紙の本
哀れでも道は1つ、生きるしかない
2004/08/18 20:51
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投稿者:luke - この投稿者のレビュー一覧を見る
社会の仕組みが変わる狭間の幕末、時代の流れに翻弄された人々が居た。新しい価値観が目覚める間際、謀略と破壊に人の心は侵され、傷つき、敗れ、散っていく。崩壊を防ぐべく防波堤である男達は自らが破壊の象徴であり、交わる女達の物語は残骸の象徴、波は否応なく双方に覆い被さって行った。
女衒に買われて京都、島原の置屋輪違屋に来たのはお糸が6つの時。禿、半夜、鹿恋、を経て糸里天神になったのが14歳、物語はそこから始まる。糸里天神、江戸から来た菱屋のお梅、糸里天神の唯一の友達、桔梗屋の吉栄、そして新選組が屯所にしている壬生住人士八木家のおまさ、同じく前川家のお勝ら女達の眼を通して壬生浪士組から新選組になる過程が芹沢鴨と土方歳三を中心に描かれます。あくまでも彼女たちのフィルターを通してと言うところがミソなんですね。上京までの過程ですら永倉新八に語らせています。尊皇攘夷も倒幕開国もなく、新選組の活躍もない。策略にまみれた新選組の裏面史のようで、その実、裸の男と女を書いているのだと思う。既に士農工商は崩壊しているものの、ひたすら武士を目指している百姓出の男達を、世の中が変わろうと悲しみと耐えることしか許されない女達の眼を通して見ると、そこには同じように逃れられない定めの中でもがいている一人ひとりの人間しか見えてこないのです。
生き方に選択肢のない時代、必死に這い上がろうとする人々に男女の別はない。男も女もお互い必要としていながら、切り捨てなければ生きて行かれない時代は哀れだ。生きるため、志を曲げ、策略に目を瞑り、愛を諦め、身分に甘んじ、目の前にある道を進むしかないので、決して強い意志を持って乗り越えているのではない。ここには強い男も強い女も居ないのだ。耐えることでしか生きる道を見出せない幕間の舞台だった。今、舞台は変わったのだろうか。
紙の本
弱い男、強い女。
2004/07/02 09:56
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投稿者:bonkora - この投稿者のレビュー一覧を見る
『輪違屋糸里』を読んだ。
「輪違屋」というのは、京都で置屋を営んでいるお店。
浅田次郎の、『壬生義士伝』につづく、新撰組異聞第二弾。
話は、新撰組局長芹沢鴨の暴挙から、その暗殺までを描く。
のっけから、芹沢鴨の暴君っぷりで始まり、
やはり芹沢は、ひどいやつだ!という印象を確かなものにする。
が、実は、彼のそんな行動の裏には、隠された秘密があった…
読み終えてみると、「芹沢鴨も、人の子よのぅ…」と思える。
さて、結論から言えば、『壬生義士伝』のように、
ググッとくるものがあまり無い。
泣かせ文学が、浅田次郎の真骨頂だと思っているが、
読者に畳みかけるように訴えてくるパワーに欠けている。
その原因として、主人公が見えにくい、ということが挙げられる。
一応、主人公は、輪違屋で天神をつとめる、糸里、という女の子。
だが、その脇を固めるキャラクターも、
負けず劣らず自己主張をしており、
どうもその陰に糸里が隠れてしまっている。
まあ、相手が、芹沢鴨、土方歳三、お梅
といった有名人だから仕方ないか。
で、話の筋を、ざっくりと言ってしまえば、
女VS男
という構図だろう。
別に、双方で殺し合うとかいう内容ではなく、
女の持つ強さと、男の持つ弱さ、
それを隠そうとして強がる男を、女が優しくいさめる、という構図である。
そう、この作品で描かれている女は、みんな強い。
ほれた男のために、自分の夢のために、
愛する息子のために、家のために、
女達は、必死でそれらを守り抜こうとする。
時代の流れに翻弄される男を後目に、
女達はどっしりと構え、そこから動かない。
そんな強い女に比して、男の強さなんてかすんでしまっている。
話はガラッと変わるが、ぼくは、女が男を男にする、
という持論を持つ1人である。
男は、女次第で、よくもだめにもなりうる、という事だ。
残念ながら、ぼくは、いまだそういう人に巡り会ったことがない
(それは自分にも責任ありだが)。
