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先の大戦で、最年少25歳で駆逐艦艦長となった著者による手記。前半は、昭和15年に海軍兵学校を卒業して水雷長など歴任し、各作戦に従事、特にレイテ沖海戦にも参加していた。そのころには圧倒的な戦力差、特に米軍の制空権により劣勢は明らか。そして後半は手負いの駆逐艦「天津風」艦長に任命された昭和20年2月からの様子。天津風を本土で大幅修理をさせるために、シンガポールから貨物船の輸送護衛に随伴する作戦に。圧倒的な米軍と幾度にもわたるげき激戦について米軍側の資料も用いて彼我の分析を交えつつ記している。また上海での陸戦準備と、戦後の帰還までの統率と指揮官としてあり方を淡々と記している。胸のうち去来するもは数多くあるが、唯一書くとすれば、ありとあらゆる偶然と努力が激戦を潜り抜ける強運を授けたのであろう、ということだ。
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一人の人物を通して記録された太平洋戦争。これは、まさに資料である。資料であるから、細かなデータが満載で余程の興味が細部に起こらなければ、中々読み憎い印象もある。ただ、所々出てくる生々しい軍隊生活や、軍の上層部への否定。これがリアルなのだろうが、途中からどうしようもなく、勝ち目の無さを痛感させられる。
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戦争は遠い過去ではない。「敗軍の将兵を語らず」の戒めを守って五十余年、長い沈黙を破って、初めて自らの戦いを赤裸々に綴った回想記。圧倒的な米軍の制圧下、若き指揮官は死闘の海で、どう決断し、また乗員たちを統率して対処し、勝利をかち得たのか。船団護衛における苛酷な海戦の実相を伝える感動の戦記。(親本は、平成12年刊、2004年文庫化)
・はじめに
・第一部「ヒ八八J」船団と「天津風」
・第一章 無敵海軍の内情
・第二章 開戦
・第三章 捷一号作戦
・第四章 礼号作戦
・第五章 ルソン島失陥
・第六章 「天津風」駆逐艦長
・第七章 「天津風」の奮戦
・第二部 泗礁山部隊
・第一章 泗礁山部隊指揮官
・第二章 戦備
・第三章 終戦
・第四章 武装解除
・あとがき
本書は、戦時下の人事とはいえ、若干25歳により、駆逐艦天津風の艦長となった著者の回想録である。200人余りの人員を統率する様子に興味をもった。戦後、相当の月日を経た回想ということであり、フレッシュさには欠けるが、反面、米軍資料なども分析して論じている。第二部では、陸に上がった基地守備隊の指揮官としての仕事ぶりが描かれている。
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2004年(底本2000年)刊。
大きく3つ。すなわち
① 重巡洋艦や駆逐艦乗艦歴が長く、日本の中小型艦艇における砲雷撃戦の過剰装備の問題点、それに比して対空・対潜装備の貧弱さ(レーダーは勿論、ソナー装備の稚拙さなど)を、現場に即して批判的に論じる点、
② 終戦前、艦橋すら破壊され(仮設艦橋で代替)た駆逐艦天津風を指揮し、輸送船団の一員として日本本土を目指す航海についた輸送船団海戦記、
③ 本土に辿り着けず、陸上部隊のリーダーとしての終戦前後、復員までの体験談(特に終戦直後の武装解除談)が叙述される。
徒手空拳の②。一方、①を含め本書で一貫して批判する精神主義が、②での猛訓練を生み出し、それが、敗残行の中でも何とか天津風の乗員の多くを助けた一面と語る点は、皮肉という他はない。
さらに③。終戦後の武装解除に際し、自己防衛の必要性と接収根拠がない故に、共産党系に目される中国人には武器を渡さないでいたが、その後、接収に来た米軍は日本軍所持兵器を破壊。然る後、隠匿していた自己防衛用の武器を中国政府軍に引渡した件。細かいが事実としては見逃せない終戦時の模様だ。
そして、あとがき。著者の体験に裏打ちされる本音が見え、含蓄がある。