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熱狂とユーフォリア スターリン学のための序章 みんなのレビュー

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紙の本

-忍び寄る現代のスターリンへの不安-

2008/07/20 23:38

7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:レム - この投稿者のレビュー一覧を見る

   スターリン政権下の「ソヴィエト社会主義共和国連邦(ソ連)」では、数千万人が粛清の犠牲になったと言われている。  その圧制下で、誇り高く活躍した文化人、知識人たちが数多くいた。  そして、スターリンの死後、権力者が幾度となく変わっても、あげくにはソ連が崩壊して国家がロシア連邦に移行した現在でも、文化人たちはスターリンの影響を色濃く受け続けている。
          
   著者は、ロシア文学やロシア文化論の研究者であり、現在、東京外国語大学学長である亀山郁夫氏だ。  本書は、スターリン体制の文化への影響という視点をひとつの軸にして、ロシアの文化人たちについて著者自らが綴った小論文、書評などを集めたものである。  自らのアンソロジーをまとめることを決意させた大きなきっかけは、2002年のソローキン事件である。  ロシアが、グラスノスチ、ペレストロイカという大手術を経て一応の思想自由化が進んだ今日でもなお、大検閲官スターリンが亡霊となって黒い影を投げかけているかのような危機感を察知したからだ。  (ソローキン事件:親プーチン派の団体がソロ-キンの小説「青脂」をポルノ流布罪でモスクワ検察庁に告訴した騒ぎ。この小説に登場するスターリンとフリシチョフは同性愛関係にあるという設定。)
   本書の意義は大きく二つある。  ひとつは、ソ連時代を中心としたロシア文化を通じてロシアそのものについて広く考察されていること。  そして、もうひとつの重要な意義は、「スターリン学」の誕生を宣言していることだ。
      
ロシアの考察について:
   ロシアは、西欧でも東欧でも、ましてやアジアでもない。  このようなロシア特有の精神を語る上で、著者は「終末的・有機的・切断的・母性的・微温的・生命的・平衡的・破壊的」の8つのカテゴリーを設定して本書をまとめた。  それぞれのカテゴリーにおいて、20世紀のロシアの思想、芸術、文学を論じながら、ロシア文化とロシア人、さらには今なお継続してこれを模索し続けている国家のアイデンティティーそのものが縷々考察されている。  語弊を恐れずに書くならば、時として著者自身までもがユーフォリアに浸って筆を進めた印象を受ける。
     
スターリン学について:  
   著者は、本書で20世紀ロシアにおける政治と文化をめぐる不条理学としての「スターリン学」の誕生を宣言している。  設立の背景には、急速に進展する科学技術への不安があることが挙げられている。  著者は、クローンなどの遺伝子工学やインターネットなどの電子工学分野を例に挙げているが、これらの科学技術に象徴されるものは、「高度化した技術でありながら短期間に世界中に一般化するもの。  しかも技術の効用とそのマイナス面に対して新しい概念や倫理観を必要とするもの」と言い換えられそうだ。  付け加えるならば、時としてその高いポテンシャルを十分認識できずに既に大衆の使用を許しているもの、である。  つまり、著者が懸念しているのは、これらの技術の普及や良識が、あるいはごく自然に常識化していく事象が、暗に誰もコントロールできない現代のスターリンとして世界の闇に君臨していくことへの危惧なのである。  高度化する技術の一方で、同様に世界中に広く浸潤している「マクドナルド化する文化」についても警鐘を鳴らし、グローバリズムの光と影について再考すべき時期にあることを述べている。
   スターリン学は、副題にも「序章」とある通り予報段階あるいは揺籃期にある。  この名称自体ももしかしたら変動しうるのかもしれないが、この学問分野は、過去の歴史を剥製にして博物館に陳列するような静的分析だけに留まるものではないようだ。  スターリン学の意義は、「未知の世界を透視し、批評する手立てのひとつとしての希望」を期待し、動的かつ未来的だ。  政治学者の塩川伸明氏はむしろ「ロシア・インテリゲンチア学」であると述べられているが、至言である。  (塩川氏は、東京大学でロシア・旧ソ連政治史を中心とした比較政治学を研究・教育されており、本書でも氏の複数の文献が引用されている。)  ソ連という国家におけるスターリン不条理そのものは、直接的にはスターリンが生み出したものであるに違いないが、「この概念は西欧近代的な価値観の落とし子」なのだ。  その西欧の虚像に振り回されたソ連型社会主義体制下の芸術活動は、熱狂とユーフォリアにこそ支えられていたが、これは幻像の追求ではなかったのだろうか。   
     
   著者は、スターリン学を通じて新たな視点を世に問い、思索の幅を広げようとしている。  私たちは、科学は客観的なものであり、高められるべき方向へ進んでいくものであって、スターリンに象徴される「不条理」がこれを左右するようなことは常識的にありえない、と思い込んでいるかもしれない。  しかしそう断言できるだろうか、と著者は疑問を投げかけている。  概念の拡大に伴う不安を和らげるには、善なるものを求める良識の存在も必要だろう。 しかし社会自体がある良識を誤解していれば、不幸の来訪を待って事後にその真価を知るしかない。  即答を並べたような安易な図書を紐解くのではなく、今はまず、8つのカテゴリーの視点に立って「ひたすら言葉を重ねる」ことから第一歩を踏み出す時期だろう。  スターリン体制という20世紀の不条理も、常軌を逸していたとは言え、元はといえば我々人類の思考の範疇から生み出された事象である。  これを人類学的に自らの種族の病理のひとつとして分析し、広義の意味での科学と理性や良識の研鑽に寄与することが期待されているのだと思う。

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