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小林 泰三による侵略型SFホラー小説。思想を異にする2体の宇宙知的生命体が地球に降り、地球の生命体に寄生して戦いを繰り広げるというプロットはハル・クレメントが1950年に発表した侵略SFの古典「20億の針 (Needle) 」をベースに、ロバート・A・ハインラインが1951年に発表した『人形つかい』、1987年にアメリカで公開されたアクションホラーSF映画『ヒドゥン(The Hidden)』のホラー感覚、スティーヴン・バクスターが1991年に発表した宇宙高等知的生命体同士の対決SF作品「ジーリー (Xeelee) 」シリーズの世界観を始め様々なSF作品を一つの鍋に入れ、和製特撮映像作品を調味料に加えたトンデモSFスプラッターホラー小説。
本作を1966年に円谷プロが製作した「ウルトラマン」へのオマージュとする感想を多く見受けるものの「ウルトラマン」の初期段階からの基本設定は円谷プロのメインシナリオライターであった金城哲夫氏らがクレメントの「20億の針」を草案にしているので本書がウルトラマンのオマージュやパロディとするのは語弊があり、むしろ「仕切り直し」をした作品といえよう。しかし、読者のサービスやビジュアルを明確化する意味合いも込めて特徴的なフレーズを使って楽しませてくれるのは事実。
前作の「玩具修理者」から引き継いだ宗教における信仰心や教祖のカリスマ性の裏側に垣間見える人の弱い心やそれに入り込もうとするドロドロとした思想は即ち心への「侵略」であるとする部分をより明確化した作品であり、ジャック・フィニイの名作「盗まれた街」の日本版クライマックスは「影」との決着を描きつつも、プラズマ生命体、ダークマターを扱ったハードSF調の締めくくり方は、前半のハチャメチャなダイナミックさを徐々に抑え、しだいに美しく輝きだすかのような綴りで、それはまるでホルストの組曲「惑星」をフルで聞いた様な後味が楽しめた。
「ΑΩ」 Αアルファは始まり、Ωオメガは終わり。アルファは淘汰であり、Ωは再生。ぞしてそれは永遠に続くのだ。
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グロくて絶望的な世界描写が延々続く話かと思いきや、わりあいハッピーエンドで読後感が清々しい! 驚いた。
中身は、エヴァンゲリオンとバイオハザードとウルトラマンと『ジュマンジ』のごった煮といった様相を呈している。しかし、徹底的に作り込まれた設定お科学考証のおかげで、猥雑さも過剰にはならず、説得力がある。いやあ、じつに読ませる! 作者の力量のなせる技か。
ラスト2ページは、作者によるファンサービス! 「長いお話、ここまで読んでくれてありがとうございます♫」と作者が言っているような愛嬌のあるオチ。
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地球に2つの異星生物が降下する。赤い玉を青い玉が追っている。青い玉の宇宙人は誤って人間を死なせてしまったため、彼に同化して命を繋ぐとともに、地球上で活動する基盤を得る。普段は人間として活動するが、敵である赤い玉の生物と戦うときには、銀色の巨人に変身する。しかし、地球上ではその変身形態は短時間しか維持できない。
それは『ウルトラマン』のストーリーだろうって? 『AΩ』のストーリーです。
明らかに『ウルトラマン』を意識した、ある種の怪獣SFである。角川ホラー文庫に収録とあって「超空想科学怪奇譚」などという副題が付いているが、角川の編集者はアホか?
