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◆日本軍のファナティックさの象徴たるべき「特攻」作戦を、数値と具体的事実の摘示を通じ、広い視野で数多の項目について論じていく。記録としての重厚さを強く感じさせるノンフィクション◆
2005年(底本1992年)刊行。
著者は龍谷大学経済学部教授。
日本軍のファナティックさの具体例として、先に「バンザイ突撃」絡みの書「日本軍と日本兵」を読破したが、もう一つの例が「特攻」である。これがどのような過程で戦術採用に至ったかを知るべく本書を紐解くが、やや本書の方向性とは違っていた(もとより全く触れられていないわけではない)。
本書は、特攻戦術の採用に至るまでの日米間の絶望的なまでの生産力差。日日戦争とも評される海陸対立の結果、資源分配や生産面の非効率性、構成部隊の分散配置による多数の遊兵の出現の招来。その結果生み出した作戦だったが、勿論その実施前に、特攻目的の兵器(「回天」や「震洋」の他、帰投着陸が出来ないように改造された爆撃機も)の開発過程も併せ叙述し、さらに具体的戦果(といっても豊穣とはとても言えない)と米軍の対抗策、そして一部搭乗員らの肉声(伝聞を含む)を叙述する。
数値摘示・具体的事実の摘示という著者らしさに溢れた一書である。そして戦死した兵士の名前をこれでもかと逐一列挙するあたりに、逃げ帰った将官ら、ファナティックに叫ぶ佐官連中、作成立案と実施へ舵を切った本部参謀への怒りを感じずにはいられない。
また、見た目が派手で動画が残存している航空特攻に限らず、その他のものもきちんと叙述しているのも買いの部分であろう。
なお、特攻攻撃を開始させない意見具申をした将官?がいた。それは単なる方便としてか、合理的判断に基づく反対意見としてかは判然としないが、様々な場面を想定して見せつつ、結論として特攻攻撃で敵艦船を一撃で沈めるには「1t爆弾」の搭載が必要であるところ、日本の航空機にそのような装備可能な機体はない、というもの。しかしそれが採用されることはなかった…。