紙の本
家の教えを守った少女の悲話、そして「常野」の力が持つ意味
2008/10/29 11:46
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:YO-SHI - この投稿者のレビュー一覧を見る
これは、泣かせる本だった。実を言うと、いよいよクライマックスというところで、ちょっと気になった場面があって、一旦は気持ちが落ち着いてしまった。それにも関わらす、気がつけば涙。ふいに目から涙がこぼれた。
本書は、不思議な力を持つ「常野」の一族の人々や歴史を表した短編集「光の帝国」の続編、いや関連本と言った方が良いかもしれない。主人公というか、語り手は宮城県の山村に住む少女の峰子で、彼女は「常野」の者ではない。
今は年を取って娘と孫と一緒に東京に住んでいる峰子が、少女時代を述懐する形で物語が綴られている。「蒲公英草紙」は、峰子が自分の日記に付けた名前だ。家の窓から見える丘に群れ咲くタンポポが、峰子の故郷の原風景なのだ。
物語の時代は、「新しい世紀を迎える」とあるから明治の中ごろか。峰子は、村の名前になっているほどの名家「槙村」の末娘の聡子のお話し相手としてお屋敷に上がる。そこには、様々な人が出入りし、中には長期に渡って逗留している人もいる。東京で洋画を学んだ画家、傷心の仏師、なんの役に立っているのかわからない発明家など。
そんな槙村の家を「常野」の春田の親子4人が訪れる。短編集「光の帝国」の「大きな引き出し」で登場した、人の記憶や思いを丸ごと「しまう」能力を持つあの一族だ。もちろん彼らの能力は、物語で重要な役割を担う。
彼らの力は今回も、大きく世の中を救ったり導いたりすることはないけれども、普通の人々の心を救うために使われる。「その力はこういう使い方をするのか」と、私は「常野」の力が持つ意味を得心した。
本書は、峰子の視点で槙村の人々を描き、「常に村のために」という「槙村の教え」を守った槙村家の悲話だ。そこに感動の、もっと言えば涙腺を刺激するツボがある。これだけでも本書の紹介として十分なのだが、蛇足と知りつつ、もう少し広い目で見て感じたことをいくつか述べる。
槙村は、水害に会いやすい土地らしい。現在でもそうだが、100年前ではなおのこと、自然災害の前には人々は無力だ。大きな水害に合うと、村が1つ壊滅してしまう。この時代はこんなにも人々の生活が危ういものだったのだ。未来を見ることのできる「遠目」の能力は、こんな時代には至宝とも言えるだろう。
しかし、その能力を以てしても時代のうねりには抗えない。語っている峰子の「今」は太平洋戦争の終戦の日なのだが、20世紀の前半分がどのような時代であったのかは知っての通り、戦乱の時代だ。「常野」の人々にはその予見はあったはずだが、どうしようもなかったのだ。
いや、そんな「時代のうねり」などという大げさなものを持ち出さなくても、「常野」の力が及ばないことがある。本書の悲劇もその1つだ。
紙の本
壮大な少女小説
2016/11/11 06:34
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投稿者:ひややっこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
登場人物がとても魅力的。というのは恩田さんならではかと思います。
少女が、少女の・・・というフレーズがとてもピッタリなこのお話し。少女小説としても読めるのではないかと思うのでした。
ちなみにこの本の装丁がイメージをよりよく喚起してくれます!!
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常野物語の20世紀版という感じで
あの戦争の重い空気が作品の奥深くに漂ってます。
でも、「常野」の人は相変わらずだし
「光の帝国」の話の流れは、この物語の中にもあります。
少しは常野の謎も明かされたかな?
