紙の本
映画で学ぶ、英国文化論
2008/10/26 00:49
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投稿者:読み人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
私、昔は、ハリウッド映画に首ったけでした。
封切の映画は、話題作は殆ど見ていました。
名画座の三本立てまで見ていました。
面白くなさそうな映画でも話題作は、「どんな風に、面白くないか」知るために
無理してみていました。
(勿論多くが面白い映画なのですが)
そして、歴代アカデミー作品賞の質の高さに惚れまくり、その映画もみんなに薦めまくっていました。
ところが、あるときから、ハリウッドの映画戦略というか、
商業戦略というものが、作品からすけて見えるようになり、
ハリウッド映画から遠ざかるようになってしまいました。
(古いハリウッド作品の名作まで見て、一応一周したという面もあるかもしれません)
そのころ、ぴあの映画の年鑑(毎年発売され、電話帳みたい)片手に見ていたのが、
イギリス映画です。
頑張って、(無理して)見ていた面も幾分はあるのですが、
ハリウッド映画から離れたいのだけど、やっぱり同じ英語圏の作品を見てしまう
度量の狭さと悲しさもあるわけですが、そのハリウッド映画と全く非なる価値感、
それでいて、一応英語ということで、頑張って(我慢して)見ていました。
J・アイボリー監督の「眺めのいい部屋」とか、
英国、美少年ホモ映画だった「モーリス」とか「アナザー・カントリー」とか、
なんかよくわからないけど、ぴあが薦めていた、
ビデオから映画になった「マイ・ビューティフル・ランドレット」とか、、。
これらの、作品がなんときっちり載っているのが、
本書「スクリーンの中に見える英国」です。
本書、実は、映画論の本ではなく、どちらかというと、英国の文化論、社会学論です。
英国映画、若しくは、英国を扱った映画から英国の社会、その文化、歴史、を語ろうというものです。
映画に対する解説も俳優の演技の関する記述が多いかなぁ、、、と。
又、普通、映画論の本となるとどうしても、その著者の青春時代の映画を
多めに扱ってしまう傾向があるのですが、この方は、大変フェアです。
戦前の映画から、60年代、70年代、割と新しめの「日の名残り」や「ベッカムに恋して」なんかまで扱っています。
この辺はえらいなぁ、、と。
見ている映画はいいのですが、見ていない映画は、あらすじを追うのが、ちょっとツライときも
ありますが、ポイントとともに紹介されているので、判りやすいと思います。
英国の文化論となると、ここで書くには、スペースがなさ過ぎるのでやめますが、
簡単に書くと英国の文化というのは、
大人の文化というか、やせ我慢の文化、根性の文化(これは、誤解があるとおもいますがあえて書きます)
だと思っています。
この本読んで思ったのですが、
実は、英国の文化は、非人間的な文化かもしれません。(別にひどい社会だ、という意味ではありません)
(社会という組織など、組織である限りどの社会も非人間的かもしれません)
(「日の名残り」でも、バトラーがいるとその部屋は、より空虚(emptyという言葉を使っています
非人間的と訳しても意訳じゃないでしょう)なると言われていますから)
だからこそ、人間的にいきるという意味で、ギャップが生まれ、文学性が生まれるのかもしれません。
しかし、この本のように実際に映画の中から英国文化を語るのは、カリカチュアされ
ステレオタイプすぎると本当の英国人はいうかもしれません。
(そう著者の方実際文章内でが、反省されているところもあります)
しかし、もっとも手っ取り早く英国文化に触れる方法であることは、間違いないと思います。
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勉強になるうえ、読みやすくて面白い!
