紙の本
本当の復興とは
2011/04/27 04:22
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:良泉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
東日本大震災の復興がいかにあるべきかを考えながら、あらためてこの旧著を読んだ。
本書に紹介されている建築学の応力集中の例え。
四本の柱に支えられた建築物がある。四本のうち一本が虫食い等で強度低下している時、この建築物に振動が加えられたとする。この時、振動による負荷は四本の柱が均等に受け持つのではなく、弱い一本の柱に集中する。そして、この建築物は予想しなかった程度の振動で全体が崩壊する。
災害時に弱者に被害が集中する構造と酷似している。そして、災害弱者が最初に被害を被ったのち、あっけなく社会全体が崩壊に向かうことになる。
いま、この国は東日本大震災の復興に向け動き出そうとしているが、その復興の基本的理念の中に、この応力集中への対応はしっかり盛り込まれているだろうか。
阪神淡路大震災から15年、神戸の街は完全に“蘇った”かに見える。土地区画整理事業により、公園などの広い公共空地と、何車線もある幹線街路をそなえ、土地の不足分は建築物を高層化させることによって賄う。見るからに“近代的で防災上も優れた街”があちこちに出現した。
はたして阪神淡路大震災からの復興策は大成功だったのか。では、大災害からの復興は何をもって成功と考えるべきか。復興策は何を目標とするべきなのか。本書では、そこに住んでいた、そしてこれからも住み続ける人たちの心の問題を考えさせてくれる。そして、それを加味したとき、阪神淡路大震災の復興が、成功とはほど遠いものであったことがわかる。
東日本大震災で被災した方々も、もちろん同じ気持ちのはず。決して“近代的な街”に住みたかったわけではない。元の生活に戻りたいだけ。誰も人生の途中で一方的にリセットかけられて嬉しいわけがない。人の持つ時間はずっと継続しているのだから。
復興策がこれから集中的にたてられることだろう。しかし、その時、決して間違ってはならないこと。それは政府や行政の“ひとりよがりの”復興策とならないこと。その街に住み、これからも住み続けなければならない多くの人たちの気持ちを尊重した街づくりを考えること。
街が壊され生活が壊された人たちに、これ以上負担をかけないこと。心まで壊してしまうことの無いこと。まずは日本全体で、この部分の意思統一が必要と考える。
投稿元:
レビューを見る
阪神淡路大震災から10年を振り返り、新潟中越地震などを含めその復興などを主に人に焦点を合わせ検証している。
見落としがちと思ったのは、住宅等の倒壊は物理的な破壊だけに止まらず、そこに住む人々のコミュニティをも崩壊に陥れ、孤独死などの二次災害をもたらしたことだ。そして、震災九周年の追悼式での遺族代表のあいさつは、「大切な家族や友人、家を失ったひとたちの心の傷は、心の奥深くに残っています。目に見える復興だけでなく、心の復興に向けての支援を行政や社会全体でおこなって頂けるように願っています。」とのことだ。
震災九周年にして、まだ癒されてはいないのだ。私たちはそれぞれの生活を行いつつも、被災された方のことを長く心に止めておくことが必要ではないだろうか。
投稿元:
レビューを見る
(2012.01.27読了)(2012.01.17購入)
【東日本大震災関連・その52】
古書店で見つけたので購入してきました。東日本大震災の今後を考える上で、参考になることがあるかなと思ったので。
編者の柳田さんは、「まえがき」で以下のようにのべています。
「震災はいかなる問題をさらけ出したのか、人々はどのようにして喪失後の生き方を構築するのか、人間らしい暮らしのできるまちの再建とはどのようなものであり、そのための取り組みはなされているのか、といった本質的で普遍性をもった問題については、この国全体の人々が情報を共有していかなければ、震災の体験を被災地以外の地域の人々の新しいまちづくり、村づくり、国づくりに結びつけていくことはできない。」
この本の目次は以下の通りです。
第1章、災害弱者の視点から(柳田邦男)
第2章、検証・復興の20年(松本誠)
1、十年後のKOBE―復興はどこまで進んだか
2、もうひとつの生き方と新しい仕組みづくり
第3章、生きる場はよみがえったか(山口一史・大谷成章)
1、コミュニティービジネス(山口)
2、21世紀型を模索する福祉コミュニティー(山口)
3、「障害者市民」が登場(大谷)
4、新しい住まい方(大谷)
第4章、<内>に気づく、<外>とつながる(大谷成章)
1、外国人が「非承認」市民?
2、海外災害救援
●新潟県中越地震(2頁)
新潟県中越地震の報道に接していると、様々なキーワードが、私の心に突き刺さってくる。
道路寸断、通信途絶、孤立集落、高齢者災害、全村避難、災害弱者、救援の遅れ、一日におむすび一個、震災後疲労死、車中泊死、仮設住宅、PTSD……。
●阪神・淡路大震災に現れた高齢化社会の弱点(11頁)
(1)犠牲となった人々のうち、高齢者が44%を占めていた。
(2)家を失い身を寄せるところもなくて仮設住宅に入居した人びとは、ほとんど中高年層だった。
(3)仮設住宅では中高年層の孤独死が相次ぎ、その数は5年間で233人に上った。
●孤独な生活(13頁)
震災によって家や財産を失い、住み慣れた町も消滅し、気楽に声をかけ合う人もいない環境の中で孤独な生活を余儀なくされたとき、人はよほど内面的な生活を豊かにしない限り、一気に十歳くらい老けてしまうのではないか。
●災害弱者を犠牲にしないための条件(30頁)
(1)家屋の耐震強度を十分なものにする。
(2)少なくとも寝室や居間は潰れないようにする…
(3)地域の中で、どの家に災害弱者がいるかについて、住民が情報を共有しておき、…
(4)災害発生後に災害弱者が体調を崩さないように、飲料、食料、暖房、よりよい避難スペースを優先的に提供できるような体制を組んでおく。
(5)災害弱者が疲労・ストレス死に陥らないように、後片付けなどの作業は公的な救援隊やボランティアの人々が手伝う。
(6)心身両面の健康状態を毎日把握して、適切な医療サービスを提供できるように、保険師や臨床心理士がきめ細かく巡回する。
(7)コミュニティーの顔見知り同士がばらばらにならないで、日常的に語り合えるような憩いの場を設営する。
(8)生活と人生に��望的にならないように、継続性のある相談と支援の体制を組む。
☆関連図書(既読)
「災害救援の文化を創る」野田正彰著、岩波ブックレット、1994.11.21
「大震災復興への警鐘」内橋克人・鎌田慧著、岩波書店、1995.04.17
「災害救援」野田正彰著、岩波新書、1995.07.20
「わが街」野田正彰著、文芸春秋、1996.07.20
「神戸震災日記」田中康夫著、新潮文庫、1997.01.01
「復興の道なかばで」中井久夫著、みすず書房、2011.05.10