だが、ぼくが知っている、かっこいい男の人たちは、
みんな女によって男を上げている人ばかりだ。
一見強面の某さんも、やさしい奥さんの前では、少年の様になってしまう。
ぼくの友人の某も、愛する人のために、
必死で難関資格にチャレンジしている。
一つ言えることは、彼らはみな、女によって男を上げた、という事実だ。
『輪違屋糸里』は、たんなる芹沢鴨暗殺だけの話ではない。
そこで描かれているのは、男を男にする女たちの生き生きとした姿である。
情けない、弱い、もろい、見栄っ張り、な男達のケツをたたき、
もっとしゃきっとせんかい!!!と、叱咤激励する女が、ここには一杯いる。
願わくば、ぼくもそんな女に出会いたいものだ(希望)。
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この小説、お薦めです「壬生義士伝」とセットで読まれると
なお感慨も深いのでは。
「壬生義士伝」が吉村貫一郎を主人公とした男の「義」の物語なら
「輪違屋糸里」は、糸里天神の女の物語
どちらも新撰組を扱っています
どちらが好きかと聞かれると、やっぱり「壬生義士伝」に軍配を
ですが「輪違屋糸里」には、この時代を逞しく美しく生き抜いた女性と
はかなくも、惚れた男と死んでいく女性が描かれています。
読了後の涙は、悲しいからではなく、逞しくも美しい女性に感嘆しての涙です。
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「壬生義士伝」が男の話だったが、こちらは女が話のキーとなっている。悲しい話ではあるけど、登場する女性の強さに救われる。
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最初、なんて読むのかわからずに近場に寝ていた父に聞いたところ。「わちがいやいとさと」と教えてくれた。っていうか知っとるんか!内容はまさか、輪違屋という島原の店の糸里という天神の話やとは思ってもみなかった。島原の格式の高さ、仕来り、礼儀、作法。知らなかった事と共に、そこに生きる女のプライド、京女の女房のプライド、江戸女のプライド。様々な女の生き様と女から見た世界がありありと書かれていました。女なら一度は読んでみるべきで、損はないと思います。
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本の内容としては少し前だと「女たちの新選組」というとこでしょうか。
土方歳三に思いを寄せる島原の芸妓・糸里を主人公にして、当時の新選組のボスだった芹沢鴨暗殺を描く。
嫌われ者の芹沢鴨に新しい解釈を施し、それを女性の視座で捕らえるというあたりがこの本の新鮮なとこで、さすが一流のエンターティナー浅田次郎、読み応え十分です。
どうしてもNHKの「新選組!」と比較するのだけど、テレビドラマだとシンプルにしすぎですね。浅田さんの新しい解釈はあるとしても、2.3の大事な事件の顛末がドラマではシンプルというより完全なつくりものになってしまってる。
肝心の芹沢の暗殺部分も、寝てる間にまず刺してしまうのだけど、テレビでは、芹沢は起きて来るのを待っている。これでは全然違う。いっしょにいたお梅もテレビでは後追い自殺だけど、本では、殺されている。史実は本のほうが近いようですね。テレビドラマの中では眠り薬を使って寝ているとこを刺したのでは共感を得にくいという計算があるのではないかと思う。
実際は込み入った話なのをテレビのドラマではそこまで説明をするのがややこしいからか全く違う話にしてしまう。これはちょっと簡便すぎると思う。といって、役者による造型という点ではテレビドラマは優れてるしな。
細かい比較を書いてもしょうがないけど、こうして比較しながら読むのはなかなか面白いのですね。解釈によって違った話になる。歴史モノの面白さの一つでしょうね。
近藤勇は、新選組に志願する前は天然理心流道場主でかなり強かったらしい。それで、藩の指南役の声がかかるのだけど途中で立ち消えになる。原因は彼が農家の出だから。
自分の限界を知らされ鬱屈した日々をすごしているところに、新選組の話があって、これだと志願する。
実力本意の新選組なら入隊して天然理心流を世に知らしめることができる。そのあたりが新選組入隊のホントの動機のようだ。
