紙の本
サトクリフのローマン・ブリテン・シリーズの幻の傑作といわれた作品です。
2004/07/26 18:18
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エーミール - この投稿者のレビュー一覧を見る
ブリテンはサクソンとの最後の戦いに敗れた。その戦いに一人生き残った14歳の少年オウェインは、戦死している父と兄を見つけ、父の手にあったイルカの紋章を彫った指輪をもらって、戦場を離れた。軍犬がついてきたので、その犬と共に北へ逃れて行く。
オウェインは、廃墟のような村で、うえてやせこけた少女レジナに出会う。たった一人で、どうにか生き延びてきたレジナ。一緒に逃げるうちにレジナは病気になる。そのレジナをどうしても見捨てることが出来ずに、レジナを助けることを条件に、オウェインは自分に残されていたたった一つのものである「自由」を売ることを決心する。そうして、二人は別れ別れになり、オウェインは奴隷として生きて行くのだが…。
このオウェインの決心は、どうだろう。こんな男性はいるだろうか。今も昔も、なかなかいるものではないだろう。14歳という若さだから、その一途な気持ちでということもあるだろうけれど…。歴史のうねりの中で生き方を大きく変えざるを得なかった若者の、それでも誠実さを貫き通した生き方に、感動させられる人は多いことだろう。本当の男らしさや誠実さ、生きることの切なさを感じさせてくれる作品だ。
(エーミール<図書館の学校・児童書選書委員会>)
紙の本
夜明けの風が吹いた
2004/07/26 16:37
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Yan - この投稿者のレビュー一覧を見る
ローマンブリテンシリーズの最終刊
いるかの紋章つき指輪を持つアクイラの子孫は
サクソン人が南ブリテンに王国を作ろうとしている時代に生きた
ブリトン人の少年、オウェイン
ブリトン人がサクソン人に抵抗した最後の戦で
生き残り、逃亡する途中で少女レジナ出会う
出会いは突然、それも物乞いのようなレジナの態度に
嫌悪感を感じるオウェインなのに
少女を見殺しにできない。
彼女が熱病にかかったときも、
自分だけ逃げるということをしない。
そればかりか、自分の自由を売って彼女を助けるのだ。
奴隷になったあとでも主人とその家族のために
尽くしてしまう。
これまでのアクイラにはない生き方だ。
オウェインの生き方
それは自由になれるはずの道を周りの人のためにいばらの道に
取り替えてしまう、そういう自己犠牲的な生き方だ。
ブリトン人としての誇りは胸の奥深くにしまいこみ
今自分が生きている世界でどう働くか
それが彼の誇り、生きる糧になっているようだ。
そのためにさまざまな苦労をするオウェインだが
それがかえって、周りをつき動かしていくのがいい。
主人のベオンウルフが息子を託して死ぬ場面
ならず者のバディールの死。
ブリトン人エイノン・ヘンの一語一語
それらがオウェインを揺り動かすけれども
彼の胸の奥にしまっていた信念は
レジナを迎えに行くこと
ブリトン人としてのアクイラの誇りを忘れず
自由の道を行くこと
自分が住むべき場所を見つけることだったのだと思う。
最後にレジナと再会して
いるかの指輪を取り戻す場面が感動的だ 。
Yanの花畑
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何もかも失った少年、何もかも失ったまま乞食として生きてきた少女。病に倒れた少女を救うべく、少年は自分に残された「自由」をも手放した…。
どこかひっそりとした絆。
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少女のため、自分にたったひとつ残った"自由"を手放した少年の話。最高。訳もすばらしい。出会えてよかった。
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「ともしびをかかげて」に続くローマン・ブリテンの終焉と新しい時代の黎明を、アクイラの直系の一人の少年を通して描く。
ブリトン人にとっては辛く苦しい時代で、主人公オウェインも奴隷となる時期をはさむけれど、いわゆる七王国時代なのでサクソン人にとって歴史に残る出来事がいろいろ起きている。
