紙の本
久しぶりに、中国ものらしいミステリを読んだとは思うんだけど、でもナンダかなあ、殺人ばっかり多くて、魅力的な人がいないっていうか、これが物語至上主義ってか?
2004/07/10 23:21
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
作家には申し訳ないけれど、あまり期待はしていなかった。巻頭にカラーのイラストが付いているのも、ミステリ・マスターズが子供の本みたいになってしまうので、印象がよくない。ま、藤田香の口絵は、それなりにいいのだろうけれど、これをもしカバーだったら、多分30代以上の推理小説ファンは二の足を踏む。ま、位置のせいでこの絵に気付かずにいる人も多いかもしれないので、見てやって下せえ、結構『十二国記』してます。
でだ、この叢書の今までの伝でいえば、小説があって、作者のあとがき「或は好事家のためのノート」、鷹城宏による芦辺拓論「壺中天の造営」、芦辺拓スペシャル・インタビュー、芦辺拓著作リストということになるけれど、やはり人目を引くのは口絵、目次に続く見開きの『紅楼夢の殺人』主な登場人物、という頁ではないかと思うのだよね、明智くん。
ともかく、34人に及ぶ難しい漢字の登場人物と、それについてのコメントを読むだけでも、芦辺のこの小説に対する思い入れの深さが窺えるではないか。それはあとがき「或は好事家のためのノート」のなかの「一九九〇年七月中旬、ちょうど『殺人喜劇の13人』で第一回鮎川哲也賞を受賞したとの知らせを受けたころのことですが、私は平凡社・中国古典文学大系版の『紅楼夢』全三巻をとっかえひっかえ携えて会社に通勤していました。」という文にも現れている。
話は、近世中国と書いてあるけれど、もっと遡らせても誰も文句は言わないだろう。舞台は、その中国は都の一角、寧栄街、その通りに寧国邸と並んで威容と格式を誇る栄国邸、その家の娘元春がお妃に選ばれ、その里帰りを記念して邸内に作られた大観園という庭園である。
そこに連続して殺人事件が起こる。密室アリ、消失あり、不可能犯罪のオンパレードだが、その謎を解くことになるのが、栄国邸の執事の息子で刑部の司法官である頼尚栄である。といっても、小説における本当の探偵役というか主人公というのは、栄国邸の貴公子で賈政の子である賈宝玉、貴妃となった元春の弟である。で、この宝玉、才質容貌ともに絶世を誇るが学問が嫌いで、武道よりは姉妹と遊んで育ってきたと言う若者、大観園唯一の男性住人である。
ついでに宝玉には、美しい姉妹がいるので書いておけば、姉の元春を筆頭に、迎春、探春、惜春の四人がそれで、各々大観園に暮らす。でだ、宝玉の寵愛を得ようと必死なのが、というか本人たちはさほど気にはしていないのだけれど、林黛玉という宝玉の父方の従妹と、薛宝釵という宝玉の母方の従妹。性格も容姿も対極的な二人だが、ともに美人ではある。
で、栄国邸だがお金持ちの家の例に洩れず、大家族であり、今言った人々以外にもお付の女中もいれば、美女と金を目当てにした男たち、あるいは不幸を逃れてきた女たちが大勢いるのである。勿論、彼らに嫉妬し、虎視眈々とその富を掠め取ろうとす人間も大勢出てくる。
でだ、芦辺自身が言うように、この本の面白さは、明らかに原作である『紅楼夢』によっている。ただし芦辺が「僕が物語至上主義を主張する」というほどには面白くはないのである。実は、今までも何作か芦辺の作品を読んで、その文章の素直さやトリック自体には才能を感じはするものの、では面白いか、記憶に残るかといわれれば、今も、数多くの芦辺作品で探偵をやる森江春策の名前すら思い出せなかったのだから、押してしるべしだろう。
ここまで舞台をうまく用意しながら、そこどまり、それは今回も変わることはない。それは多分、芦辺の考える物語がミステリという枠を超えた展開をしないからだろう。人物を描くことにもっと筆を割けば良いのに、推理というかトリックに熱中してしまう。ま、ご当人はそれでも「物語至上主義」者のつもりのようだが、私に言わせれば、どこが? トリック至上主義の間違いでは? ということになる。
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中国最大の奇書「紅楼夢」を題材に取ったミステリ、らしい。これは知らんかったなぁ。なんとなく中国の小説的な華美で優雅で豪華絢爛な雰囲気で物語が進んでいくので、ここの殺人事件は十分に奇妙で興味深くて結構凄惨のはずなのにそれがあまりきにならず、なんとなくふわーっと読んでいってしまった。ここの事件を支えるトリックにはちょっと物足りないところもあったんだけど、そんな不満は最後に一気に吹きどぶことになる。根幹となるのは「なぜ?」という部分。だからこそこういう手段がとられたのかと感動してしまう。いや、傑作。
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中華な探偵推理小説。
都で栄華を極める名門一家の屋敷内に設けられた、年若いお嬢様たちと若様だけが楽しく遊び暮らす夢のような楽園「大観園」で次々と起こる不可解な殺人事件。
若く美しい彼女らが何故殺されなければならなかったのか、どうやって?不可能犯罪のオンパレードに知恵者で知られる若い役人が挑む。
作者の完全なる創作かと思っていたら、最後の解説を読むに土台となる「紅楼夢」という古い中国の小説があった様子。それをまったく知らずに読んで充分楽しめましたが、なんか気になるのでそっちもそのうち読んでみようかと思う。
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何と言っても原典をちゃんと読んでいないのが致命的だったかなという印象。
勿論これはこれできちんと話は通じますし、本格ミステリとして再構築された紅楼夢を楽しめるのですが、如何せん登場人物の多さ、似たような名前の多さが最初のハードルになってしまいました。