新選組に集った他の隊員もそうしたワケありの者が多かったようであぶれ者の隊だったんですね。
新選組は、身分的には会津藩のお預かり。預かりなので給金も出ない。居場所もないので、商家にやっかいになっている。さらに上の者が朝廷警護など違う目的に利用したりまったく不安定な組織だった。
「誠」というのが新選組の旗印だけど、存在次第、ウソから出た誠というとこがある。
時代も混沌、組も混沌、隊員も混沌という実情だった。
そのあたりがドラマになりやすいんですね。
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芹沢さんとお梅さんの話には惹きつけられます。 下巻では、このあと土方さんは登場するのでしょうか・・?
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島原天神の糸里と新選組副長の土方の恋話を軸として、芹沢鴨暗殺までの経緯が書かれている。初めて、女の視点から書かれている本を読んだ。それも糸里のほかに、おまさやお勝、お梅などの女の視点からも。今まで芹沢は悪い人だと思っていたけど、本当は優しい人だったんじゃないかと思いました。
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時代小説でこんなに人物目線で泣かせる話に出会ったことがない。しばらく京ことばがうつりそうなくらいのめり込んだ作品です。
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女たちから見た新選組(初期)。おもしろかった。芹沢鴨が単なる悪役じゃなくていいです。
文庫化してくれたら即買うのになぁ。
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京都島原(江戸なら吉原のような所)の糸里は、こういう場所で暮らす女たちの例にもれず、女衒の手で子供の頃に売られてきた。島原一の音羽太夫にかわいがられ、芸を磨き一人前になっていく。
京の都では、この国の行方を左右するような動きが始まっていた。
糸里は新撰組副長の土方歳三を愛するが、土方は聡明な頭脳と腕っぷしとで、世の中に新撰組の名を刻んでゆく。隊士に翻弄されたたくさんの女たちが登場し、様々に新撰組を彩っていく。糸里をはじめ、やはり島原の妓“吉栄”、屯所とされた八木家の女房おまさ、同じく前川家の女房お勝、芹沢鴨の女お梅...ある意味、それぞれの思いで新撰組と心の戦をした女たちだ。
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女性から見た新撰組のお話。糸里が純粋過ぎて、ほんまに、それでええの?土方なんかにほれてたらあかんで!と思わずにいられないかんじです。どうしようもなく土方に惚れている糸里をみてるんがつらいです。
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本当にほとんど新撰組について知らなかった私。
この本を読んでちょっと学びました。
浅田次郎と言えば「壬生義士伝」あるだろ!
もろ新撰組の話じゃないか。と、いうお話もありますが、すみません勉強不足で。
あまりに流行ってしまって読む機会を逸しました。今後読みますペコm(_ _;m)三(m;_ _)mペコ。
浅田次郎氏ですから、そりゃドラマいっぱい泣き所感動しどころいっぱいの作品です。
女の立場から見た新撰組というのはとっても新鮮(いや、しゃれじゃないんだってマジで)な視点。
京都島原の太夫の心意気を書ける作家はそういません。
大泣きでした。
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新撰組の人達も出てくるけれど、
芸妓さん達に注目して読んでもらいたいです。
女の強さが光っています。
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新撰組には指一本興味が無いんですが、これはおもしろかった。糸里のマドンナ性にはあんまりグッと来ないんだが、芹沢せんせい関係はググッとくる。おゆきの葛藤描写はまたまたググッとくる。