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「あまりにも不幸だったため、幸福とはなんであるかを忘れてしまったんです。自分が不幸であることを知らないほど不幸なんですよ」院長はやさしくいった。「ああ、お金持ちなんですのね……」ポアロはなにもいわなかった。つけくわえるべきことがなにもないのを知っていたからだ。(504)
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新訳が嫌いなので星下げ。
最初であんたとか言ってるのが汚くていやだな。
昔旧訳を読んだ時、ギリシャ神話にもはまっていて
いちいち照らし合わせては喜んでた頃を思い出す。
ポアロかわいい。
20年前にはわからなかった味わい方をして、
次の20年がまた楽しみ。
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多少こじつけとも感じられるが、ヘラクレスの12の難行になぞらえた12の事件。
ポアロの頭脳的策略や、ポアロのヒューマニズムを感じさせる心にくい解決手法が味わえる作品集。
人生相談や身の上相談、教訓話といった、ポアロよりもパーカー・パインが登場した方がふさわしいと感じる話が多いが、楽しめた。
特に、予想外の真相に驚かされる「ステュムパロスの鳥」と「クレタ島の雄牛」、ポアロがトリックを仕掛ける「アウゲイアス王の大牛舎」が面白い。
「ネメアの谷のライオン」
人間の認知機能の限界をうまく扱っている。
「レルネーのヒドラ」
事件関係者の聴き取り調査でポアロは違和感を感じ、犯人に気付く。
「アルカディアの鹿」
愛する人を探してほしいという、雲をつかむような青年の依頼をかなえるために奮闘するポアロ。愛する人は意外なところに。
「エルマントスのイノシシ 」
凶悪な殺人犯と一緒に雪の山頂ホテルに閉じ込められたポアロ。
誰がその凶悪犯か?
「アウゲイアス王の大牛舎」
ポアロの策略が鮮やかに決まり、政界のスキャンダルを見事解決。
「ステュムパロスの鳥」
ステュムパロスの鳥とは誰のことか?
予想外の真相に驚いた。
「クレタ島の雄牛」
狂人の血統とは、そのことだったのか。
「ディオメーデスの馬」
麻薬を扱っている影の人物とは?
「ヒッポリュトスの帯」
名画盗難事件と女学生の失踪事件とのつながりの謎。
絵がどのように処理されたのか、良くわからなかった。
「ゲリュオンの牛たち」
ミス・カーナビが再び登場し、新興宗教の教祖を相手に活躍。
「ヘスペリスたちのリンゴ」
酒盃を取り戻したポアロが、依頼者に要求したこととは?
「ケルベロスの捕獲」
麻薬の意外な隠し場所。
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聖書や童謡になぞらえて人を殺していく犯人は古今東西数あれど、自分が解決した事件を神話に見立ててコレクションする名探偵はなかなか珍しい部類かと。
最初、子供じみた理由で事件を選り好みするポアロの高慢さに鼻白みながら読み始めたのですが…何これ、超面白い。
どの話も良かったのですが、一番のお気に入りは『ステュムパロスの鳥』。ポーランドの双子の貴婦人をビジュアルで見てみたいです。映像化されているのかしら。
次点で『ケルベロスの捕獲』。久しぶりに会ったロシア美女に「地獄へきて」と告げられるドラマチックな出だしと、その後ミス・レモンに「ご存じなかったのですか、ポアロさん。ナイトクラブですわ」とあっさり謎解きされる落差。ミス・レモン超クール、超有能!あとナイトクラブ地獄も面白そうで、実際あったら行ってみたいですね。ただし麻薬売買さえなければ。
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短編集なので気楽に読めるのはよい。元ネタのヘラクレスの冒険を知らなくても問題ないし。ただ、訳注が全然入ってないのは(特に大量に訳注が入っているモンテ・クリスト伯を読んだ後だけに)ちと気になる。例えば。