本日発売だからこれ以上は言わないでおきます。
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今回はひとつの舞台に絞って長編になっています。不思議な能力を持った常野の一族の話だけれど、人間として大事にしたいことはみな共通しているんだと思いました。
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「光の帝国」みたいに短い話の集合かと思ってたのであれ?って感じでした。だからなのか、春田家の人が登場するまではちょっと読み進めるのがしんどかった。で、登場後は……もうちょっと長い話でも良かったかも。物足りない。
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舞台は20世紀初頭の東北の農村。旧家のお嬢様の話し相手を務める少女・峰子の視点から語られる、不思議な一族の運命。時を超えて人々はめぐり合い、約束は果たされる。切なさと懐かしさが交錯する感動長編。
【感想】
http://blog.livedoor.jp/nahomaru/archives/30210247.html#comments
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「光の帝国〜常野物語〜」の続編、というか過去編。引き出しに「しまう」能力を持った春田家が出てきます。
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この本は「光の帝国―常野物語」の第2弾ですね。前作の続きではないですが、僕の大好きな春田一家が出てくるので良かったですよ。話の展開は良い意味でつぼを押さえたマンネリ(よくある展開)で感動させられました。
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恩田陸という作家がいます。
最近結構有名な方だと思うのですが、皆さんご存知ですか?
私は恩田さんの書かれるお話が好きで結構読んだりします。
初めて読んだのは確か『不安な童話』だったかな?大学に入りたてのころだった気がする。
それまで、意識的にミステリィ小説を避けてきた私(だって、犯人がしりたくて、うずうずしちゃって、最後から読んだりしちゃうんです)が初めて読んだミステリィ。うん。まあ、最初はミステリィとは知らずに読んでいたんだけどね。
まぁ、何はともあれ、私は恩田さんの書かれる文章の「間」が好きなんです。
江國香織さんのお話は「空気」が好きなんだけど、恩田さんは紙の上に書かれた「間」の取り方がとても好きなんです。
例えば江國さんのお話では私は主人公に限りなく近い場所でお話を追っていきます。
だからこそ、江國さんのお話には匂いや手触りを感じれるんです。
でも、恩田さんのお話は完全に第三者として読んでいることが多いです。
私は、あくまでもお話の傍観者に徹するのです。
そして、恩田陸というストーリーテラーのお話にゆっくりと耳を傾ける。
恩田さんの小説の中でも『光の帝国〜常野物語』は私のお気に入りの一冊。
その待ち望んだ続編が、ついこの間発売されたのです。
早速、購入して読みました。久しぶりにあんなにどきどきしながら『物語』を読んんだ気がする。
常野物語の第二作目は『蒲公英草紙』という装丁が懐かしい気持ちにさせてくれるやさしい本でした。
時代は明治、人々がやがてくる「にゅう・せんちゅりぃ」に胸を躍らせていたころ。
峰子という少女が静かに語る、かけがえのない人々とすごした忘れられない夏の思い出。
峰子の優しい語り口は、まるで彼女が自分の目の前でこのお話を聞かせてくれているような気分を味わせてくれます。
でも、ただただやさしい気持ちにしてくれるだけの本ではないのです。
峰子が物語の締めくくりに語る独白は、胸に鈍く響きます。
やさしくて、せつない、陽の香りがする木綿のように素朴なお話です。
あの日に帰りたいと、一心に思ってしまう。
前作を知らない方でも、ぜんぜん楽しめますよ!特に児童文学が好きな人にはお勧め☆
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光の帝国ほどではありませんでしたが面白かったです。時代背景や言葉がものすごくツボでした。
泣く寸前までいきました。
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常野物語の第二弾。途中までは少し読みにくかったけど、春田一家が出できてからはあっという間に読み終わった。感動した。
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最近の恩田さんの作品は難解だな。でも相変わらず、女性の心理描写がすばらしい。美しいものとみにくいものがすごいバランスで交じり合っている。
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恩田作品の中でも、一番好きな本かもしれない光の帝国の続編。文庫落ちがどうしても待てず、図書館で予約60人待ちをしました。(申し込んだ時点で発行から2ヶ月位は経っていた筈ですがそれでも60人…) 今年読んだ本の中で一番泣いた。読みながら涙が止まらなかった一冊。未読の方には是非読んで欲しいです。
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タイトルにもあるとおり「常野物語」シリーズ本。前回の常野物語がとても好きだったので、今回の話も満足。ハッピーエンドではないけれど暖かさを感じる一冊。
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話が進むにつれ、あるべきものが、あるべきところにはまっていくという感じ。こうなるのかな、と思っても泣かされてしまう。
『ユージニア』とは裏表?回想と回想する時点の枠構造と、人物の配置が似ていて、中心にいる人の性質が反対方向。