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哲学者であり、日本古代史の研究者でもある梅原猛の生涯と思想を論じています。著者のやすいゆたかは、立命館大学で梅原の学問について講じているとのことです。
本書ではまず、画家・三橋節子を扱った『湖の伝説』が取り上げられています。著者は、三橋について語る梅原の背後に、若くして死んだ生母の千代に対する梅原の思いを読みとっています。また、『美と宗教の発見』における鈴木大拙、和辻哲郎、丸山真男への激烈な批判や、『地獄の思想』における実存的な立場からの日本文化論にも、若き梅原のパトスのありようをさぐっています。
そして、『神々の流竄』『隠された十字架』『水底の歌』によって確立された怨霊史観から、アイヌと縄文文化への注目、そして『法然の哀しみ』に見られる二種廻向論への共感に、生母千代との別れを克服しようという強い願いに基づく梅原の生命論を読みとっています。
梅原のパトスの根底に、生母の死があったという著者の主張そのものは、興味深いと感じました。ただ、対象である梅原本人に著者が憑依しているかのような叙述には、やはり戸惑いを覚えます。梅原の学問もそうした方法に基づいているというのは正しいのでしょうが、「評伝」を書くのにふさわしい態度とは思えません。
この点について梅原本人は、「この書には、たしかに梅原猛の霊が乗り移ったのではないかと思われる節もあるが、梅原猛の霊ではなく、梅原猛まがいの別の霊が乗り移ったのではないかと思われるところもある」と述べています。いかにも梅原らしい、ユーモラスな感じがします。