「宗教というものは、心の支えになり、救いになるでしょうけど--でも、それはオーソドックスな宗教であればの話です」
「オーソドックスというと、ギリシャ正教のこと?」
(ヘラクレスの冒険,アガサ・クリスティ,田中一江訳,早川書房)
これって普通の日本人に通じるのだろうか(ギリシャ正教は英語で"Orthodox")。ポアロが時々発するフランス語にはルビを振っているのだから、この辺にもちょっと気を使ってもいい気はする。
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ポアロが活躍する色々を読み終わり、この本に辿り着きました。いろんなお話が凝縮されていて、イギリス以外の国々にも赴くので、冒険活劇みたいで面白かったです。
ドラマ版も観ましたが、ドラマ版では犯人が違いますし、よりシリアスな内容になっています。本の方が好きです。
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エルキュール・ポアロシリーズ#24。
ギリシア神話の「ヘラクレスの24の難行」をフックにした24の短編集。「エルキュール」って「ヘラクレス」だったのね。
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ヘラクレスの12偉業がしっかり頭の中に入っていて読むともっと楽しめたと思う。メイドのエイミー・カーナビーが登場する「ネメアのライオン」、「ゲリュオンの牛たち」がおもしろかった。エイミーの性格が受け入れられる。
「ネメアのライオン」ある婦人のメイドのエイミー・カーナビーが夫人のペキニーズ犬を散歩中、犬が逃げてしまい、夫人宛に犬を返して欲しければ200ポンド持ってこいとの手紙が来るが・・
「ゲリュオンの牛たち」 エイミー・カーナビーの友人があやしげな宗教に入れ込んでいるとポアロに相談にくる。おとりで信者になったカーナビーの活躍。
ネメアのライオン - The Nemean Lion(1939年)
レルネーのヒドラ - The Learnean Hydra(1939年)
アルカディアの鹿 - The Arcadian Deer(1940年)
エルマントスのイノシシ - The Erymanthian Boar(1940年)
アウゲイアス王の大牛舎 - The Augean Stables(1940年)
ステュムパロスの鳥 - The Stymphalean Birds(1939年)
クレタ島の雄牛 - The Cretan Bull(1939年)依頼人
ディオメーデスの馬 - The Horses of Diomedes(1940年)
ヒッポリュテの帯 - The Girdle of Hyppolita(1939年)
ゲリュオンの牛たち - The Flock of Geryon(1940年)
ヘスペリスたちのリンゴ - The Apples of Hesperides(1940年)
ケルベロスの捕獲 - The Capture of Cerberus(1947年)
1947発表
2004.9.16発行 2016.4.15第5刷 図書館
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やっぱりアガサ・クリスティは間違いないし、ポアロは楽しませてくれるなぁ。
ドラマの脚本がとても良くできていることにも改めて気付きました。
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ポアロが挑む12の難業。
引退を考えているポアロは、エルキュール=ヘラクレスにちなんであと12の事件を解決しようと考える。その12の難業がこの短編集。元ネタにピンと来ないので(ひとつふたつしかわからない)あますところなく楽しめたとは言いにくいが、バリエーション豊かな事件を読んで満足。
