紙の本
戦争を伝える義務
2004/11/12 16:35
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投稿者:川嶋 美幸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本を読み終えて暫らく眠りにつけなかった。互いに深く思い合っている美奈子と浩二。ほほえましい純愛は戦争の名の下に永遠に引き裂かれてしまった。精一杯「生」に向き合い、迎えた悲しい結末に言葉が出ず、ひたすら「どうして?」、「何故?」という問いが頭の中を駆け巡った。勝者、敗者関係なく体や心、またその両方に大きな傷をもたらした「戦争」。「戦争」が今を生きる人々にとって他人事のようになった今日。と「回転」を世に伝えるために死に向かった並木浩二を通じ、横山秀夫もまた読者に戦争のリアリティを伝えなければならない衝動に駆られたにちがいない。それは、戦後を生きる者の義務。戦争についてもっとよく知らなければ。次の世代に「戦争」を伝えなければいけないのは、紛れもない私達なのだから。
紙の本
戦争を知らないわたしたち
2004/08/08 19:57
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投稿者:ナカムラマサル - この投稿者のレビュー一覧を見る
人間魚雷「回天」特攻隊—このテーマで、右にも左にも傾くことなく小説にするのは、いきおい慎重にならざるを得ないと思う。「出せば売れる」横山秀夫が、あえてこの題材を選んだことに、素直に敬意を表したい。
これは1996年に青少年向けに刊行された作品を全面的に加筆修正したもので、横山作品の原点であると同時に、彼がデビューから一貫して描いてきた「組織」対「個」、「保身」対「矜持」というテーマの究極の到達点でもあると言えるだろう。
人間魚雷とは、「爆薬を満載した改造魚雷に人が乗り込み、たったひとり暗い海の中を操縦し、敵の艦船の横腹めがけて搭乗員もろとも突っこむ」と本文にある。
主人公・並木はその「特攻兵器」の実像も分からぬまま、熱に浮かされたように、友を庇うかのように、搭乗員に志願する。その後、人間魚雷の実態を知ったときから、彼は生と死のはざまで激しく懊悩する。
もちろん、彼の周囲には、自ら死んでいくことに躊躇しない者もいる。可愛い後輩の沖田や、大学時代からウマの合わない北などがそうだ。だが、「死ぬことを夢にすることができない」並木の姿に読者は自らを重ね合わせ、彼の思いを痛いほど追体験することになる。必ず死ぬと分かったとき、自分はどうなるのか…そう想像せずにはいられない。
本作を「組織」対「個」、「保身」対「矜持」という視点で読んだとき、何を「矜持」と捉えるかは読者に委ねられている。
人間性の徹底的に排除された軍隊、ひいては当時の日本という「組織」の中で、特攻隊員として死んでいくことは、「個」の名を残す唯一の「矜持」の場である、そういう方向性で読むことも可能であるが、「いっそ死んでしまいたい」という登場人物たちの魂の叫びを目の当たりにすると、生き延びることの方がよほど「矜持」を必要としたのではないか、とも思う。
何を矜持とし、何を保身とするか、単純な図式化を拒むような作品世界に、一人の「個」として生きることがいかに難しい時代であったのかを再認識させられた。
「何のために生きるか」ではなく、「何のために死ぬのか」。自分なりの答えを必死で探しながら死んでいった彼らの背中を思うと、涙を留めることができない。
正直言って、読んでいてつらい作品だ。だが、戦争を知らない世代は特に、目を背けてはならない1冊だ。
ほんの50年早く生まれていたら、私たちも彼らと同じ立場にあったのだから。
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http://mitteiomasa.blogtribe.org/entry-698013c88d5c12ce4b88d0e552479ce6.htmlに感想UP
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「回天」という名の人間魚雷。
登場人物等はフィクションだが、特攻が題材のこの本はかなり考えさせられた。生きたいと強く思いながらも、どうにもならない力で死が決定されている。今の日本はこういう歴史の上にあるんだと。他の特攻関連の本を読みたくなった、そんな1冊。日本人なら読むべし。
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文体はとても読みやすくて、さくさくいける。
物語の時代背景は太平洋戦争のころ。
私は戦争を知らない子どもだけれど。
けれどメディアを通して、リアルタイムに戦争を見ている大人。
微妙な位置に立つ自分でも、この本の内容はわかりやく、共感できるところも沢山ある。
人間魚雷(回転)の話しは、少し前にテレビの特集で観ていて知っていた。
自爆。
っていうか。
目的に達することもできずに逝ってしまった若者が多いと聞けば、世界のあちらこちらで起こっている「自爆テロ」より悲惨だったのかも……。
や、でも。
どんな状況下においても、戦争は悲惨なのだろうけれど……。
深刻で悲惨な状況を、さらりと書かれてあるので、そんなに眉を潜めずに読める内容は、作者として意図したところなのか、それとも私の読み込みが浅いのか……。
