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アンドリュー・テイラーの『天使の鬱屈』が手に入り、さて、読もうと思ったら、『天使の鬱屈』は実は天使シリーズ三部作の最終巻だということがわかった。
慌てて他の2冊を取り寄せ、シリーズ最初の『天使の遊戯』から読み始めた。
『天使の遊戯』は、刑事と教会の女性副牧師の若い夫婦の間に生まれた幼ない娘が誘拐され、犯人と共に明かされる衝撃的事実までを、母親の揺れる心情を織り込みながら描いている推理小説である。
『天使の遊戯』は、もちろん独立したサスペンスとして楽しめるが、一気にアンドリュー・テイラーの罠に落ちるためには、シリーズ二作目の『天使の背徳』が必要になる。
『天使の遊戯』でミステリアスな脇役として登場した人物が、『天使の背徳』で、時代を遡り主人公として登場する。
ここで、読者のワクワク感が増大すること間違いなし。
『天使の背徳』を読み進むにつれ、一作目の『天使の遊戯』で、アンドリュー・テイラーの仕掛けに少なからず気づくことになる。
三作目の『天使の鬱屈』は、また時代設定と登場人物を代えながら三部作は完璧な調和を成し、自らの仕掛けた謎のおぼろげな彫塑的陰影を見事に白日の元に晒している。
人物再現法を巧みに使い、いくつかの一貫性を保守しつつ、まったく違う物語を三部構築するアンドリュー・テイラーの手腕には恐れ入った。
尚、この三部作は時代が遡るので年代としては新しい刊行のものになるほど古くなっていく。(『天使の鬱屈』は回想という形をとるが描かれている時代背景は一番古い)
私は、刊行順に『天使の遊戯』『天使の背徳』『天使の鬱屈』と読むのが好みだが、別に反対から読んでもかまわない。
解説にもあるとおり、それぞれ一冊でも単独のサスペンスとして十分楽しむことはできるが、この三部作に限っては、三冊読了は、一冊の何十倍もの重みを持つと思います。
訳者は『ダ・ヴィンチ・コード』などダン・ブラウン作品の翻訳で知られる越前敏弥さん。