ホラーの意匠を借りているのはプロローグ。航空機事故で死んだ、別居中の夫が蘇って、起き上がり、妻の腕をつかむ。悲鳴を上げる妻。
ところが蘇るのには上記のような理由があるのだから、ホラーにはならない。ウルトラマンに当たるのが、ガ。プラズマ生命体である。情報のみで定まった肉体を持たない生命。ガはそんな「一族」の中のトホホな存在。繰り返す失敗の末、起死回生を期して、困難な任務に挑む。「影」を追うのだ。
「影」とはこの宇宙の物質より2分の1スピン小さい素粒子によって構成されているために、この宇宙の物質とは干渉し得ない何者かである。干渉し得ないとはいっても、重力だけは共通して影響を受ける。「影」はこの唯一の回路を通して、オートマトンをこっちの世界に送り込んできた。目的はよくわからないが、明らかに「一族」にとって危機だ。この「影」の破壊がガの任務である。地球に向かった「影」を追ったガは飛行機に接触し破壊してしまう。
ガによって疑似細胞を補填されて蘇った男は諸星隼人。諸星ダンとハヤタ隊員を合成したような格好いい名前だが。どうやら彼は彼で人間社会の中ではかなりトホホな男だということがわかってくる。そんなトホホ同士でも、互いに目的はまったく違う。「影」と戦うときには不要な色素はなくして白色の体で、と描写しつつ、それを「銀色」と言わせてみたり、戦闘体の出す声が「ジュワ」とかだったり、随所にオマージュが。
「影」と戦う度に肉体がズタボロとなる隼人にとってはいい迷惑だが、ガなくして隼人の生存もない。そんな共生状況にあって、やがて、妻を助けに行こうとする隼人とガが心を通わせる部分は感動的。ファースト・コンタクトSFでもあるのだ。他方「影」ははじめは怪獣のような形態を取ってガと戦うが、やがて地球生物に干渉し、ドロドログチャグチャズルズルと壊滅的な状況になってくる。破滅SFでもあるのだ。
そして最後は宗教SF、哲学SFをかすめて、硬質な抒情のもと終結を迎える。傑作である。
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(あくまでも常識というのは主観的なもので、
人によって感じ方はそれぞれ違うかもしれないが)
登場人物たちの言動があまりに常識から外れていて、
"登場人物の行動が物語を進行させる"のではなく、
"物語を進行させるために登場人物が動いている"
違和感が消えなかった。
漫画で言えば
寄生獣や、亜人、進撃の巨人にカテゴリされるような、
人類危機を描いたスケールの大きい作品ではあるが、
一個人を中心とする小説という表現手段のせいなのか、
スケールの割りに閉じた世界で展開しているよう感じる。
ウルトラマンはちゃんと観た記憶がないが、
似ているのだろうか。
敵の目的がさっぱりわからないままなのも、
つかみ所のない読後感の大きな要因かもしれない。
知識は豊富だし、文章は淀みなく説得力がある。
個人的にスプラッタSFは初めて読んだ。
趣向に合わなかっただけで、好きな人は大好きであろう。
私がこの作品について
ただひとつ言えることがあるとすれば
交接はエロい。
ということだけだ。
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映画「ヒドゥン」を期待したら日本特撮ヒーロー物の方やった…副題の「超空想科学怪奇譚」ってとこで気づくべきやったなぁ。主人公の名前からしてまんまやしなぁ…
あのヒーローをリアルに描いたらっていう手法には新鮮味がないし、エイリアン視点での章は読んでてしんどく挫折本になりそうだった。
勝手に期待して勝手に肩透かしを喰らってしまったが特撮巨大ヒーロー物が好きで堪らない人には響くのかも。
グロ描写は相変わらず凄まじい。
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2001年の小林泰三作品。
『ウルトラマン』を期待して読み始めました。
怪奇でミステリアスなプロローグで心を掴まれたのも束の間、かなりガチガチにハードSFな第一部で心折れそうになりました。
そんな第一部を乗り越えると、グロい描写に彩られた『ウルトラマン』の世界。
あれ?これって石川賢先生のマンガ版『ウルトラマンタロウ』みたい、いやいや石川賢先生で言ったら『魔獣戦線』かな、なんて考えてると、「人間モドキ」が登場して、これは『ウルトラマン』だけでなく、『マグマ大使』、『魔獣戦線』他ダイナミックプロ作品のオマージュ作品なんだな、と納得しました。
少年時代に読んで大好きだったのに忘れかけそうだった石川賢先生のマンガを思い出させてくれた、という意味で、いい読書体験だったと思います。