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WishListは「当時読みたいと思った」本が大量に入っていて、自分でもどうしてこれが読みたくなったかわからないのが多々あるのだが、これもそう。後からWikipediaで見直して「ああ、ラギッド・ガールの人だったんだな」と思いだしてようやく入っていた理由がなんとなく推測できた(ラギッド・ガールはアンソロジーで読んだので、著者名を失念していたのであった)。
本編には表題作を含めて、4つの短編がおさめられている。個人的には幻想的な雰囲気が全体を通じて漂っていて、最後にストンとおとす「夜と泥の」がお気に入り。
本書はハードSFという感じの表現もあるが、基本的にはファンタジーとSFの間ぐらいに位置していると思う。特に作者の世界の描き方が、「とても幻想的なのに、かつ写実的」という感じで、騙し絵を見ているような気持ちにさせてくれる。特に表題にもなっている「象られた力」の後半は、映像的な描写が続いて映画好きにはたまらない展開が待っている(が、映画で表したら陳腐になってしまうだろうので、たぶんそういう無茶はしないほうがいいのだろう)
全作品ともに最後の数ページでストンとおとす・・という趣向がしかけられていて、ミステリーとしても楽しむことが出来るので「SFはちょっと・・・」という人にもお勧め。
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イマジネーションの奔流、理性ではなく肌で理解する物語。
鴨が飛浩隆氏の作品を初めて読んだのは、2年前に読んだ「日本SF短編50 V」に収録されていた「自生の夢」。正直言って、まったく訳が判りませんでした。でも不思議と気になって、海外での評価が高いというハロー効果もあってか、この短編集を手に取ってみました。
で、読んでみた感想ですが、正直なところ、やはりよく判らない、と思います。例えばSFを読み慣れていない友人にこの作品を判りやすく紹介せよ、と言われたら、鴨にはできないと思います。ポイントを押さえて巧いこと言語化して要約することが難しい作品だと思います。
元々言語で記述されている小説なのだから、「言語化が困難」というのは言い訳に過ぎないということはよく理解してるつもりなんですが、本当にこの世界観、言語だけでは押さえきれないんですよ。「絵になるSF」の極北、音や視覚や嗅覚といった五感を駆使して読み解くワン・アンド・オンリーな世界観です。表題作の視覚的なカタストロフィは特筆モノですね。この作品を母語で読めるということは、日本人SF者としての至福のひとときかもしれませんね。
こうした「認識のパラダイム・シフト」を前提としたSFは、実は日本SFの得意とするところなのではないか、と鴨は感じています。SFという文学フォーマットでこそ挑戦可能な分野だと思いますし、今後もより先鋭的な作品を期待しています。
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「デュオ」
二転三転する圧巻の展開。ゾクゾクした。名無しは今どこにいるのだろう。サスペンスホラー風味で怖かった。
「呪界のほとり」
栗本薫みたい。ファンタジーっぽいSF。他の3つと比べると微妙。
「夜と泥の」
沼の戦いの描写が引き込まれる。美しい物語。これは好きだなあ。
「象られた力」
オチは不要な気がした。これはホラ話ですよ、ってわざわざ言われなくても分かっているわけで。発現のエンブレムのアイディアが秀逸で、図形が溢れ出すイメージに圧倒された。
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どれも素敵だった。
<象られた力>は、まるで長編を読んだ後のよう。
中短篇集だからといって、休憩に読めるなんて思っちゃだめだ。
時間をかけて、音楽もかけず、ただじっくりと、飛さんの表現する世界に、ひたすら絡みつくのが最高だ。
やっぱり飛さんは素敵だ。
たぶん、飛さんの文章は過剰に映像的だし、色彩と音の描写がものすごく装飾的で、それが美しくてたまらない。
これは、テーマから考えたら目くらましかも知れないけど、これだけ美しく、そして凝りに凝って作られた設定に酔えるのが、飛さんの素敵さでしょ?と思っている。
(だいたい、こんなテーマを現実の不安として抱えたり理解する人間なんて、病的か、さもなきゃオクスリ的だと私は考えている。
少なくとも私の乏しいSF系本棚の中で、こんな思考と世界の捉え方に近くて優しくしてくれるのは、徹底的に矯正してくれようとする神林さんか、とぼけていてくれる円城さんか、美しさに溺れさせてくれる飛さんか…ってとこである。)
<デュオ>は音・音楽の描き方が本当に豊かできらびやか!!
