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世界最古の都オンブリア。
その宮殿には、忘れ去られた秘密の通路や部屋が無数にあり、
そして、都の地下には、沈んでいった過去の都と時間が地層のようになった影が存在していた。
大公ロイス・クリーヴが死んだとき、
大伯母ドミナ・パールがオンブリアを我がものにしようと動き始めた。
ロイスの愛妾リディアは宮殿から追いやられ、
大公を継いだ幼いカイエルはドミナの前で何もできない。
庶子だが、大公にかわいがられていたデュコンは、絵ばかり描いていて何を考えているのかわからない。
一方、影の都にいる魔法使いフェイの助手マグは、
陰謀渦巻く宮殿の同行を見極めようと、主人に内緒で探るが……
プラチナファンタジィの新刊にして、
20年近くぶりに出たマキリップの翻訳。
正直言って、プラチナファンタジィじゃなかったら新刊で買わなかったんだけど、
これがかなりの当たり。
主人公が複数いる形になっていて、キャラクターがそれぞれ立っている。
耐えるカイエル、彼を守ろうと頑張るリディア、様々な陰謀に狙われるデュコン、
醜悪なドミナ、謎めいたフェイ、そして狂言回しにして影の主役とも言えるマグ。
ストーリーは、ドミナの陰謀からカイエルとオンブリアの支配を守れるか、と言うのが軸。
そこに、
ドミナの正体とは?
影のオンブリアの真実とは?
デュコンの父親は誰なのか?
と言う謎が横糸。
派手な場面は特にないんだけど、どっしりとしたファンタジー世界に浸れる。
海外の、ヨーロッパ風ファンタジー宮殿に付き物の、
忘れ去られた部屋、地下世界って好きなんだよねぇ。
『グローリアーナ』と被るけど、個人的にはこちらの方が面白かった(と言うか、読みやすかった)
それにしても、海外のファンタジーって、扉を抜けると、そこには秘密の世界、ていうの多いね。
昔話とか考えても、日本はないよなぁ。
ドアと引き戸でそんなに違うものなのかなぁ。
西洋のファンタジーがすぐ横に違う世界があるのに対して、
日本だと、山の向こうで、全く別の世界なんだよね。
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2003年度世界幻想文学大賞受賞作
この世で一番美しく力のある古き都オンブリアは、影の都と混じり合って存在していた。今、国王が死に瀕しているとき、彼の寵妃リディアと世継ぎの少年カイエルは、正体不明の老婆ドミナ・パールの陰におびえていた。リディアは生まれ育った酒場へと追い出され、残された少年王の頼りは叔父のデュコンだけ。父なし子の彼は、オンブリアの最も暗いところも平気で歩き回る豪胆さを持った、不可思議な男だった。
一方、オンブリアの過去の積み重なった地下では、フェイと言う名の魔女と手伝い娘のマグが住んでいた。地下と地上を自由に行き来するマグは、街をさ迷ううリディアを助け、デュコンを見守ろうとする。陰謀渦巻く宮廷では、誰かが誰かを殺そうとしフェイに毒薬を注文した・・・
地上にある現実の都オンブリアを支配するドミナ・パールと、その地下に広がる魔法と幻想の街の魔女フェイ。この二人を軸に、陰影深い物語が繰り広げられます。
自らの出自を求めるマグとデュコンが折りなす内なる物語が、絡み合い、静かにたゆとう。
何のためか自分でも判らないまま、オンブリアをさ迷いその街の扉を描き続けるデュコンが、最後にそのわけを知るラスト近く見た鏡の中の真実がとても美しく、心を捉えられました。
派手な魔法合戦も正邪の戦いもないファンタジーでしたが、みやびやかで静かな魅力に満ち溢れていました。
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ファンタジー。けぶるような、透かし模様のような、埃が光に透けて舞っているような、上手く言えないけれど不思議な空気感です。そして、それがすごくいい感じ。粗筋をじっくり追う、というよりも 空気やにおいや気配を楽しむ本だと思います。読めば読むほど、とりこになる…。
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マキリップは日本ではあまり翻訳されてはいませんが、その代わり翻訳されている本はどれを取っても読み終えるのが惜しくなる本ばかりです。読み始めたらきっとオンブリアという国にぐいぐい引き込まれること受け合い。