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久しぶりに読み直す。
クリスティーは老後の楽しみにとっておこうと思った、というあとがきに深く同意。
その時によって、作品に対する感想が変化する。
それが、1番の楽しみ。
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ポアロ
オムニバス形式の短篇12篇。
クリスティーの短篇は自分には読みにくく感じるものが多かったのだか、この作品は楽しく読み進められた。寝る前にひとつずつ楽しみながら読んだ。
引退を控えたと言いながら、「カーテン」のポアロとは違って元気いっぱい。「カーテン」を読み終えて寂しい気持ちになっていたのを明るくしてくれた作品。
「アガサ・クリスティー完全攻略」の該当の項を読まずに読了したのでひとつ失敗。霜月蒼氏は「ヘラクレスの十二の難業」について事前に調べるか、簡単な紹介が解説に載っている旧版のハヤカワ・ミステリ文庫版で読むのを勧めている。いずれ調べて読み直してみようと思う。TVドラマ版では12の短篇のいくつかをまとめて一つのストーリーにしているらしい。こちらも観てみたい。
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「アガサ・クリスティ」のミステリ連作短篇集『ヘラクレスの冒険(原題:The Labours of Hercules、米題:The Labors of Hercules)』を読みました。
ヘラクレスの冒険(原題:The Labours of Hercules、米題:The Labors of Hercules)
『ポワロの事件簿〈1〉』、『ポワロの事件簿〈2〉』に続き「アガサ・クリスティ」作品です。
-----story-------------
引退を控えた「ポアロ」が、自らのクリスチャン・ネームである「エルキュール(=ヘラクレス)」にかけて「十二件の依頼を受けてやろう。しかも、その十二件は、ギリシャ神話のヘラクレスの十二の難業を参考にしてえらばなければならない」と、難事件の数々に挑戦。
オムニバス形式の短篇十二篇を収めた作品集。
新訳決定版。
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1947年(昭和22年)に刊行された「アガサ・クリスティ」の短篇集… 「エルキュール・ポワロ」のファーストネーム「Hercules」がギリシア神話の英雄ヘラクレスに由来することにちなみ、神話上の12の功績をモチーフとした物語で構成されている短篇集です、、、
以前、映像化作品の『名探偵ポワロ「ヘラクレスの難業」』も観たことがありますが、こちらは本書に収録されている『アルカディアの鹿』、『エルマントスのイノシシ』を中心に大幅に改編されているので、別な作品のような感じですね。
■ことの起こり
(原題:Foreword)
■第一の事件 ネメアのライオン
(原題:The Nemean Lion)
■第二の事件 レルネーのヒドラ
(原題:The Lernean Hydra)
■第三の事件 アルカディアの鹿
(原題:The Arcadian Deer)
■第四の事件 エルマントスのイノシシ
(原題:The Eurymanthian Boar)
■第五の事件 アウゲイアス王の大牛舎
(原題:The Augean Stables)
■第六の事件 スチュムパロスの鳥
(原題:The Stymphalean Birds)
■第七の事件 クレタ島の雄牛
(原題:The Cretan Bull)
■第八の事件 ディオメーデスの馬
(原題:The Horses of Diomedes)
■第九の事件 ヒッポリュテの帯
(原題:The Girdle of Hippolyta)
■第十の事件 ゲリュオンの牛たち
(原題:The Flock of Geryon)