それだけでも素敵だけど、「人が生きているかどうかは微妙な問題です。」
人々の記憶の合間に、情報の渦の中に、まるで誰かが存在するように振舞う何かを、感じる時のことを考える。
見えない敵と戦っている、みたいなものかもしれない。
その怖さについての話。だとおもう。
<呪界のほとり>は、大好物メタフィクション。
こんなに明るく書いてくれていいのかしら!
とっても好き。
<夜と泥の>
未知の世界で、考えもしないウイルスを、知らぬ間に取り込んでいて、その世界の共感場に抗えなくなること。
人類の希釈化。
「新たな環境で、新生活で、あのヒトは変わってしまった、私は変わってしまった?」そんな陳腐な話にすり替えたって良いのかも知れない。
でもそれを良しと出来ない、自己と他者の境界で恐怖に佇む者には、こういうお話じゃなきゃ救われないのだ。
<象られた力>
ちからとかたち。
私という形を保つ、内側からの力と外側からの力、内側の思考と外側の思考のぶつかり合う、この身体の表面。
わたしという形を保つ、私という形を作るために、適切適当なエネルギーと思考と他者の関わり。
その不安について。
この日常的な恐怖について。
ものすごく凝った設定で、映像的に装飾的に描いて酔わせて、最終的に消滅という退廃的な甘美さに引き連れて行ってくれる飛さんの優しさったら、とんでもないなぁと思う。
大好き。
【読後追記】
消えた星<百合洋>ユリウミの、図形言語。
そしてやはり消えたはずの星シジックから発信される“シジックの歌”。
百合洋のエンブレムが表す文脈と情動。情動は人間が環境に最適化するために作ったツール。そのツールを制御するコマンド。言語と…そして図形。
読後も頭が<象られた力>で溢れる。次になにを読むのが適切なのか、わからない。
『世界の野生ネコ』でも眺めるしかないか。
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ある意味、こんな表現もあることを
知ってよかったのかも…
デュオは展開のしかたが
ちょっとあざとい感じがしたけど
普通に読めた…
でもそれ以降、読んでて、連なる語彙に
反吐が出そうなくらいな感じで
読むのを止めてしまいたくなった。
まぁ、でもいいところがあるかも
って粘ってみても。
文字面だけを追ってみても。
いくら経っても気分は治まらない。
何を表現したいのかが、
ボクにはさっぱりわからず…
もう二度とこの作家の作品とは
巡り会わないと思う。
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SFともファンタジーともホラーともとれる短編集。文章が綺麗。映像が浮かぶ様だ。
「夜と泥の」の情景描写に感動した。
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生徒のビブリオバトル候補本。
SFは嫌いではないと思っていたけど、この作品は観念的というか、小難しい感じがして読むのが大変でした。
個人的には苦手な部類。
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最初の「デュオ」はSFっていうよりミステリでしょ。シャム双生児の天才ピアニストに死産した兄弟の意識が入り込んでるって設定だけでイカす〜。表題作はがっつりSF。意匠や文言が感情感覚に直接作用して果てには物理的な力を持つ。。。「図形テロ」って面白いけど、だいぶ"虐殺器官"的だし、「自生の夢」と被ってない?違うネタを希望。
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図書館で。
グラン何とかってのは読んだ記憶があるような… それにしても不思議な経歴をお持ちの方なのですねぇ。
デュオはピアノの話でちょっとホラーな感じ。死んでしまった3人目の意志というか意識がちゃんと勉強しているのが面白い。強い生への自我とかじゃないのねぇ。
竜と主役と老人、というスラップスティックな感じの短編は面白かった。そのうちコレシリーズになりそう。
夏至の日に機械仕掛けの妖精たちが争うってなんかシェイクスピアか神話みたいな話で面白い。ウィルス最強。
アイコンが作用しあい、一つの意志というか力を発動するというのは…なんかうん、ちょっと受け入れがたくもあり怖いなぁと素直に思ったり。百合洋をユリウミと読ませるのがカッコイイ。
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SF。中短編集。
