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紙の本

私生児マリアのシンデレラストーリー。中世イングランドが舞台のロマンス。

2005/08/08 15:03

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:三度目の正直 - この投稿者のレビュー一覧を見る

1ページ2段方式で全284ページ。そこそこ厚みも分量もある本だが、中身は更にその2倍はあるんじゃないかと思うほど、ボリューム満点の一冊だった。
デビュー作『薔薇と狼』でその実力を見せ付けたマーゴ・マグワイアは、中世イングランドを舞台としたロマンス作品を多く手がけるヒストリカル作家。さすが実力派だと思わせられるプロットの素晴らしさと、細部までこだわった描写に加え、生き生きとした登場人物たちも魅力にあふれている。
本書は『精霊の花嫁』のスピンオフで、前作に登場したカーカム卿ことニコラスがヒーローとして登場。
ほとんどのヒストリカルシリーズがそうであるように、一冊読み切り型なので、前作を読んでいなくても問題なく読むことが出来る。こちらを読んで気に入ったら前作を読んでみるというのも悪くないと思う。
時は1429年、イングランド。
伯母の家で召使いのように暮らしてきたマリアは、偶然耳にしてしまう。実は自分はある公爵の娘であり、亡き母の所領も継承できるらしいと。自分には本当の居場所があるんだと希望を持ち、マリアは馬に跨ると伯母の家を命がけで飛び出し、所領だというロックベリーを目指す。だが途中で、猛スピードで走ってきた別の馬のせいで、彼女は落馬しケガをしてしまう。急ぐ彼女の行く手を邪魔したのはカーカムの城主、ニコラスだった。
お互いに相手には明かすことができない秘密があり、だけどお互いのその秘密には実は関連があったりして、そこらへんのつながりと話の流れが絶妙である。
出会ってからどんどん距離を縮めていく二人だけど、ちょっと読者置いてけぼりっぽく、お二人さんペースが速くないかい?なんて思っていたら、途中で前進がぴたりと止まってしまう。それどころか、二人の秘密が仇となり、話はおかしな方に転がり始める。事件、裏切り、救出・脱出劇と、特に後半は目が離せない展開で、最後まで失速することなくとても楽しめた。
甘美なホットなシーンが多いとロマンス部分だけが目立ってしまい、物語的に少しつまらなくなってしまうことが多いが、本書はロマンス以外の部分も読者の気を十分に引く内容になっていて、時代・歴史小説としてもロマンス小説としてもとてもバランスが良いと思う。
そして、1429年といえば、ちょうどあのフランスの救世主ジャンヌ・ダルクが活躍した時。敵であるイングランド側から見た、活躍する彼女の話題もちらちらと随所で出てくるので面白かった。
目標は、「目的意識を持ち、活力に満ちた芯の強いヒロインも描くこと」だという著者。私からみると、もう目標達成しているように思えるが、今後、マリア以上にますます魅力あふれるヒロインに出会えそうで、ますます次作が楽しみである。

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