■第十一の事件 ヘスペリスたちのリンゴ
(原題:The Apples of the Hesperides)
■第十二の事件 ケルベロスの捕獲
(原題:The Caputure of Cerberus)
■解説 東理夫
『ことの起こり』は、プロローグにあたる作品、、、
引退を考えていた「ポアロ」の下に友人の「バートン博士」が訪れる… 彼は「ポアロ」の性格上、引退は無理だと言うが、それに対して「ポアロ」は「ヘラクレス」の難行に自身を例え、最後に12の事件を解いて引退することを決める。
『第一の事件 ネメアのライオン』は、「ポアロ」宛てに「サー・ジョーゼフ・ホギン」という人物から、妻のペキニーズ犬を捜して欲しいという手紙が届き、いつもなら断る類の依頼内容だったものの、「ミス・レモン」から勧められたこと等から何故か気になり依頼人に会うこ���にする物語、、、
「ポアロ」が「サー・ジョーゼフ・ホギン」の自宅を訪ねたところ、既に愛犬の「シャン・トゥン」は見つかっていた… 夫人のコンパニオンの「ミス・カーナビィ」が、「シャン・トゥン」を散歩させている途中、赤ん坊に気を取られた間に「シャン・トゥン」が誘拐され、その後、200ポンドを要求する脅迫状が届き、身代金を払ったところ、無事に「シャン・トゥン」は戻ってきており、「サー・ジョーゼフ・ホギン」の友人「サムエルソン」も同じ被害にあっており300ポンドの身代金を支払っていた。
「ポアロ」は、「ホギン夫妻」の依頼により、身代金を取り返すべく調査を進める、、、
将来に金銭的な不安を抱く、犬好きのコンパニオンが、自分の飼い犬(ペキニーズ犬の「オーガスタス」)を利用したトリックを使った犯罪でしたが、「ポアロ」は犯人を被害者に暴くことなく身代金を被害者のもとに返し、その後、その事件解決で得た報酬をコンパニオンに贈呈するという粋な解決方法でしたね… 「ヘラクレス」の難行の例えた1件目の事件は、ライオンではなく、ペキニーズ犬(番犬としての勇敢さはライオン並み?)に関する事件でしたね。
『第二の事件 レルネーのヒドラ』は、妻を亡くした医師「チャールズ・オールドフィールド」に対するいわれなき中傷(妻を毒殺したとの噂)を断つべく、「ポアロ」が噂の出所と事件の真相を探る物語、、、
「ポアロ」はさっそく現地に飛んで噂の出所を調べ始める… 「チャールズ」の病院の薬剤師で彼が好意を持っていた女性「ジーン・モンクリーフ」や、「チャールズ」の妻の付き添いをしていた「ハリソン看護婦」、村の住人で詮索好きで噂好きでおしゃべりなオールドミス「ミス・レザラン」、「オールドフィールド家」の召使だった「グレイディス」等の証言を確認しながら真相に近付いていきます。
妻が死んでしまえば、自分が「チャールズ」の妻になれると思い込んだ女性の犯罪… その勝手な思いは叶わないと気付いたときに、愛情は憎悪に変わってしまったんですね、、、
「ヘラクレス」の難行の例えた2件目の事件は、一見、ヒドラとは無関係そうなのですが「噂はまさに9つの首をもつレルネーのヒドラなのです。一つの首を切ると、そこからすぐ二つの首が生えてくるために完全には滅ぼすことができない怪物なんですよ」と「ポアロ」が話すとおり、噂のことをヒドラに喩えているんですね。
『第三の事件 アルカディアの鹿』は、「ポアロ」が雪の中、愛車の故障で立ち往生した村の宿屋で出会った自動車修理工で純朴な青年「テッド・ウィリアムソン」から一目惚れした高名なバレリーナの付き添いの女性「ニータ」を捜して欲しいと依頼を受け、僅かな手掛かりを元にヨーロッパ中を巡り、女性を捜索する物語、、、
「ニータ」の住所の現居住者や、「テッド」が「ニータ」と出会った別荘の主「サー・ジョージ・サンダーフィールド」、バレエ関係者からの証言により「ニータ」の生地がピサであることが判明… 「ポアロ」は、現地まで足を運んで家族と会うことができるが、彼女は盲腸が原因で既に亡くなっていた。