大好きな『炎のランナー』の詳しい解説がのっていて嬉しかった。
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ヨーロッパの映画を見るきっかけとなった本です。
大学の講師の方が書いたもので、実際に授業にも使っていました。かなりのボリュームですが章ごとにまったく違った作品を紹介しているので分けて読むことができます。
イギリスや他の欧州の国の映画はもちろん、文化や国民性といったものを割と分かりやすく面白く紹介してくれます。アンチハリウッドの人にはお勧めしたい一冊です。
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イギリス映画はお好きだろうか。ハリウッド製の映画と比べれば、とにかく地味。筆者もしつこいくらい強調しているが、やたらと暗い。フィルムの色調もそうだが、ストーリー展開も、わざわざ映画にする、というくらいべたな日常をこれでもかというくらい描ききるので、当然ハッピーエンドは来ないし、「それでも人生は続く」式の結末にはあまり救いというものが感じられない。はやりの癒し効果は期待する方が無理。何のために入場料を払ってこんな映画を見にきたのだろうと、ハリウッド映画を見慣れた観客なら思うかもしれない。
しかし、そこはそれ、蓼喰う虫も何とやら、一度イギリス映画にはまると、ハリウッド製映画なんか見られなくなるくらい奥が深い。筆者もその口らしいが、読んでいて、これも見た。ああ、これも好きな映画だと何度も思ったこちらも、結構イギリス映画好きらしい。灰色の空にくすんだ煉瓦の建物、澱んだ水たまり、鶯の糞のような色をしたカーディガンか何かを羽織った器量のよくない女、とどこまで挙げていっても人好きのしそうな要素のないイギリス映画なのだが、好きなんだなあ、これが。ジェームズ・アイヴォリーやケン・ローチといった今の監督作品ばかりでなく、『わが命つきるとも』や『土曜の夜と日曜の朝』などの懐かしい名作にも目配りを忘れない筆者の心遣いがうれしい。
筆者は外語大を出てオックスフォードに留学を果たしているイギリス文学者。映画はよく見ていると思うが専門家ではない。どちらかと言えば舞台の方が好みらしい。だから、映画的手法についての解説は皆無。厳密に言えば、ここにあるのは映画批評ではない。映画を通して見たイギリス的なものの解説と考えれば一番近いかもしれない。役者の演技も舞台役者には点が高く、生え抜きの映画人には辛い。チェックポイントは英語の台詞回し。クィーンズ・イングリッシュかそうでないか、中流階級のそれか、ワーキングクラスのそれか。まことにイギリスは階級制度の国。階級によって話す英語がちがう。
各部十章仕立ての四部構成。第一部はその暗さ、階級意識、ユーモアという英国的なるものを解説。第二部は歴史を、第三部はインドを含むイングランド以外の英国領について、第四部は現代イギリスについてといういかにも大学の先生らしい本格的な論文仕立てになっている。二段組み550ページという体裁もあって、ちょっと気圧される感じもするが中身はいたって読みやすい映画エッセイ集になっている。
筆者によれば、ハリウッド映画は夢を売るもの、イギリス映画はドキュメンタリーの系譜を引く現実を描くものと大別される。さらに、その現実だが、一つの国の中に二つの国があるとされる階級差の問題がある。王族、貴族を主とする上流階級というのはごく少数だから、歴史物には登場しても現代の映画にはまず無縁である。となれば、後は中流階級と労働者階級に分かれる。その中流階級が上層、中層、下層の三種類に分かれるというからややこしい。まあ、一億総中流意識を持つと言われる日本人のほとんどが下層(ロワー)中流階級に属するといったら、だいたいの見当はつくだろうか。
世界の映画産業がハリウッド製映画に席巻されている現実がある。きわめて大衆的な娯楽である映画はそれだけに人々にものの考え方を刷り込む働きをしている。ハリウッド映画における、がんばれば誰でも成功するといったアメリカン・ドリームの無邪気な称揚、どんな映画でもハッピー・エンドといった御都合主義の結末は大衆から本当の現実を見る目を奪い、アメリカ流のイデオロギーを喧伝しているのではないかという筆者の指摘はその通りである。
イギリス映画は、たしかに暗い。下層階級の救いようのない現実を砂糖をまぶさずに描いてみせるのだから当たり前だ。しかし、恨み辛みばかりを投げつけるのではなく、そういう自分たちの姿を一歩下がったところで冷静に見つめることで自分たちを笑う余裕を見せてもいる。どこかの国のように自国の歴史の恥部を見つめることもできず「自虐史観」だと騒ぐ子どもっぽさは微塵もない。最早大英帝国の栄光を望めないことを知っている大人の国イギリスに、われわれが学ぶことは多い。
一つ一つの映画についてのあらすじや役者の紹介に加え、筆者の感想が附された丁寧な解説、何より日本ではあまり評判を呼ばなかった佳作についても広く紹介の労を執ってくれているのがうれしい。詳細な注、フィルモグラフィーも完備された、これ一冊あればすべて分かるといった格好のイギリス映画手引書である。
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全四部各10章の構成で、英国なるもの、文芸・歴史、UK内の各国、インド・移民、現代のイギリスらしさと幅広いテーマの映画が紹介されている。英国映画はドキュメンタリーの系譜に連なり、厳しい現実に正面から目を向けつつも一定の距離を保ち、安易な盛り上げや解答のような結末を避けるという指摘は鋭い。イギリスの階級意識がなくならないのは異なる英語を話しているからという説は興味深かった。それにしても、紹介されている映画、わりと観ていたなあ。「秘密と嘘」はけっこう好き。