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マキリップ最新作。
背後からひたひたと忍び寄るような闇の雰囲気がよい。
私の大好きな世界終焉物だが、イマイチぶっ壊れてくれなかったのが残念。
しかし、古い街の描写や蝋人形の少女などには心躍らされた。久々に読んだ幻想文学だった。
なんどなく日本語と英語と言う言語感覚の違いをしみじみと感じた一冊。
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薄ものを一枚ずつ捲り、その下のものを確認するような。
不思議な透明感、そして浮遊感。(2007/07/25)
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05/10に読了。
井辻さんの訳に対する苦手感をマキリップの魅力が十分カバーしてくれました。
かつては繁栄していた都のよどみとも言うべき地下世界。夜の都の描写がなんとも隠微でグロテスク。
マキリップの語る人物は映画の中の人のように私には声と量感を持って感じられる。
今回はその人物達以外に世界の描写がよかった。一度きらめく金糸銀糸を織り込み天然色で染め上げたものが、長い時間を経ていい具合に色落ちした古い布のような、なんとも味わいのある色彩が感じられます。
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本屋にいったら、
「強い物語。」ハヤカワ文庫の100冊。
ってフェアーをやっていて、この本が鎮座ましましていたので、思わず購入してきました。(笑)
他にも、数冊購入。最近ハヤカワ文庫にふらふら呼ばれるなぁ(笑)
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2008年6月15日読了。
途中まで面白かったんです。面白かったんですが、ラストの意味がよくわからなかった・・・。
そして、なんだかとても中途半端な終わり方。
結局「黒真珠」って何者だったの????とか疑問が残りすぎです。
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2003年度の世界幻想文学大賞を受賞している作品。
二つの世界が絡み合ってるお話。もっと絡み合っても面白いと思ったけど、十分楽しかったです。
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大公の愛妾のリディアが、大公が亡くなったために宮廷を追われることになる、というところから始まる、いきなりシビアなお話です。
お話は堅実というのか、この作家らしいリアルさなのですが、そのリアルさとファンタジー的なもの(魔法、影の都、フェイやマグ)との混じり合いが私は好きです。
いきなり不思議な出来事や下の都の出来事が混じりこんでくるので、何が何かときどき曖昧になるのですが、そこに慣れれば楽しめると思います。
2010/9/29 読了
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世界で一番美しく、豊かな古都オンブリア。現実と影のふたつの世界が重なる都で、大公のロイス・グリーヴが亡くなり、愛妾であったリディアも、ロイスの大伯母ドミナ(黒真珠)によって宮廷を追いやられる。しかしそれは絶対的な権力を渇望する黒真珠の陰謀の序章にすぎず…。
新大公とは名ばかりの、幼いカイエル、彼を守るオンブリア大公家庶子のデュコン、地下の世界に住まう女魔法使いフェイ、フェイに育てられた蝋人形マグ、都に埋もれた歴史の真実を追い求める家庭教師…。幻想的なオンブリアを舞台に、それぞれの思惑が複雑に絡みあいます。権謀術数の行方やオンブリアの秘密に、後半はページをめくる手が止まりませんでした。世界幻想文学大賞受賞作。
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枯葉色の長い髪の寵妾、銀の髪の貴公子、影のような少女、
2つの世界が重なる都、絶世の美女の幻影を身に纏った魔女に歴史学者、
幼い大公の邪悪な摂政ときらびやかで混沌とした世界に蠢く陰謀。
これぞ耽美なオトナのファンタジィ!幻想の世界に浸りたい時にオススメです♪
