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紙の本
相性ってのがあるんだろうねえ、悪い典型が皆川博子。上手い作家、情熱のある重厚な作風の作家だと思う。でもリズムがね、合わないんです。結構サービスしてくれてるのに
2004/10/28 23:27
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
どうも、私と皆川博子は相性が悪い。様々な受賞作を含めて、それなりに代表作というに相応しいもの読んではいるつもりなのだけれど、『ジャムの真昼』以外に、正直、感心したものが一冊もないのである。それから、読むのに時間がかかる、これも私にとっては大敵である。人生はそんなには長くはない。読みにくい本に引っかかっているくらいならば、それを諦めてでも、それ以外の本を一冊でも多く読みたいほうなのだ。
だから、この本も出版から、実際に手にするまでに三ヶ月以上の時間が経っているのである。で、遅ればせながらに、私に「もしかして面白いかも」と思わせたのは、タイトルの「猫舌男爵」もあるけれど、やっぱりカバー画、本には[装丁・コラージュ]柳川貴代+Fragmentと書いてあるひとの手になる少女とマントに身を包んだ猫の姿が大きいのである。
で、この本のデザインは、目次の作り方や、カバーの折り返しや表紙、或いは奥付の頁についている洒落たマークからも伺えるように、それなりに細かいものである。これで、紙質やインクの色、挿絵などにもっと気を使えば、もっともっと良かったのに、と思うのである。
なかには、五つの話が収められている。容器に納まり鰓呼吸を続ける父、その維持費だけでも大変だと聞かされた息子の「水葬楽」。ヤマダ・フタロの忍法帖に魅せられた外国の学生の頓珍漢な「猫舌男爵」。母一人子一人の生活、少年がやっと得た仕事がオムレツを焼くことだった「オムレツ少年の儀式」。才能ゆえに弄ばれ、虐げられ、精神病院に幽閉された女性に「睡蓮」。ロシア革命とコサックの悲劇を描く「太陽馬」。
いやあ、どれもいかにも皆川らしいお話である。ねちっこい文体、悲劇の予感を孕んだ物語が、おもに外国を舞台に展開していく。特に、「睡蓮」などは、全体に構成が面白くて、まさにミステリも書くという彼女の力を見せ付ける、重苦しいはなしで、それは民族の悲惨を描く「太陽馬」にもいえる。
しかし、意外性ではなんと言っても表題作「猫舌男爵」が一番だろう。なんだか、小林信彦の『ちはやふる奥の細道』を思い出すではないか。ともかく、日本語を少しだけ聞きかじったと言う、能天気で調子のいい、それでいて誠実の欠片など、どこを探しても見つからないと言う外国人が、ヤマダ・フタロに惚れこむのである。
そのいい加減な翻訳態度、恩師に迫る図々しさ、あわよくば友人の恋人を盗んでしまおうという調子のよさ。え、これが皆川博子?と言いたくなるほど、私には予想もつかない、奇妙な話なのである。しかも、文章が、この話だけ、テンポが良くて、妙に濃密でなくて、サラッとした感じなのである。
なかなかやるなあ、とは思う。でも、何だか、暗い話ばかりで、おまけに小難しいよなあ、と感じるのも事実である。