その後、彼女の雇い主だったバ��リーナの「カトリーナ・サムシェンカ」を療養先のスイス・ヴァグレーまで訪ね、「ポアロ」は自らの推理を披露… 「カトリーナ」が「ニータ」を装っていたことを確認し、「テッド」と一緒になることを助言する、、、
「テッド」がハンサムで背が高く、ギリシャ神話のアルカディアの羊飼いのようだったことから、「カトリーナ」を鹿に喩えたんですね… なかなか粋な締めくくり方でした。
『第四の事件 エルマントスのイノシシ』は、「ポアロ」がスイスの山頂(標高1万フィートのロシェ・ネージェ)のホテルへと向かうケーブルカーの中で、車掌から「山頂のホテルで殺人犯マラスコーの逮捕に協力して欲しい」という旧友でスイス警察の警視「ルマンテューユ」からの手紙を渡され、事件捜査に協力する物語、、、
ホテルに到着後、ケーブルカーが事故により運行を停止してホテルは孤立… 宿泊客やホテル従業員が敵か味方か判断がつかない中、給仕「ギュスタヴ」が「ポアロ」に近付いてきて、自分は「ドルエ警部」で「マラスコー」逮捕のために給仕に変装していることを打ち明け、協力を申し出る。
その夜中に「ポアロ」が三人組みの悪党に襲われ、その直前に給仕「ギュスタヴ」に化けていた「ドルエ警部」が襲われて顔を大きく傷つけられていた… そして、勤務態度が悪く解雇されて山をおりたはずの給仕「ロベール」がホテル内の使用されていない部屋で死体としてみつかり、その胸には「マラスコー」であることを示すメモがあったことから、悪党たちの仲間割れで「マラスコー」は殺害されたと思われたが、、、
実は殺された給仕「ロベール」の正体が「ドルエ警部」で、負傷を負った給仕「ギュスタヴ」の方が「マラスコー」だったという意外な展開… しかし、「ポアロ」の眼を欺くことはできませんでしたね。
危険な殺人犯「マラスコー」はイノシシと呼ばれていたことから、エルマントスのイノシシを生け捕った「ヘラクレス」に喩えたんですね。
『第五の事件 アウゲイアス王の大牛舎』は、国民のシンボル的存在であった前首相「ジョン・ハメット」は、実は悪辣な人物であったことが、X線ニュース紙に嗅ぎ付けられ、娘婿にあたる現首相「エドワード・フェリア」に依頼された「ポアロ」は、暴露記事を掲載しようとする雑誌社の目論見を阻止するために立ち上がるという物語、、、
「ポアロ」は、「ジョン・ハメット」の娘で「エドワード・フェリア」の妻「ダグマー」の協力を得て、「ダグマー」のスキャンダルをでっちあげてX線ニュース紙を欺き、X線ニュース紙を名誉棄損で訴えて窮地に追い込むとともに、信用を失墜させて「ジョン・ハメット」の醜聞が暴露されることを防止する… 「ポアロ」の方が何枚も上手でしたね。
「アウゲイアス王」の大牛舎の大掃除の神話(良くは知りませんが…)のように、大洪水のような猛烈な力でスキャンダルを洗い流した… ということのようです。
『第六の事件 スチュムパロスの鳥』は、休暇先のヘルツォスロヴァキアのステンプカ湖畔のホテルでイギリス政府の次官「ハロルド・ウェアリング」はしっかり者の中年女性「ライス夫人」と酒癖の悪い��から逃げてきたという彼女の娘「エルジー・クレイトン」と出会うが、そこへ「エルジー」の夫「フィリップ」が現れて妻を連れ戻そうとし、彼女は抵抗の末、夫を撲殺してしまうという事件に「ポアロ」が関わる物語、、、
「ライス夫人」と「クレイトン夫人」は、地元の警察、ホテルの支配人などと交渉し、金品を贈って「フィリップ」の死を事故にすることにし、「クレイトン夫人」には罪がなかったことにした… 「クレイトン夫人」に好意をもち、現場に居合わせていた「ハロルド」はイギリスから為替を送らせて費用を立て替えて、事件は闇に葬り去られたと思われたが、スチュムパロスのような不吉な印象を与える二人のポーランド人姉妹が「ライス夫人」の所に来て、「フィリップ」の事件をネタに恐喝をはじめた。
ここで初めて「ポアロ」が登場… 「ハロルド」から相談を受けた「ポアロ」は、外国語に弱い「ハロルド」が騙されていることに気付き、事件解決に協力する、、、
