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全編書下ろしの伝奇時代小説アンソロジー。
分厚い600ページ近い文庫で全十編、
どれしもレベルが高く時代伝奇に対する気迫が漲っている。
おれがこのジャンルが大好きというのもあって久々に読書の楽しみを満喫した。
短い中に大胆な仮説と悲恋、秘術を尽くした闘いを盛込んだ
飯野文彦初の時代小説「笑い猿」、
全編、息詰まる剣客の師弟対決を描いた朝松健の「秘法 燕返し」の二編が
活劇性が強く好みだが他の作品も剣豪もの、ホラー、オカルト、ミステリーなど、
それぞれに独自の趣向が凝らされており一編一編がたいへん面白い。
編者は「荒唐無稽の楽しさ、奇想天外の面白さを追求した」そうで
ジャンルを絞っていくよりも間口を広げていく感覚は
海外のモダンホラー・アンソロジーによく似ている。
ちょいと残念なのは山田正紀がエッセイのみだったことで
「風の七人」「天動説」などの時代伝奇小説でも楽しませてもらった作家だけに
久々に小説作品が読みたかった。
この本売れ行き次第では二弾、三弾と続刊予定らしいから
またそういう期待も次巻に持ち越しということかな。
収録中、半分ほどは読んだことのない作家だし
新しい作家を知るのにも興味深い企画なのでこれはぜひ続いてほしい。