を向上させるなんて絵空事ではないか、とさえ思うのである。知恵は訓練だけでは得られない。問題に直面している現場に居合わせ、ものと向き合ったときに、はじめて湧いてくるのが知恵である』。
人前で恥をかき、現場で何度も失敗を繰り返しながら自分の中に技能や知識を蓄えていく。
それにしても職人と呼べる人がどの分野でもめっきり少なくなった。自営業に限らず、企業の中の最後の職人世代とも言えるのが、いわゆる団塊の世代ではないだろうか。あと2年でこの世代が大量退職する時期を迎え、様々な職場では今、彼らの技能や知識の継承に向けた取り組みが行われている。
ただ、一番大切な職人の“心”は、次の世代にきちんと
受け継がれていくのだろうか。
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ちょっと前に感動した本です。
読み返しました。
中身はとてもシンプルで、
継続すること、楽しむこと、諦めないこと、向上心をもち続けること、尊重することなど、
当たり前のことがとても大切。
そして、結果だけでなく、過程から学び、いずれ全体が見えてくる。失敗とは、諦めるから失敗といわれるだけで、諦めなければ成功までの過程でしかないんだという事。
そういったことがかいてあると私は解釈しました。
この本を読んで思ったことは、
人間ってきっとみんな職人で、みんなアーティストなんだなーと思いました。
みんな必ず何かを作り出す過程で、自分なりのこだわりってありますよね。
その一つ一つの積み重ねが独自の技術を身に付けさせて、オンリーワンになるんだなーと本気で思いました。
俺なんてまだまだひよっこですが、
そんな感覚を毎日忘れないように努力していって、
自分の人生に満足できるようになりたいと思います!
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「職人学」小関智弘著、講談社刊。モノづくりの流れの中に身を置く者の端くれとして、背筋が伸びる”校正用基準原器”のような本。モノづくりに限らず、仕事…”事を為す”上での視野と姿勢がただされます。「1/100ミリなら、職人でなくても誰でも感じる能力はある。」では何が職人にするのか。
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大学の教授に薦められて読んだ本。
人の手は髪の毛の太い、細いを感知できるほど感覚が優れている。
百分の一ミリの制度を感じることができる。
訓練すれば感じることができる。一ミリの世界が感じられないようではダメだなと思った。
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心を熱くさせる内容だ。
自分があこがれていたものを思い出した。
自分はソフトウェア開発に携わっているのだけど、職人は育ちにくい環境だと強く思う。
現場(プログラミング)の地位が低いし何かこう、技能に対する理解が低い。分野というよりも時代だろうか。
みんな素養を持っていると思う。この本を読んで気づいてほしいなあ。いや、自分の役目か。w
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Vol.58
新しい時代への挑戦!技を身につける第一条件とは?
http://www.shirayu.com/letter/2010/000109.html