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大学で野球に燃える若者たちにも否応なく戦争の火の粉がかかりはじめ、それぞれに戦地へと送られてゆく時代。
鳴り物入りで入部した並木は 肩を痛めて周囲の期待を裏切るという立場に悶々としながら 魔球を編み出す夢を捨てずにいた。そんな彼が就いた任務とは・・・。
戦争――しかも 公言せずとも負けることを誰もが感じている――という極限状態で尚、向かう夢を持てることのしあわせと それが実現できないことを悟ってしまうことの不幸せをしみじみと感じさせられて切なく哀しい。
俺はとうとう死ぬことを目的に生きることができなかった。
人が生きてゆくには夢が必要だ。
俺は死ぬことを夢に生きることができなかった。
という 並木が沖田に宛てた手紙のことばが いつまでも頭の中で渦巻いている。
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野球と戦争を合わせたテーマは自分的に痛かった。これは終わり方がいまいち。全体的に内容が薄かったように思えた。魔球という伏線をどう持っていくか、途中から予想できちゃったのがいまいちだった理由かな(´・ω・`)
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感動!の一言に尽きます。横山さんだから当然泣かすように書いてるんでしょうが、それでもっ!主人公の人生、青春を考えると号泣せざるをえません。
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警察物ではない横山氏の小説、どうしてもローレライと内容が被ってしまう部分がある気もするが、警察物に比べると内容も重たいのだが、人間魚雷の人を殺さない終わり方など巧みに書かれていたと思う。
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戦争の悲惨さを訴えながら、戦時下の恋愛が良い味を出しています。戦争について考える良いキッカケになる本だと思いますよ。
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初の戦争小説。
っつーかさ、あぁもうダメなんだよ、こういうのは。
平和な世の中で生まれ育ったから、こういう別れは知らないんだけどさ。
でもさ、今生の別れというのはいつの世でもダメなんだよ。
笑いながら別れないで。
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電車の広告で何気なく見つめていた本だったのですが、発売でもどこにも売ってなくて苦労しました…。甲子園球児達がグラウンドから戦場へと駆り出されていく。その中で、主人公は苦悩したり絶望したり。明日がないかもしれない、そんな毎日の中で最後の最後に自分の答えを見つけた彼。戦争に縛られながらも夢を失わなかったお話です。だいすきです…。
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「戦争を風化させてはならない」・・・そんな話そのものが私は、嫌いだ。NHK朝のテレビ小説の時代設定が昭和初期から始まると、うんざりしてしまう。本作品は、終戦間際の特攻型魚雷「回天」に乗り込むことになった一人の青年の物語である。私は、この物語から教訓を得ようとは思わない。ただ単純にこの時代を生きた一人の青年の物語として感銘を受けるのみ。山田洋二脚本で映画化されるそうだ。ヒロインが上野樹里、そこだけは気に入った。
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この春に回天基地を見てきましたが、その回天と言う海の特攻隊・人間魚雷に乗り込む若い人たち。戦争末期の生と死のはざまの揺れ動く気持ちが描かれています。
感想の書きにくい作品ですが、横山秀夫さんの作品とは言え、あまり横山臭さがない感じです。その点は、作品自体はデビュー前の作品が母体になっていると言うことも影響しているのかもしれません。しかし、いつにないさらりとした人物像や淡々とした物語の進行に、逆にのめり込みました。
国のために死ぬんじゃなくって、愛する人を守るために特攻すると言う搭乗者の心情は、回天の記念館でよく分かったのですが、本作品でも書かれているように、誰と戦争しているのだろうと言う不思議な感覚が漂います。敵も見た事がないのに戦っているのは??それは己との戦争と言う境地に行き着くのです。
この本では、「自分が死んでどうして守れるか?」「自分が特攻すれば必ず守れるという約束できるのか?」逆に「死んでしまったら守ろうと思っても守れないのではないか?」って言うような疑問から、軍隊における「死んで行く夢をもって生きる」ことの困難さが描かれています。
この作品は映画化されるそうで、原作と監督のコンビは「半落ち」以来の同じコンビ。あの「半落ち」は原作以上の映画化に感心したものです。この作品も期待したいものです。あとは、ボレロの曲もそのまま原作どおりに採用して欲しいものです。
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神風特攻隊は世に知られているけど、こんな特攻もあったとは。
南十字星(ミュージカル)を観た時も感じましが、過去のこういう人達が礎となって今の日本があるんだなぁと。