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紙の本

同国人で同い年のアキ・カウリスマキ監督の映画とシンクロ。調子っぱずれで笑える風刺、社会の下層を成す者のエネルギー、ロックミュージックへの傾倒。海外評価も高いフィンランドのベストセラー文学。

2005/01/05 22:16

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 現代フィンランド文学を代表する作家の本邦初訳作品で、10数ヶ国に翻訳され好評を博しているということ。北欧デザインの工業製品を思わせる慎ましやかで上品な表紙からは、どこか乙に澄ました文学作品を思い描くものの、これがとんでもはっぷんというやつ。かなりの喰わせものなのであった。面白く読める上に、小説としての内容も、工夫も文体も相当水準だと思えた。

 読んでいる間に「何かに似ているよ」と感じ出し、しばらく考えて腑に落ちたのが映画界に旋風を巻き起こしたカウリスマキ兄弟であった。この兄弟は、現代に舞台を設定しドストエフスキー『罪と罰』を映像化してデビューした。弟のアキ・カウリスマキ作品に「レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ」——リーゼントが日本のヤンキー兄ちゃんたちなど物ともしない滑り台のような反り具合だったが、この本に出てくる人物たちも戯画のようにデフォルメされている。突飛な発想でもって奇妙な行動に走る。本人としては「それしかない」という選択なのだろうが、「どこかずれている」感じが積み重なって、大きな歪みを読者の前に露呈させていく。
 そのアキ・カウリスマキ監督と作家カリ・ホタカイネンは同じ1957年の生まれ。おそらく両人は文化人同士で面識もあろうし、刺激し合う間柄なのではないかと推察する。共通点がいくつかある。先ずは、「ずれ」や「歪み」を悲壮に描かずに、調子っぱずれのおかしさで笑える風刺として提供してくれる点。
 次に、登場人物が社会の下層にうごめく人たちで、社会的存在としては力なきはずなのに、自我の目覚めで力を得ていく過程をのぞかせてくれる点。これは、作者の生活感覚の一部を投影させたと思しき主人公マッティの属性としても与えられているが、労働運動を通して体制的なるものと闘争してきた日々を経験したことが大きいのだろう。マッティはいまや妻子持ちで、妻が仕事と育児と家事につぶされないよう、「家庭戦線主夫」を名乗り、新たな闘争生活に身を置いていた。この物語が始まる前までは…。つまり、妻が子どもを連れて出て行くまでは…。
 3つめの共通点としては、ロックミュージックへの傾倒が指摘できる。「レニングラード・カウボーイズ〜」は史上最悪のR&Bバンドという触れ込みだったが、この小説の文体はむしろ、過激な歌詞を乾いたシャンシャンシャンというリズムに乗せるパンク。本文にセックスピストルズのジョニー・ロットンの言葉を引いていて、壊れた夫婦の出会いもロックフェスティバルに設定しているから、作家の音楽趣味がかなりの影響を及ぼしていることは明らかだ。

 妻子に出ていかれた男性のぼやきから本文は始まる。女性に振られた男性の虚無的心理をこうも描けている作品というのもそうない気がする。出ていかれて、ひとり残されたところから始まる「マイホーム」獲得物語というのは実に奇妙な設定。そのような皮肉にしつらえたエピソードがいくつか展開していき、それでいて嫌味やお笑いにならない程度に抑制された工夫がされている。ミステリー仕立てで、先が分からない不安を少しずつ取り込むようにしていくことで、マッティを支配する虚無のエネルギーというべきものの姿が露わになっていくのだ。
 訳者が主宰する「フィンランド文学情報サイト」というページがある。美しく丁寧なサイトなのだが、そこで本書の中身の一部を立ち読みできる。ホタカイネンの文体の個性が少し分かると思うが、妙味ある表現で人物の心理を表出させるのに非常にたけている。ご興味の向きは、検索の上、一読をお薦めする。

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