紙の本
作家は官能の荒野をめざす
2004/05/03 22:43
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:黒木太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
トルコだったか、ある国の諺に「すでに本はたくさん書かれすぎている」というのがあると聞いたことがある。人間如何に生きるべきか、であるとか、恋情の狂おしいまでの思いであるとか、作家たちは絶え間なく書き続けている。この諺を前にして萎縮する、そんな柔な心臓であっては小説などは書けないということであろうか。いわんや、官能小説である。どのようなジャンルよりも古今東西、どれほど幾多の作家たちが官能の世界を描いてきたことか。彼らにとって、冒頭の諺にどんな意味もない。官能小説は確かにたくさん書かれてきた、しかし自身が求める官能ではない。かくて、作家たちは二一世紀になっても、官能の荒野をめざすのだ。青年たちは、とっくに荒野をめざさなくなっているのに。
この「エロチカ」という本は、津原泰水、山田正紀、京極夏彦、桐野夏生、貫井徳郎、皆川博子、北野勇作、我孫子武丸といった八人の人気作家たちが、それぞれの官能を描いた作品集である。作品の前に「官能とスキル」と題して、桐野夏生が堂々たる官能宣言を書いている。「人は一生かかっておのれのエロスの何たるかを知る。あるいは、知らずに死ぬ。自分のエロスこそが最大の謎なのだとしたら、作家たる者は皆、摩訶不思議にして、生きるに肝要なエロスというものを、文章によって表現すべきではないだろうか、これぞ作家のルネサンス運動に相応しい」と。桐野の気負いを感じさせる文章は、作家たちがなぜ官能の世界を描こうとするのかといった疑問の答えを明らかにしている。つまり、官能とは謎であるということ。そして、謎であるということは答えもどこかにあるということ。作家たちは果てのない荒野に歩きだすしかない。
では、官能とは何だろうか。その答えは読者一人ひとりの心の中にある。少なくともこの本に収められた八編の作品を読んで、生理的な性欲を掻き立てられることはない。そういう点ではこれらの作品に官能小説の高ぶりは期待しない方がいい。しかし、京極の、あるいは桐野の作品を読んで、深く心の官能を揺さぶられる人もいるかもしれない。少なくとも私が感じられなかっただけで、別の読者は違うかもしれない。それこそが、桐野のいう「自分のエロスこそが最大の謎」なのだろう。
昔ずっと昔、スフィンクスは旅人に謎かけをしていたという。この本はもしかしたら、現代のスフィンクスかもしれない。私たちにかけられた謎、それこそが「おのれのエロスの何たるか」ではないだろうか。
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ただの官能小説ではない、と解説で度々書かれていたが、いかんせん普通の官能小説を読んだ事がない為比べられなかった。ただエロというよりエロスという感覚を受けた。
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さまざまな作家がWEBノベルに寄せた「官能」がテーマのアンソロジー。の作家群のなかに京極さんの名前を見つけたから、掘り出しモノを見つけた気分だったのに。正直読まなきゃよかった。だってことごとくグロい。官能というものを突き詰めるとそうなっていくのが道なのかもしらんけど、私的にはきもちわるかった。津原泰水ツハラヤスミさん「淫魔季」すごくインパクトはあるんだが。。このインキュバスには気持ち悪さしかない、、というかたぶんこの話でじゅわっとくる人はM。あたしは全然。寧ろ腹立つ。山田正紀さん「愛の嵐」これはもういちばんキモチワルイかも。これはS的なんだろうけどソフィアは私の期待するエロスには全くあてはまらん。狂気。そして京極さん「大首」オンモラキとジャミにでてきた“馬鹿”大鷹の、性のトラウマ外伝?うーん。。どうせなら榎木津か中禅寺の官能譚を書いてほしかった。。桐野夏彦「愛ランド」女3人旅行の告白話。。これもなあ。ドキドキよりもゲゲゲってかんじ。貫井徳郎さんの「思慕」これは冒頭でもうラストが見えたけども、里海さんは印象に残ったなあ。皆川博子さん「柘榴」これだけが美しかった。いや私べつにレズではないんですが、文章の描写といいストーリーといい、これはちょっと陶然となるものがあった。読んでよかったのはこれくらい。北野勇作さん「あの穴」。。。きもちわるいよー(;.゚´.艸゚´;.)夢にでてくるよーさのばびち。おえ。我孫子武丸「危険な遊び」これも、M要素が欠落している私としては官能という意味では全く反応できなかったけれども、二枚重ねのラストは良かった。うーん。なんだろう。私の「官能」基準ってちょっとズレてるのかもな。全体的に、M体質の人のほうが合ってそうなアンソロジー、でしたわ。