そんなわけで序盤は遅々としてペースが上がらなかったのですが、次々に事件が起こり始めると、物語中では読者の側に近い探偵役の頼尚栄とともに、謎と事件を夢中で追いかけていました。
死を予告する謎の手紙、衆人環視の中での死、人間消失のトリック、突然現れる死体など、個別に取り上げれば大して大掛かりなトリックでは無いけれども、それらを全て『紅楼夢』の世界に組み込んだ際に現れる壮大さは確かに力作と評価するに値することが出来るかもしれません。
もっともトリックが全て明らかにされた際の、ハリボテが日の光の下に曝されるような感覚は、好みが別れるところかも知れません。
個人的には、名前の錯誤によるアリバイトリックは今ひとつ頂けなかったかなという部分が引っかかっています。
ただし、本作の醍醐味はトリックの鮮やかさではなく、「探偵小説」であることを逆手に取った、アンチ・ミステリ的な構造かもしれません。
また、ミステリの舞台としてわざわざ『紅楼夢』を持ってきた作者の必然性にも、十分納得出来ます。頼尚栄とはまた違った立場に立つ今一人の探偵役が最後に語る、「何故このような仕掛けが為されたのか」は非常に説得力のあるものでした。
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ところは中国、栄華を極めた大貴族の邸内に築かれた人工庭園「大観園」。類稀なる貴公子と美しき少女たちが遊ぶ理想郷で、奇々怪々な連続殺人が勃発します。衆人環視の中で消え失せる犯人。空を飛ぶ被害者…。中国最大の奇書『紅楼夢』を舞台にした絢爛たる犯罪絵巻は、中国古典ファンも必読の傑作ミステリー―――――「紅楼夢」なる作品の存在を初めて知りました。「紅楼夢」ありきのミステリであるため、まずその「紅楼夢」なる世界を知らなくてはなりません。もちろん、始めは「紅楼夢」の成り立ちから教えていただけます。簡単なあらすじとしては、そもそも「紅楼夢」とは豪華な邸宅のこと(安直な例えですみません)で、そこでは男尊女卑の不遇にある高貴な女性が集められ暮らしています。その中に唯一人存在する男が、この話の主人公の賈宝玉(原典の主人公かは解りません)。彼は世の中のそういった見方とは違って女性を大事にする性質なため、屋敷の主として彼女達を見守る役目を務める。そんな中、彼は今で言うミステリなる書物に興味を持ち始める。その一方で、紅楼夢で奇妙なことが起こるという御文が探偵役の○○(人物名を忘れてしまいました)の元に届きます。彼は上司の命に従い、「紅楼夢」へとその調査に赴いていく。そして第一の事件が起こる。と、ここからミステリとして話が動き出してきます。多くの登場人物にたじろいでしまうかもしれませんが、読み進めていく内に重要な人物、それ程重要じゃない人物と、自分の中でランク付けが出来てくるので、それ程困難な作業ではなかったです。ラストはミステリとしての興奮よりも物語としてのカタルシスの方が強く、良い感じに締めくくってくれました。ジーンときました。
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元ネタの中国版の方も読みたくなった。
ミステリとしては、動機がおざなりだったり、トリックが荒唐無稽だったりして、ある意味さすが元ネタ中国小説!って感じだけれど、全体を通して読むと、「あーもうとっても美しい世界だから、そんなん許すっ」というのが正直な感想。
女子高女子大育ちなので、美しいお姉さま&妹に囲まれた庭園なんて、憧れちゃうのよね。
しかし最後には全て滅び去ってしまうのが悲しい。
誰か一人でも幸せになって欲しかったなぁ。
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不勉強な私は「紅楼夢」という原典の存在すら知りませんでした……。なのでとにかく序盤はとっつきにくい印象の一作。もう何が苦しいって、登場人物の名前が覚えられないし(これだから中国史は大の苦手)。何度も何度も登場人物表と家系図を見比べて、ようやく覚えた頃には事件が解決しちゃいましたとさ。
それでも。読み終わってみると、これは間違いなく面白かった。事件が起こりだすとあとはもうページをめくる手が止まらない(止めると登場人物が分からなくなる、てのもあるけど)。そして解決に向けて一気になだれ込む様は爽快。ラストのあれはまさにカタルシス、だよなあ。
数々のトリックも凄いけれど、この作品の核心は「なぜそういうトリックが必要だったか」という部分。これは考えもつかなかったというかなんというか……なるほどなあ。作品の舞台は非常に現実離れしているのだけれど、この観念は妙に現実に即していて、皮肉的。
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紅楼夢という中国の小説の登場人物が出てくる推理小説らしい。
紅楼夢を見てないので、中国の富豪の家の住人(登場人物)に凄く違和感を覚える。全登場人物が若くて美女か美男でアニメチックな設定。更に文章が稚拙なので余計オタク臭くくだらない雰囲気をかもしだしている。トリック自体はそう酷いものではないが、本当に台詞など漫画チックで馬鹿馬鹿しくなってしまう。
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話は面白いけれど、この尺で扱える話ではないかな。と一読して感じる。登場人物の名前を覚えるだけで一苦労する(名前を覚えるのが面倒で適当に読んでいた)。そのためのエピソードを追加するとしたらとてもじゃないがこの本の厚さでは終わらないだろうし。また、中国の話であるはずだが、トリックとか探偵とか、そんな言葉が出てきて興ざめしてしまう。世界観と統一がとれていない印象だ。読み辛くなるのは承知である程度は台詞なども雰囲気重視しても良かったのではないだろうか。
根幹となるトリックや推理が面白いだけに損しているような印象があった。