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辻原登さんの短編集。新潮社。川端康成文学賞受賞の表題作を含む六つの作品集。
単行本なので解説がついてない。初版から1年後で4刷目。すごい。売れてる。
エンターテイメントではなくて純文学系の物語だけどわりと読みやすかった。
ちょっとオカルトっぽい部分もあるけれど、違和感がない。むしろ、あり得ることと背筋が反応した。作品によっては寒くも熱くも…悲しくと変化する。
300勝達成を目前に苦闘する老いたスタルヒン投手に悲願を叶えさせるため、ひとたび間違えば大きな災いが襲うことを承知で密かに南洋の呪術を使う男の話「枯葉の中の青い炎」。1カ月だけ愛人と同棲したい、という夫の望みを聞き入れてやる妻が妖しい「ちょっと歪んだわたしのブローチ」。奇妙な匂いに誘われて、妻の妹をレイプしてしまった男のモノローグ「水いらず」。野球に天才的な能力を持ちながら不幸な人生をおくった同級生を、深い哀切の思いを込めて追想する「野球王」など(「BOOK」データベースより)
現実が描かれている筈のなのにいつのまにか幻想の世界に迷いこんでる…それが心地よく核心へと導いてくれる。人間の深い部分への道案内をしてくれてるのかもしれない。
久々に読み応えのある作家に出会えて充実感を感じた。もっといっぱい読んでいってもこんな清冽感を味わわせてくれるのだろうか。
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おもしろい短編集だった。
特に「ザーサイの甕」「野球王」が◎。なんとなくボルヘスを感じたのは気のせいか。
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文章がものすごく巧い作家さんだなと思うけれど、いまいち入り込めなかった。ぼんやりとした輪郭をなぞるような短編という印象。薄暗くて難解な幻想系短編集。
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辻原登は巧すぎる書き手である。そのままで一篇の小説として立派に通用するだろう題材にさらに一ひねり二ひねりを加えないと満足できない。そのひねりの基となっているのがこれまでに読んできた世界中の物語や小説だ。おそらく無類の本好きで、作家自身の幾分かは本でできているにちがいない。どの話にも時間や空間を隔てた異国の物語が影を落としている。というより、異国の物語を読んだ経験が作家をして新しい物語を紡せている。物語が物語を産む。登場人物も作家も我々人間はみな物語を語る器官のようなものだ。
青いラピスラズリのブローチを故郷で待つ許嫁への土産として持ち帰った男が、部屋の壁に掛かった絵の中の世界へと迷い込み、向こうで別の女性と何年かを過ごして帰ってくると、こちらの世界では数分間しか経っていなかったというメルヘンがある。「一炊の夢」を主題にしたヴァリエーションだが、世界を往還するのはいつも男だ。女は壁の絵と扉の向こうでただ男の帰りを待つしかない。
「ちょっと歪んだわたしのブローチ」は、男を待つ女の側の視点から書かれている。愛人と同棲するためにひと月の間だけ家を空けたいという夫の願いを冷静に受けとめたように見えた妻だったが、二人の部屋を突きとめると、向かいの建物の空き部屋を借り、オペラグラスで二人を眺めるようになる。向かいと同じ色のカーテンを掛け、同じ花を部屋に飾る。奇妙なシンクロニシティが起こる。向かいの花とこちらの花が同じ散り方をするのだ。約束のひと月がたち、夫が家に帰ってみると、妻の胸には女にプレゼントしたはずのラピスラズリのブローチが……。
「枯葉の中の青い炎」では、新聞に載った小さなコラム記事から、往年の野球ファンを湧かせたスタルヒンの三百勝という偉業と、続いて起きた悲惨な事故死の間に横たわるミステリアスな共時性に目を止めるよう読者を促す。天皇の太平洋三カ国訪問中止を告げる記事で見つけたのは大酋長であるアイザワ・ススムという名前。かつての高橋ユニオンズの名選手だ。彼が少年だった頃、その島には『ツシタラ(後に「光と風と夢」と改題)』を書いた中島敦がいた。
「物理世界と精神世界を秘かに結ぶシンクロニシティは、日常生活にいくらでも起きていることではないか。ただわれわれは、それを自分の意志で起こすことができない。秘蹟を起こすことのできる儀式、方法を我々は持っていないだけなのだ」と、作中ツシタラ(物語大酋長)は語る。
書名は短編集の掉尾を飾る一篇から取られているが、硝子瓶の中に封じ込められた枯葉をちろちろと舐める青い炎は、現実世界に隠れながら、知らぬ間に裡側からそれを焼尽していく物語世界の暗喩でもあるのだろう。二篇の他にも現実と物語の間に強引に架橋した稀有な物語世界を見せる短篇が四篇収められている。作家はどのような儀式でもって、これらの秘蹟を成し遂げたのだろうか。
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筆者の作品初読みでした。
無駄がいっさいない研ぎ澄まされた文章で場面がどんどん切り替わって行く。
筆者の読んだ文献と事実とが交錯してゆくがあまりの早い切り替えについていけないことしばしば。
自分のあたまの悪さを思い知らせれるような作品群だった。
1編目の話は有りえない設定だが、妻が狂ってゆくさまが怖かった。舞台にしたら面白そう。
是非他の著書をよんでみたい。
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個人的には最初の2編を推す。特に水入らずが強烈。ここまでの変態を描けるとは・・・。
場面の切り替えに合わせた頭の切り替えが要求される作品。ついていけない作品もあったので、均して星3つ。
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6編の短編からなる.
前半の3遍はボルヘスのような幻想的で奇妙な話.辻原登がこのようなテイストの話を書くとは知らなかった.
自分の好みはスタルヒンが主人公の表題作(第31回川端康成文学賞を受賞している).スタルヒンが300勝を達成した西京極球場での試合と,スタルヒンそしてもう1人の主人公であるアイザワ=ススムの過去,さらには魔術(!)とを交え,謎が多いとされるスタルヒンの自動車事故死に収斂させる手腕は見事だ.
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なんか嫌な話から始まった、
短編集だった
前半の3篇と後半の3篇で趣きが異なっていた
全体的にファンタジーなのかな