スチュムパロス湖のほとりに棲み、人間の肉を常食としていた鉄の嘴をもった鳥… スチュムパロスの鳥は、ポーランド人姉妹ではなく、「ライス夫人」と「クレイトン夫人」だったんですね。
『第七の事件 クレタ島の雄牛』は、依頼人の女性「ダイアナ・メイバリー」から、婚約者の「ヒュー・チャンドラー」が自分自身を狂人であると思い込み婚約を破棄したと言う相談を受けた「ポアロ」が「チャンドラー家」を訪ね、その真相を探る物語、、、
「ヒュー」は、夜中に本人の意識がないままに、剃刀やナイフで羊や犬や鶏などの動物の喉を掻切っているのだという… 動物を殺した記憶は本人にはまったくなく、気がつくと血に染まった剃刀を持っていたり、血で真っ赤になった洗面器の前で気を失っていたりするのだった。
「ダイアナ」は「ヒュー」が精神的な病気だとは納得せず、何かほかの原因があるのでは… と「ポアロ」のところに相談に来たのだった、、、
自分が狂人だと信じ込ませて、自殺へ追い込む… という殺害方法は想定内でしたが、まさか父親が真犯人とは思いませんでしたね。
まっ、自分の親友が息子の父親だった… という動機を知れば納得かな、妻も事故にみせかけて殺していた前科もあったしなぁ、、、
「ヒュー」の男らしさが漲る立派な堂々たる体躯をクレタ島の雄牛に喩えたんですね。
『第八の事件 ディオメーデスの馬』は、「マイケル・ストダート医師」から深夜に電話により呼び出された「ポアロ」が麻薬騒ぎの後始末を頼まれる物語、、、
「ストダート医師」は好意を持っていた「シーラ・グラント」がコカインパーティで倒れたことを憂いており、彼女が麻薬の常習者にならないようにしたいと願っていた… 「ポアロ」は、「シーラ」の父親で退役軍人の「グラント将軍」を訪ね、コカインの出所を探っていく。
いやぁ、意外な展開… 加害者と思っていた若者の「アントニー・ホーカー」が被害者としてスケープゴートにされようとしていて、実は「グラント一家」が悪党一味(しかも、家族じゃなかった)とは、、、
麻薬密売者を、人の血を吸い肉を喰ディオメーデスの馬に喩えた物語でした。
『第九の事件 ヒッポリュテの帯』は、知人で画廊の「アレクサンダー・シンプソン」から、「ルーベンス」の描いた名画「ヒュポリュテの帯」が何者かに盗まれた事件の捜査を依頼された「ポアロ」は、もうひとつの興味ある事件… パリにある名家の子女のための教育施設であるミス・ホープ学院に入学するために、イギリスからフランスに渡った19名の少女の一人「ウィニー・キング」が行方不明になった事件の捜査とあわせてフランスに旅立つという物語、、、
「ウィニーが失踪した列車は途中に停止していないことや、「ウィニー」が沿線で後日麻薬でフラフラになって発見されたこと、「ウィニー」の編み上げ靴や帽子等、嵩張るモノが沿線に捨てられていたこと、「ウィニー」のスーツケースが何者かによって持ち去られたこと等から、「ポアロ」は「ウィニー」がイギリスで誘拐されて、別な人物が列車の乗り込んでいたと推理する。
無関係と思われた二つの事件を「ポアロ」は一気に解決… 窃盗犯一味は、ミス・ホープ学院に入学する少女たちと一緒に行動することで、関税がフリーパスとなり、盗難した「ヒュポリュテの帯」をフランス国内に易々と持ち込んでいたんですね、、、
盗まれた絵画が「ヒュポリュテの帯」だったので、そのまま「ヘラクレス」の難行の9件目になりました… エンディングで、群れになった25人の少女に取り囲まれてサインをせがまれる「ポアロ」の姿を想像すると笑えましたね。
『第十の事件 ゲリュオンの牛たち』は、『第一の事件 ネメアのライオン』で知り合った(加害者ですね)女性「ミス・カーナビィ」が「ポアロ」を訪ね、新興宗教「羊飼いの信徒」にのめり込み、財産を教団に遺そうとしている彼女の親友「エメリン・クレッグ」のことを相談する物語、、、