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何とも詩的な文体で貫かれた物語ですねぇ。 そもそも舞台背景自体が幻想的な物語です。 架空の都オンブリアを舞台にした陰謀劇なんですけど、物語のあらすじを書いてしまうとめちゃくちゃシンプルなんですよ。
豊かで美しい都の大公が死ぬ。
幼い忘れ形見の少年が大公の地位を継ぐ。
正体不明のモンスター的な女摂政が立つ。(どうやら大公を殺害した模様)
宮廷に出入する多くの人々が、摂政を除こうとし、幼い大公(もしくは別の人物)を傀儡に仕立てようとする
幼い大公の味方はふたりだけ。 そのふたりがなんとか陰謀を排除し、大公を守り通す。
恐らく大筋はこんなお話なんです。 でも、そこに絡んでくるのが、オンブリアの影に寄り添うように存在している異次元の世界、「影のオンブリア」で、そこの住人であるフェイという魔法使いとその弟子マグの存在と彼らがなす様々な事件です。
地上にある現実の都オンブリアを支配するドミナ・パール(女摂政)と、その地下に広がる魔法と幻想の街の魔女フェイ。 この二人を軸に、陰影深い物語が繰り広げられ、読む人を幻惑させます。
そもそもこの「オンブリア」という地名が「名は体を表す」を地でいっていると思うんですよね。 だってフランス語で「影」は「ombre」だし、イタリア語では「ombra」なんですもの。 宮殿に存在する「表通路」と「裏通路」、豊かで明るい「昼間の都」と女一人では歩けないほど危険が充満した「夜の都」、「現在のオンブリア」とその土台にさえなっている「過去のオンブリア」、表の世界のドミナ・パールと裏の世界のフェイ。 物語に登場するすべての人・モノが二重写しになっていて、光と影があふれます。
でも「光のない所に影はない」のと同じように、そして更には「影は光の加減でいかようにも変化する」のと同じように、すべての出来事がどこか夢幻的で、歪みを感じさせ、同時に靄に霞んでいるかのように現実感が乏しいんですよね~。 まあ、だからこそ「幻想的」なのかもしれませんが・・・・・(苦笑)
多くの登場人物の中でもっとも魅力にあふれているのは、幼い大公の叔父にあたるデュコンとフェイの弟子(?)とでも言うべきマグなのですが、この2人のみがこの「光」と「影」の両方の世界を行き来しつつ、それぞれの世界での存在がどこか曖昧です。
(デュコンは)マグと同じように、どこにも属し、どこにも属していない。
出自はあいまいで真の名前を持たない。
マグと同じように恐れなくさまよい歩き、秘密を愛好する。
ひとりが世界の上の宮殿に住み、ひとりが地の下に住むとしても。
それまでマグは、自分がこれほど、ある人間に近いと感じたことはなかった。
この、どこか寄る辺ない雰囲気が物語全体を支配しています。
1回の読書でどこまでこの物語を読み解くことができたのか、はなはだ不安なんだけど、1つだけはっきりしていることは、恐らくこの物語、人が主人公の物語ではないんだろうな・・・・ということです。 恐らくこの物語の主人公はこの「オンブリア」という都そのものだったんだろうなぁ・・・・と。 まるで、吟遊詩人がリュートを片手に歌い語るバラッドのような物語だったと思います。
この二重都市を表現するのに用いられている小道具の扇がこれまた雰囲気満点なんですよね~。
骨は細い象牙、繊細なライスペーパーを二層に貼りあわせた扇だ。 片面には絵が描かれ、もう片面には細かな切り絵細工が貼られて、扇を光に透かすと、影と二重写しに絵が浮かびあがる。 リディアはゆっくりと扇を開いて、絵のある面を出した。
・・・・・・「こちらがオンブリアの世界」
扇をランプの正面にかざし、光が扇を透かして流れ出る。
・・・・・・「こちらがオンブリアの影のがわ」
オンブリアの裏側に都がそびえている。 宮殿を見おろす壮麗な影の都が。 影の船団が水上を行く。 小さな影の人々が、絵の中の通りを歩いてゆく。
どこか月の光を思わせる、不思議で美しく静かな物語でした。
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ふわふわとしててつかみ所がない印象です。いい意味で。
原文がそうなってるのか、知らないですが時々文章が装飾的、詩的な感じでした。
地下と地上と魔女と権力争い…ファンタジーな要素が盛り込まれてて面白かったです。
少しダークなのも良かった