紙の本
悪酔い注意
2007/05/07 13:53
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hamushi - この投稿者のレビュー一覧を見る
表題作の「まどろむ夜のUFO」に出てくる人物は、私に言わせれば、誰も彼もキモチが悪い。いびつで、薄くて、現実とリンクした意志を持たない。
人をすごく好きになったり、嫌いになったり、何かを渇望したり、何かから逃げ出したくてたまらなくなったり……そういう強烈な感情の核になるべき「自分」のなかのエネルギーがスカスカで、他者との境界も奇妙な具合に曖昧で、薄い。まるでカエルの卵のように、ゼリー状のものにくるまれて半融合しているような、あるいはそうなりたがっているような、ぬるぬるとしたキモチの悪さを感じる。
そのキモチの悪さは、主人公の「私」の弟や、その友人の恭一たちの作る集団など、「前世」あるいは「UFO」を信じる側の人々だけでなく、常識に固執して子供たちの現実を直視するすべを持たない両親や、「私」と付き合いながらも決して一定以上のつながりを持とうとしないサダカくんという男など、表面上は「現実側」に位置しているように見える人たちにも共通している。
「私」の弟は、おそらくは存在していない「彼女」のために、マメに料理をして運びつづけ、妄想を綴ったラブレターをゴミ箱に放り込む。「私」が付き合っているサダカくんは、五日に一回きっちりとデートをし、タバコには番号を書いて決まった本数だけ吸い続け、口を開けば決まり切った予定と一般常識以上のことは全くしゃべらない。この二人は正反対のキャラクターのようであり、実際に相容れようとしないけれども、実はそっくりだと思うのである。ぐずぐずと崩壊しそうな自分を維持するために、弟はUFOや前世や妄想の恋を取り込み、サダカくんはひからびたような常識や自己管理のルールをくわえこんでいるだけのことである。どちらも、もともとの自分があまりにも弱くて、からっぽなのだ。
誰も彼も、なんだか、核が抜けたアメーバみたいで、とりとめがない。寄り集まることはあっても、交わることも、何かを生み出すこともない。命を持つものとしての本質的な脆弱さが、作品の隅々にまで蔓延していて、実に居心地の悪い気分になる。若い世代の心の底のリアルとやらが、本当にこうしたものだとするならば、これはもはや病理であると言っていいのではないか、とまで思いたくなる。
そんな中で、主人公の「私」だけは、何かを見て考え、選び取ろうとする気配を持っているのだけれども、「私」独自のリアルを確認するには至らず、他人の手あかのこびりついたような幻想のはざまを漂い、観察し、そこから立ち去るだけでこの話は終わっている。
もっと年若いころにこの作品を読んだなら、共感を得る部分もあったのだろうか、と考えてみる。いろいろと思い起こせば、たしかにこんなあやふやな一時期を通り抜けてきたような記憶がないでもない。けれどもそれは郷愁を誘うような記憶では決してなく、強い嫌悪感を伴って呼びおこされる醜悪な過程であり、抜け出すことができて心底よかったと思える、ひずんだ空間の記憶である。自分の目で見て、考えて、限られた命を使って生きていこうとする者にとって、借り物の概念を麻薬のように吸い込んでリアルから足を離して漂うなど、屈辱的なあり方以外のなにものでもない。ということを改めて認識できたという意味では、この作品を読んでよかったな、と思う。
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野間文芸新人賞を獲った作品集。表題作は正直「?」というかちょっと居心地悪い感じがしたけれど、「もう一つの扉」という話が良い。普通の話かと思ったらどんどんこんがらがって信じられないとこまでねじれていく。おーい!おーい!ていう。
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自分は普通の大学生と思っていても、周りにはいろんな世界で生きている人たちがいて、自分てなんだろう…。なんか切なくなる話。
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どこにでもいそうな、でもいなさそうな、そんな日常を送る人たちが出てきます。
どこか、連想する人がみつかるのでは?
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レビューはブログにて。
http://tempo.seesaa.net/article/48924123.html
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「空中庭園」と「エコノミカルパレス」が良かったらからといって惰性で読んでいる角田光代シリーズ。これも「ピンクバス」も「真昼の花」も「キッドナップツアー」もぱっとしない。なんだろうこの差は。
日常生活の浮遊観を表現するのが得意なんだろうけど、初期の作品は浮き過ぎって感じです。
まどろむ夜のUFO
ジャム作りに凝る弟。
もう一つの扉
会社に行かなくても誰も気づかない
ギャングの夜
キッドナップツアーに似ている。
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フリーター文学。
自由です。忙しい時に時間を縫って読むといいかもしれません。
だらだらしてる時にはだめな気がします。もっともっとだらだらな気分に。
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「まどろむ夜のUFO」
角田さんの小説の主人公は、どんな人だろう?