「デュオ」
ミステリ、ファンタジー、ホラー、どれにも分類できそうな音楽SF。個人的には怖さを感じたので、ホラーの印象が強い。
「呪界のほとり」
異世界ファンタジー風。いまいち。
「夜と泥の」
テラフォーミング。情景描写が圧巻。
「象られた力」
わからない。読みにくい。
表題作が一番苦手…。「デュオ」と「夜と泥の」が好きでした。
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三本の短編と一本の短めの中編からなる作品集。
この手の本を読んでいつも思うのは「これがSFか?」ということ。
別にSFに拘る必要もないし、読んで面白ければそれでいいのだけれど、例えば本書の冒頭の作品「デュオ」なんかは、SFのS……科学……というよりも、非科学的事象を題材にしている。
江戸川乱歩や夢野久作が書いてもおかしくない内容なのに、SFなのか……。
あるいはSFってもっと広義の意味合いが含まれているものなのか。
まぁ……いいけど(と書きつつも、どうもいつもひっかかってしまう)。
その「デュオ」なんかはブライアン・W.オールディス の「ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド」なんかを思い起こさせたりもした(あちらはロック・バンドだし、内容は全然違うんだけど)。
SF云々でケチをつけたような書き方をしたけれど、実はものすごく面白く読み進めることができた。
意表を突く題材に、きっちりとした伏線の張り方、その伏線の回収の仕方、読みやすい文章。
読者である僕ととても相性の良い作家のようだ。
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面白かった。読んでいる途中で書かれた年を知って少し驚いた。
デュオ>象られた力>夜と泥の>呪界のほとりで、の順に好き。『デュオ』がすごく読ませる。切なさと恐ろしさが同居した読み心地。設定的にはSFなのだが、偉大なピアニストを殺すべきなのかという葛藤、殺しても死なない「名無し」の行く末、誰が死に、誰が生きるのかという展開の妙が面白い。この文学的なSFこそ本邦のSFの持ち味だと個人的には思う。
『象られた力』はもっとSFへの振り幅が大きいが、破壊や破滅の正体がSF的設定を紐解く中で徐々に明らかにされていく、という仕掛け自体は『デュオ』に似たホラーな感触がある。図形が人間の持つ本来の能力のみならず、なぜ超能力的な力まで呼び覚ますことができたのか、そのあたりの解説が無く腑に落ちた感じがしないのが惜しい。
『夜と泥の』は彼のテラフォーミングを題材にした世界観を彩る掌編と言うところか。描写の美しさに舌を巻く。『呪界のほとりで』は安易な役割語(『象られた力』でも見られるが)で話す老人に入れ込みにくく、全体的に読みづらかった。
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イメージが想起される魅力的な短編。風景と情感の描写がよく、ラストに向けて物語世界の反流に襲われる感覚となった。
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初めて読んだ飛先生作品。
静かで不思議で美しいSF小説短編集。
例えると、広く暗い宇宙の片隅でいつかあった誰かの人生の一部を物語として切り取ってきたという短編が連なっている。なぜ?という質問には決して答えない。そこが逆に素晴らしい。あるがままの状況を切り取ってきて、物語として仕上げた、いわばフォークソングのような物語たち。
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日本SFの本を探していれば必ず目に入る題名なので。
思ったよりも昔(1980〜1990年代)に書かれたもの。
最初は目新しい単語と色彩で置き換えただけのSF短編集か、と思っていましたが、後半は全くそんなことなく。社会の仕組みや人間の根本を改変するSFではなく、宇宙の見方、人の感じ方と空気を変える着想と描写に力強さを感じました。
「夜と泥の」「象られた力」が素晴らしい。
宇宙に咀嚼され消化される人類、人工生物によって永遠に引き起こされる神話。視覚言語と、形に詰まったエネルギー、崩壊の文様。図形と形に満ち溢れている世界はなんて力に満ちているのだろう。満ち溢れている力に気づき感じとり、圧倒された。圧倒的な力の存在に気づいた。