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階級社会 グローバリズムと不平等 みんなのレビュー
- ジェレミー・シーブルック (著), 渡辺 雅男 (訳)
- 税込価格:2,090円(19pt)
- 出版社:青土社
- 発行年月:2004.8
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紙の本
公正な世界を求めるために
2004/07/28 23:07
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:狸汁 - この投稿者のレビュー一覧を見る
グローバル・リッチ・リスト(http://www.globalrichlist.com/)というサイトがある。自分の年収をドルあるいはポンド単位で入力すると、自分が世界で上から何%の金持ちなのかが分かるというものだ。サラリーマンである私の年収を入れてみると、なんと上から0.7%だった。そんなに金持ちだったのか。だいたい4万ドルぐらいでも1%には入るという。試しに1万ドルで13%、1千ドルでも44%。世界はいかに貧困が満ちていることか。同時に「世界の大金持ち」である自分の立場に複雑な気分になってくる。
本書でも、「グローバル・リッチ」について言及されているが、もちろん私などとはレベルが違う。現在の貴族階級とは何か。「ITや生命科学、その他の最近の技術開発の恩恵に浴したニュー・リッチ、スポーツ選手やメディア関係のスター、ミュージシャンやタレントなど」である。その下位に多国籍企業の社員や官僚など「力を得て急増するグローバルなミドルクラス」も存在する。本書が的確に言い当てている現代的特質とは、たとえば芸能人やスポーツ選手という「ドリーム型」の成功モデルは、アンダークラスから「闘争」の契機を奪う「装置」であることだ。アメリカが欧州とちがって階級が強く認識されなかったという歴史的事実が示すように、「ドリーム」は、巧妙に階級の存在を隠蔽していくのだという。
一方で、貧困は暴力的に圧倒的に拡大し、そして貧富の差は固定化の度合いを強めている。それは発展途上国だけの問題ではなく、先進国の国内でも「アンダークラス」と呼ばれる人たちが増大している。
しかし、彼らは不平等に対して、政治的な行動はとらなくなった。ひとつには社会主義の失敗で階級闘争的を志向する勢力が壊滅的に後退したこともあるが、さらに高度消費社会としての特徴も見逃せない。「貧者は富者のイメージに合わせてその姿を変えつつある。彼らは、何を買うか、何を持つか、どのようにカネを遣うかについて、どこにいても執拗な広告、同じ勧誘に晒されている。彼らの欲求は煽られる。彼らの現世での現世での物欲はかき立てられる」。しかしながら、「貧者にとっては、市場に参加するためのカネは手の届かないところにある」のだ。
中産階級が多いとされた日本も例外ではないだろう。フリーターなどの労働市場での弱者は増大しているし、また地方の荒廃は著しい。それでいて、地方都市の郊外にでてみると、ジャスコとマクドナルドの巨大な店舗が並び、覇気のない家族がハンバーガーを囲み、偏食という「飢餓」のなかで、病的な肥満の姿をみせている。これは、日本のアンダークラス、あるいは予備軍の絶望的な風景ではないか。
アカデミズムの中でも、「階級」は「階層」と言い換えられ、「不平等」という抽象的な概念によって、貧富の差が語られていく。著者が言いたいのは、それが「まやかし」だということだ。階級はマルクス主義が敗北しても、厳然として存在するし、さらに絶望的なことに、そのことに対する異議申し立ては、かつてに比べはるかに弱くなっている。「左翼の歴史的課題が無効になったからといって、公正な世界を求めて活動する人々が幻滅することはない」と著者は訴える。「たとえプロレタリアート独裁が死を迎えたとしても、それはおそらく、人類の幅広い解放のために道を譲っただけのことである」とも。それは宣言に過ぎないとしても、耳を傾けるべき言葉である。
さて、「世界の大金持ち」である私が、左翼でいられるにはどうしたらいいか。弁解じみるかもしれないが、やはり公正さに対する想像力と、できる範囲での行動しかないとは思う。
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