と、いつもぼんやり想像してみる。
でも、いつもぼんやりしたままで終わってしまう。
この作品は弟とその仲間たちの、宗教チックな不思議な世界も印象的だけど、その人物たちと対照的なサダカくんの存在が気になる。
なんかサダカくんが、今の「普通の人」を象徴している気がした。
予定や未来が見渡せる安心感と幸せ。でも、予定の為に、未来の為に今を生きているわけではないし。
今の為に今生きているわけだし。
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不思議な雰囲気。
斎藤美奈子さんの解説を読んで、なるほどと思った。
私、こういう抽象的な作品を深く味わっていなかったと気付いた…
文字の奥の情景や雰囲気、意味を読み取らないと、作品台無しにしていたかも。
でも、読んでいて楽しかった。
これからはもうちょっとしっかり読み取っていこうと思う。
読んでいるうちに、自分がどこかへ行っちゃって、帰ってこられなくなるんじゃないか、なんて感じた。
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登場人物がみんな冷めてるっていうか冷静。静か。
そんな人たちが語り手だから少し無機質な感じ。
不思議な感覚に陥る。
少しうっとしい。
この静けさが少し病みつきになってしまったら
まどろむ夜の中に、ふわーっと吸い込まれるかもしれない。
ちなみにあたしには重くて、怖い。
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『まどろむ夜のUFO』はとても不思議な感覚のストーリーでした。
弟の行動も謎だらけでおかしいし、その友達の恭一の存在もおかしいです。
几帳面な同級生のサダカくんも、あまりにも几帳面しすぎて
私には堅苦しい感じがしました。
そのせいなのか、恭一の危ういところが魅力的にも思え、
もしかしたら主人公の彼女もそこに少し惹かれている気持ちがあるのかとも思えました。
恭一の言葉で「おれ本当にちゃんと覚えていてるんだぜ、
生まれたくてたまらなかったことも、そこためにすげえ努力したことも、
だから生まれるときなんてあれだよ、母親が苦しんでいるのに自分で
必死に頭動かして出ていったんだよ。あれは母親が息んで産んだじゃない、
おれが自分で出ていったんだ。ねえそれつてどういうことかわかる?
~中略~生まれたらおれたち、ナンもしなくていいんだよ。
何もしないことを自分で選べるんだよ。
だってあんなに大変な思いをしてきたんだから、これ以上大変な目にあわなくても
許されているの。こっちの世界はさ、休暇なんだぜ。~以下略」
よく赤ちゃんは親を選んで生きたい所に魂が入ると訊いたことがあるので、
もしかしたらその事を言っているのかと思いました。
けれどそれにしてもこの言葉はあっちの世界とは何処の世界のことなのだろうかと・・・
他でもこの作品ではあっち側、こっち側とありましたが、
何処の世界の事を線引きしているのかがおぼろげでした。
今でも弟がジャムを作っていたのは何の為なのかと・・・
中身は何かと余韻を残す作品でした。
『もう一つの扉』、『ギャングの夜』はある程度歳を重ねた方が読むと
この作品の味わいがよく分かると思います。
私もそんなに人生経験豊富ではないですが、
ある程度の社会経験をしてきているのでこのニ作品は頷けるところが多々ありました。
両作品ともこんな生活ではいけないけれど、
人生の中ではこんな事もたまにはあるよなというと共に、
これから頑張って生きていくという希望が見える所が良いです。
角田さんの作品は女性に人気がありますが、
私も好きで度々読みますが、やっぱり各世代の女性の心理的な面を
しっかりと掴んでいて、それをはっきりと書くのではなくて抽象的や、
比喩的に書かれていて何かで包まれているように書かれているから
心に優しく届くと思うのです。
結局三作品ともそんな感じに書かれているので、
おぼろげでもじんわりと心を和らげてくれた作品だと思います。
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UFOだとか謎のジャムだとか河童だとか、読んでいて気持ちが悪い。
しかし好きなドライ加減。人間関係。良い湿度。
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3つの短編の主人公は皆、「定まっていない」人たちばかり。
一瞬を生きているような彼女たちは妙にリアルで、
その軽い自由さが不安で、同時に心地よい。
http://matsuri7.blog123.fc2.com/blog-entry-63.html
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登場人物はみんななんとなく不安定でどことなしか大人になりきれない情緒不安定を抱えている。しかも、モラルが欠けていて、価値観とかもちょっと…いや、かなり常人と離れているかんじなので、実際にはお近づきになりたくないタイプの人たち。
なんともいえない浮遊感が漂っていて、お話が角田さんの文章にとても合っている。だから、登場人物全般的に実際には近づきたくない人たちなんだけど、軽蔑するわけでなく、憧れるわけでもなく、淡々と受け入れることができて、人間っておもしろいなぁと思う。
ただ、今はかなり落ちている状態なので、正直言うとこの本は読んでてかなりしんどかった。じゃあ、読まなきゃいいと思うんだけど、止めれなかったんです。
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表現が難しくてよくわかんなかったけど1番目の話はそこそこ好きだった。
サダカくんみたいな人ってほんと多いんだろうなあ。
偏見だけど。
静かに狂ってる人っていう表現が好きだったかな。
あと、俺に言わせてみるとあいつの方がよっぽど狂ってるよ、が好き。