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官能小説アンソロジー……といってもさすがこの顔ぶれ、只者じゃあないぞ。どの作品もいろんな意味でインパクトは大。各作品に添えられた解説も必見。
個人的には皆川博子「柘榴」がかなり好き。そういえばたしかに皆川さんの作品には、すべからく官能的な部分があるといえるね。この作品も例外ではなく、もちろん美しさもばっちし。
しかしミステリ好きとしてはやはり我孫子武丸「危険な遊び」がイチオシ。これにはやられたとしか言いようがない。さすが。そして貫井徳郎「思慕」は、「さよならの代わりに」を読んだ人にお薦め……していいような悪いような(笑)。
ちなみに(好き嫌いは別としても)最大インパクトの一作は北野勇作「あの穴」だなあ。ムラサキバナナナメクジって……(笑)。しかも「気持ちの悪い官能小説」ってどうなんだろ。
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卑猥という言葉がおそろしく似合わない、まさに官能的な掌編ばかり。
描写の美しさと官能さは持ちつ持たれつだと思う。
淫魔季 | 愛の嵐 | 大首 | 愛ランド | 柘榴 | 危険な遊び
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作家8人による短編集。
そのいずれにも共通していることは
肉欲に関するテーマである、ということなのだが、
切り口がものの見事にバラバラでそこが面白い。
特に終戦直後のソ連の捕虜収容所における
ある女性の異常を描く山田正紀「愛の嵐」と
マンネリを迎えただらしない男女の醜い企てが
どんでん返しを呼ぶ我孫子武丸「危険な遊び」が
素晴らしい。
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桐野 夏生さんの「村野ミロシリーズ」検索で桐野作品が含まれていて書架に並べてあって連れて帰った本。ミロシリーズと併読した『18禁図書』エロス満載で、淫魔季 津原泰水著. 愛の嵐 山田正紀著. 大首 京極夏彦著. 愛ランド 桐野夏生著(旅先での3人の女性の告白). 思慕 貫井徳郎著. 柘榴 皆川博子著. あの穴 北野勇作著. 危険な遊び 我孫子武丸著・など8編を収録する。
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この参加作家の顔ぶれを見てみてくださいよ、ええ? まったく、垂涎ものの豪華さですぜ。
もともとエロっぽい作家さんもいれば他の作品では肉っぽさをそれほど感じさせなかった作家さんもいるけど、どの方も一流なのは間違いない。エロくてゾッとできて、泣けて笑えて感動できて、そしてやっぱりエロい。北野勇作さんのすっ呆けた気色悪さには笑わせていただきました。
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8編の官能小説アンソロジー。正直、官能小説っぽくないものもいくつかでちょっと期待はずれ。北野勇作だけ初めて読んだ作家さんだったけど、面白くなくて途中でやめた。なめくじって気持ち悪すぎ。桐野夏生「愛ランド」が一番面白かった。まだまだ続きそうというか、長編の一部分でもおかしくない。旅先で3人の女性が「一番良かったセックス」を告白、という帯の説明。性奴隷ねぇ。ほんとにあってもおかしくないような、いやいやおかしいような。でも金持ち、権力者の間ではありそうだよなー。
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豪華作家陣による「エロス」アンソロジー。
皆川博子先生の「柘榴」の艶やかさに酔い、北野勇作先生の「あの穴」になかなかくすぐられ……
が、もう桐野夏生先生の「愛ランド」にすべて持って行かれた感。
なんだこれ!!!
先生、もう本当に勘弁してください……怖いよ!エロスじゃなくて怖すぎる!!
それと個人的には、この作品がトリ?とちょっと納得いかず。
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20190825
官能小説?アンソロジー。エロティック12幻想より露骨ではないし、それほどに下品でもない。それぞれの得意分野で、エロスをスパイスにしましたという感じ。
津原さんの「淫魔季」目的だったが、うーん、幻想的ではあるが、むしろホラーかも。京極夏彦さんは本当にぶれないが、エロスはない。安孫子武丸さんは、完全なるミステリ。皆川博子さんに至っては、むしろ切なく狂おしい純愛小説であった。