教団の信徒の中に大金持ちの女が何人かいたが、そのうち昨年中に少なくとも3人が、教団に全財産を寄付して死んでいた… それも全て孤独で身寄りのない女ばかりだったことから、「ミス・カーナビィ」は「エメリン」が同様の境遇であることから心配していたのだった。
彼女は、ハンサムな教祖「アンダースン博士」に惹かれており、忠告は全く聞き入れてくれない… 「ポアロ」は「ミス・カーナビィ」に、大変危険な役割だが、教団に信徒として潜入するように頼み、「ミス・カーナビィ」も承諾、、、
教団に入ると集団で不思議な行事が行なわれ、教祖が腕に触れるとチクリと痛みを感じ、「ミス・カーナビィ」はすぐに恍惚とした感じに陥った… 使われていたのは大麻だったんですよね。
怪しげな教団の人物「コール」が潜入捜査をしていた警察官だったり、教団の門番「リプスコム」を「ミス・カーナビィ」の機転の利いた行動で欺いたりと、新興宗教の秘密を暴く冒険的な要素が強い作品でした… 「アンダースン博士」を怪物「ゲリュオン」に喩えたようですね。
『第十一の事件 ヘスペリスたちのリンゴ』は、大富豪「エマリー・パワー」から、10年前に3万ポンドで競り落とした後、「パワー」の手に渡る前に前の持ち主の貴族「サン・ヴェラトリーノ侯爵」の邸から盗まれてしまっ���「ボルジア家」の金の酒盃を取り戻して欲しいという依頼を受けた「ポアロ」が、世界を股にかける窃盗団を追って旅に出る物語、、、
国際窃盗団の3人が逮捕されたが、主犯格の「パトリック・ケイシー」が逮捕の際に窓から飛び降りて墜落死し、残りの2人の供述からは、安物の美術品だけが見つかり、「ボルジア家」の金の酒盃はどこにあるかわからなかった… 「ポアロ」は、「パトリック・ケイシー」の娘が修道院に入ったという話をヒントに金の酒盃を見つけ出し、「パワー」のもとへ届けるが、その際、「パワー」に対し酒杯を修道院に送り返すことを提案する。
尼僧に聖杯として使ってもらう方が酒杯にとっては幸せだったのかも、、、
「ボルジア家」の金の酒盃は宝石をちりばめた蛇が、リンゴのなる一本の木に絡みついた見事な細工があったことから、「ポアロ」は、ギリシャ神話のヘスペリスたちのリンゴを思い浮かべたようですね。
『第十二の事件 ケルベロスの捕獲』は、「ポアロ」がかつて惹かれた「ロサコフ伯爵夫人」と地下鉄駅で偶然再会し、彼女が経営するナイトクラブ「地獄」へ招待されるが、その店は麻薬と宝石の取引が行われている疑いがあることを「ジャップ警部」から聞き、真相を確かめる物語、、、
「ロサコフ伯爵夫人」は無罪で、「ロサコフ伯爵夫人」の息子「ニッキー」の婚約者「アリス・カニンガム」が裏で手引きしていたんですよねぇ… そして、警察が2度も手入れに入って発見することができなかった麻薬は、店の番犬のグレイハウンドの口の中に隠されていたとは。
「ポアロ」は、「ロサコフ伯爵夫人」を窮地から救い… 恋心が再燃して年甲斐もなくアプローチを、、、
まっ、ハッピーエンドなんで、この終わり方もありかな… 最後の難行は、グレイハウンドをケルベロスに喩えた物語でした。
引退を意識した「ポアロ」が、引退前に12の事件を解決することがテーマになっているからか… 老齢になった「ポアロ」が柔軟に事件を解決している感じがしました、、、
バラエティ豊かな12の難事件… どの話もコンパクトにまとまっているし、遊び心があり、心地良くミスリードさせられる展開が多くて、愉しめましたね。
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エルキュール・ポアロの短編集。
クリスチャンネーム:エルキュール(ヘラクレス)の名に準えて12の難問を解決していく。
彼は刑事ではなく、探偵であることがよく分かる一冊。
私情を挟むし、犯罪には目をつむる。されどもそこが彼の魅力であり、人間味。
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ポワロの12篇の短篇集。ヘイスティングスは出て来ず、たまにミス・レモンが登場する。寝る前にちょっと読みたいというときにピッタリの一冊。