という時代背景とは別に、ドッグと呼ぶ犬やレジナ(女王)という名の孤児の少女、テイトリ(子馬)という白馬、そして人々とオウェインとの交流で成長する少年を応援しながら読め、大きな感動はないけど読後感は爽やか。
この後でイルカの指輪は「剣の歌」「シールド・リング」へと受け継がれる。
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最近、ローズマリーサトクリフさんの本を
よく読むようになったけど
全部同じパターンで飽きてきちゃった。
最初は面白かったんだけどね
途中ぐらいまで読んだらもう
先が読めちゃって、しかもその通りに進むんだよな
だから飽きちゃう。
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6世紀のイングランド南部の海岸地帯を舞台に、主人公ローマンブリトン人のオウェインが歴史の運命に翻弄されながら成長する物語である。
ローマ人が去って100年以上経ったブリテン社会を、今度はゲルマン民族(ドイツ、デンマーク、ベルギー)であるサクソンやアングル、ジュートの侵入と進出が襲っている。土着民のケルトの部族社会はローマによって北に圧迫されながら、南部ではローマとキリスト教に同化してブリトンを形成していたが、そこに南東部からサクソンが移住を始め、この頃には海岸地帯から次第に定着し小王国を形成していた。歴史に記録があるアクア・スリス(バース)の戦いで、敗北した南部ブリトン集団の部族や親兄弟を失ったオウェインはウェールズの廃墟となった市街でレジナという少女と巡り会い、一緒にガリア地方(フランス)へ脱出しようと旅を始める。しかし途中で病気で動けなくなった少女を救うためにサクソンの奴隷となる。奴隷としての8年の生活でも、オウェインは希望と向上心を保ち、家族に能力を認められていた。
その間の彼の存在を象徴するように設定されているのは、ドッグという忠実な軍用犬と親からもらった指輪である。正当な主人からの命令を確実に理解し実行する犬は、奴隷としてのオウェインの生き方を象徴させる。普通、奴隷は命令を言われた通りに実行すれば存在を許され、それ以上は期待されていない。独自の状況判断までは期待されない。しかし命令の意味を理解すると、主人の本来の目的のために命令以上の行為をしてしまうこともありえる。これは奴隷の枠を超えた行為が自由への脱出口となることを暗示している。一方、ドッグは主人との絆をいかに強く持ち得たとしても犬からの脱出はあり得ない。ただ献身的であることだけが飼い主に期待されそれに応えることになる。犬自身の生きがいは日常での安息にあるだけで、命が果てるまで終わりはない。
オウェインがなぜ奴隷主に忠実で、期待以上に献身的であったかは、ひとつには自ら進んで奴隷を選択したこと、そしていつか終わりがあることを心に誓っていたからだろう。その象徴は前作の「灯火をかかげて」のアクイラの末裔であることを暗示するイルカの紋章のある指輪である。オウェインはいつか取り出す日がくることを知っていて(願って)サンザシの大木の根元に指輪を埋めたのである。この暗示に導かれたかのようにサクソン家族への献身的貢献を認められて奴隷から解放されたオウェインだが、故人との約束を守り家族のためにさらに滞在を続けることになるが、しだいにサクソン人社会の政治的、集団間の戦いに関わることになっていく。これも史実にはめ込むための創作かもしれないが、そこに北部のブリテン人の関わりがあることで、侵略者(サクソン)の内部抗争の解決に、被侵略民の協力が必要だったという大きな構図が描かれる。この構図は、オウェインとサクソン家族との関係をさらに歴史に拡大して示すことで、征服者と被征服者との対立は恨みや憎しみを超えた融合しかないという著者の結論に結びついてくる。最後にレジナとの再会しブリテン人として未来に歩み出すことで、かろうじてローマの末裔としてのプライドと尊厳を保つ覚悟を示している。
結局、著者は、種族の違いや個人の運命の違いがあっても、人間としての意識の高さや他者を愛し尊敬する生き方を強く支持し、そういう個人によって地域の歴史が支えられてきたことを言いたいのではないだろうか。地域間の紛争や、民族主義の問題を超えることは、決して政治的駆け引きや戦争によって解決するのではないという解釈ではなかろうか。
この小説がゲルマン人による攻撃を直接受けてきた第二次世界大戦が終了して20年足らずの間に出版されており、当時の英国人、特に青少年に読まれてきた影響は少なくなかったと思うべきだ。